軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

シエナ様の昼食

「モニカ、ちょっといい?」

寝る前のひと時、シエナ様が別館に来るのは珍しい。寝室でマゼンダさんにお勧めされた本に、銀のしおりを挟みこんで、迎え入れた。ちょっとしたお茶を入れると実においしそうに飲んでくれた。

「最近、ちょっと、学園でね、悩みがあるの。」

「どうなさったんですか?」

そう言えば今日はちょっと元気がなかった。

「お昼ご飯が…食べられないの。」

半泣きのシエナ様に見つめられてキュンとしたが、話の内容はよく分からなかった。

「食べそこなったとかですか?」

今日は生徒会の面々で集まって、テラスで食べていたので食堂の中のことはわからなかった。昼食を食べながら報告をしていたのだ。生徒会には週に一度、こういった機会が設けられていた。ミランダ様ももちろんいたので、きっと今日のシエナ様のことはわからないだろう。

「あの、お父様についてたくさん話しかけられてね…、いつもはミランダちゃんとか、モニカとかが守ってくれていたんだなって…。」

なるほど。ミランダ様はあれでも有力一族の出だ。情報ならキュレス伯爵というのが常識だ。睨まれたら困る人は多い。ゲームでは…私が死んでいたという事実が分かったので、つまりはシエナ様は、公爵家に養子に入った可能性が高い。扱いとしては公爵令嬢。気軽に話しかける人は圧倒的に少ない。しかし今は男爵令嬢。立場が弱い。シエナ様の性格からも、話し掛けられたら真摯に対応しているのだろう。それならばどうするか。

それは未来の彼氏に丸投げでよくない?

「そうですね。お昼に落ちあいましょう。何とかしてくださるかと。」

「え、どうしたらいいの?」

「このモニカにお任せください。いい案があります。」

どや顔で笑うとシエナ様もニコッと笑ってくれた。

翌日。

朝一でやたら目立つ第三王子殿下一行にコンタクトを取った。

「おはようございます。少しお話よろしいでしょうか。」

「…、誰に、だ?」

「第三王子殿下です。」

こんなに礼を取って頭を下げているのだから、ご自分だとすぐ分かってほしかった。いつまで下げていればいいのかしら。

「とりあえず顔をあげてください。あなたくらいですよ、学園できっちり礼する方なんて。」

レオン様の言葉にやっと顔をあげた。第三王子殿下はいつ怒りだしてもおかしくない、そういう生き物なのだ。

「クセですので。」

「じゃあちょっと行ってくる。」

「あ、レオン様もご一緒で構いませんよ。シエナ様のことです。」

立ち上がった第三王子殿下が手を出していたが、教室の隅を借りるだけなのでエスコートは辞退した。なにぶん朝で時間がない。

「シエナ様が、周りの生徒に話しかけられすぎて昼食もままならないようなんです。」

「お父上の話か?」

「はい。ミランダ様やわたくしと食べることが多いのですが、そういう時は来ません。しかしお一人だと対応しきれず、ですので、殿下の