軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

091話「獣人たちの後始末_01」

はっきり言おう、めっちゃテキトーなことを口から垂れ流した。

いや違う。クラリス・その場しのぎ・グローリアというわけではないのだ。ノリでテキトーな科白を吐いたのは確かにそうだが、まるっとまるごと嘘というわけでもない。完璧な嘘など存在しないのだ、完璧な絶望が存在しないように。

まあ……なんか丸く収まったっぽいので良しとしよう。

私は九尾の狐人カイラインの頭を踏みつけたまま、そんなようなことを考えていた。とりあえずのようにニヤニヤ笑ってはいたが、やたら感じ入っている獣人たちを見ると微妙な気持ちになるのは抑えられなかった。

他人の言葉を、真面目に受け取りすぎだ。

カタリナとキリナに組み伏せられて短剣を突きつけられていたレクス・アスカがちょっと泣いちゃったときなんて、さすがの私も良心が叫んだのだ。いいぞもっとやれ、と。……だって、たぶんもう見られないだろうし。

そんなレクス・アスカは一件落着の雰囲気の中、カタリナとキリナから解放され、のっそりと立ち上がり、衣服の裾で目元を拭ってから私に視線を向ける。

怨恨や憎悪は、なさそうだった。

元々が表情の薄い女豹なので、確たることは言えないが。

「クラリス・グローリア……確認しますが、カイラインの身柄を差し出すことで、我々の行いに対し、これ以上の追求はしないということですか?」

「謝罪は受け入れたと言ったぞ。賠償するつもりがあるなら、この狐をくれ。別におまえをもらってもいいが、それは獣王が嫌がるだろうからな」

ふふん、と偉そうに胸を張っておく。

しかしぶっちゃけた話、この状況でレクス・アスカを引き渡されても困るというか、必要なのはカイラインの方だ。

「のう、クラリス。本当にそやつの引き渡しを望むのか? お世辞にも性格の良い男ではないぞ?」

わざわざ近付いて耳打ちしてくる妖狐セレナに「知ってるよ」と頷き、なんとなくカイラインの頭に乗せた足を上下運動させてみた。

「あぎゃ。痛いですよぅ」

ついさっきまでは本性を表した黒幕みたいな態度と口ぶりだったくせに、打ちのめされた九尾の妖狐からは反抗の兆しすら見当たらない。

うーむ……演技なのかも知れないが、あるいはユーノスがぽっきりと心を折ったせいかも知れない。別にどちらでもいいが。

「一応、当人に確認もしておこうか。カイラインだったな、おまえの身柄を私たちが引き取る。判りやすく言うと、殺したり痛めつけたりする代わりに、私たちのために働いてもらうってことだ」

「ええ、ええ。もちろん構いませんよぅ。どちらかと言えばお願いしたいくらいです。獣人たちはレクス・アスカよりもむしろ私を恨むでしょうからね」

「残ったところで居場所がない、か?」

「そんなもの、作ろうと思えば敵地にだって作れますが……クラリス・グローリア、貴女に頭を踏まれていた方が、女豹と協力するより面白そうです」

くふふ、と笑うカイライン。

めっちゃ気持ち悪い。私はとりあえずこいつの頭から足を退けることにした。

「では――終わりにしましょう。やることが山積みです」

レクスが言って、曖昧な顔をして突っ立っているプラド・クルーガへ視線を向ける。二人の視線が絡み合い、どちらともなく頷き合って、

新たな獣王が戦の終わりを、大声で宣言した。

◇◇◇

今回のこれに関して、獣王軍と『反獅子連』の戦そのものは主題というほどのメインイベントでは、実はない。

通過点、という表現が近いだろう。

絶対に通過しなければならないポイントである以上は限りなく重要ではあるが、とにかくレクス・アスカの読みと策、カイラインの指揮誘導がうまいこと嵌まったおかげで――無事にランドール・クルーガを殺しきった。

戦が終わり、戦場に出た獣人たちは各々の戻るべき場所へ戻り、彼らの口から仲間や非戦闘員の獣人へ新たな獣王プラド・クルーガの誕生が伝えられた。

これがロイス王国だったら……まあ、王族の代替わりについてはちょっと想像しにくいが、たぶん王城の演説用のバルコニーなんかに新王がたち、民が大広場へ押し寄せ、尤もらしい演説をしたりするのだろう。有力貴族には事前に伝えられていて、新王の演説を機に正式な戴冠として記録されたりするわけだ。他領へは貴族たちが新たな王の誕生を喧伝し、国内の景気がちょっと上向きになるような気がする。まあ、祝福された戴冠であればだが。

そういうのと比べると獣人の領域における獣王の代替わりは、実に質素というか簡素というか、大々的な喧伝はなかった。

「やることが山積みなのです」

獣王の都のレクスたちの住処――例の寄宿舎に人員を並べたレクス・アスカは、相変わらずのぼんやり顔でテーブルを叩いた。

本来ならドンと音が響いてもいいのに、ペチ、という悲しい音がした。

集められた面々はプラドを含めて微妙な面持ちになっていたが、もちろんというべきかロリ巨乳の女豹は気にしない。

「まずは獣王国の体制の確立。ランドールの統治とはつまりランドールの気分でした。プラド様の統治はどのようなものにしたいのですか?」

「親父のような暴虐がない国……というのは、望む答えではないか」

プラドはやや首を傾げながら言う。

ふむ、と女豹は表情を変えずに頷く。

「ランドールと同じ統治をしていたとしても、プラド様であれば暴虐は行わないでしょう。統治の仕方、仕組みを変えるのです。というより、既に変わっている」

「プラド様はレクスの意見を聞いてるから、か」

「……人の意見を聞いて、プラド様が決める……っていう方法?」

狼獣人の女戦士リル・リグリィルがなるほどと頷き、兎獣人のルーチェ・ルビアが確認する。レクスはこくりと首肯した。

「同様に、プラド様が『こうしたい』と思ったことは誰かに相談する、それに対して我々は意見を言う。その意見を聞いたプラド様が決断をする」

ランドールなら面倒くさがって絶対にやらないだろう。

が、権力というものはある程度まで縛られておいた方が、それなりに上手く回るものなのだ。現代日本で言うなら三権分立とか。

もちろん、どんな政治だって完璧に上手くいった試しなどない。よってプラドやレクスの執政が完璧に上手く機能する確率はゼロである。

なんて――そんなものは単なるレトリックでしかなくて、今より良い方へ進もうとする意思が大切なのだ。そもそも誰も恒久的な平和なんぞを求めていないし、完全な政治体制を作ろうともしていない。

一歩、進もうとしている。

そういうことだ。

「ひとまずは合議制とでも名付けましょうか。この合議制を取りたいと思います。異存はありますか? ないのであれば、次に――」

テキパキと話を進める女豹である。

生き生きしている、と言いたいところだがレクスの表情はやっぱりぼんやりしたままで、あのとき血塗れの草原で涙を流したのが嘘みたいだ。

ともあれ、合議は続く。

新たな獣王プラド・クルーガの周知と共に、獣王の臣民をリストアップするのが第一目標。リーフ・リーザのような行商人に獣人の戦士をつけて領域を巡り、いうなれば住民票を作成するわけだ。

どんな集落があり、どんな獣人がいて、どういう集団になっているのか。

また積極的に獣王の民となっていない獣人たち、獣王の統治がまるで届いていなかった――スーティン村がそうだったように――集落なんかも巡ることで、獣王プラドの周知と住民票の作成をこなす。

さらには獣王の都に暮らす者たちの仕事の割り振り。

これまでランドールの下で、なんというか大雑把に集まっていた獣人たちに役職を与え、立場とそれに付随する裁量を振り分ける……ようは組織化だ。そんなこともできていなかったのは、逆に言えばそれをせずとも獣王のカリスマが大きかったということだ。ランドールが一声掛ければ『野郎ども』は集まったし、あれをしろといえばそれを実行するために東奔西走せざるを得なかった。

全くもって非効率。

それでもよかったのだろう、これまでは。

それではよくないのだろう、これからは。

「クラリス・グローリア、貴女からは、なにかありますか? 提案が聞きたい」

ふと、レクスが私に振ってくる。

集まった面々も興味深そうに視線を向けてくるので、特に意味もなくにっこり笑っておいた。いい感じに場違いだっただろう。

「ふたつ、ある。ひとつは忘れてることだ。そろそろ戻って来ると思うから、それは後回しにする。もうひとつは、獣人の領域の各地に塔を立てるべきだな。塔を立てて、文官を増やして、塔の場所に町をつくる」

「塔? 背の高い建築物ですね。それは、何故……いえ、ちょっと待ってください。文字と文官……なるほど、面白い」

答えを言う前に一人で納得するレクスである。

「あー……すまんがレクスには理解できても、俺たちにはピンと来てない。塔と、文字と、文官。それに塔の町か。どういう意味だ?」

「カイライン、答えてやれ」

なんとなくというくらいの理由で家来に収まった九尾の狐人へ振ってみる。

「へぇ!? いきなりですねぇ。ええと……はい、はいはいはい。これは面白いですねぇ! よろしいですか、獣王。それに獣人諸君。我々が今こうして意思疎通できているのは、なにを使っているからですか?」

「そりゃあ……言葉だろう」

言わなきゃ判らんからな、とプラド。

カイラインは満足そうに頷く。

「そう、言葉です。では離れた場所にいる者と意思を疎通させるには、どうすればいいでしょうか。ちなみにレクス・アスカは配下に行商人をやらせることで各地の情報を仕入れていましたねぇ。行商人に言伝をしておけば、意思を伝えることができる。行商人が言伝を受け取ってレクス・アスカに戻せば、意思の疎通ができるわけですね。まあ、ほとんど情報収集が目的だったのですが」

「どうって……ああ、そういえば人族は手紙を送るんだっけ」

答えたのはリル・リグリィル。

狼獣人の女戦士である彼女は、よく考えると『狼族の四大氏族』には入っていなかったし、剣という武器も持っている。なんかあるのだろう、いろいろ。

「ハーピィに手紙を持たせて『塔』を目印に運ばせる。文字による意思疎通ですか……ハーピィに言伝は無理ですし、あまり重いものも運べませんが、手紙の運搬なら可能……そういうことですね」

「面白そうだろ」

実現できれば、人族の一般的な情報伝達よりも早い通信手段になる。

まあ、ロイス王国の上層部あたりでは魔法による通信が使えるらしいが、一般化されていないのをみるにコストが高いのだろう。

「確かに、面白いな。考える価値がありそうだ。例えば何処かの集落が人族や魔族に襲われるような事態があっても、意思疎通の早さがあれば、後手を緩和できるだろう。それに先手を打てる場面も多くなる」

「ハーピィたちも面白がると思います」

「『塔』から『塔』へ手紙を送る遊びだと教えれば、楽しむだろうな。褒美の食い物をくれてやれば、むしろ喜んでやるだろう」

乗り気になるプラドや他の面々。

近くに座っていたカイラインがめっちゃドヤ顔してきたので、無言であごをしゃくってセレナに頭を叩いてもらった。畳んだ扇子でゴツンと。

と、そんなこんなで会議を踊らせているうちに――ようやく戻ってきた。

ガエリコ村に残してきたレガロやジェイドたち、遅れ組が。

そう――まだレクス・アスカは知らないのである。

獣人が人族と交流を持つことになったなんて。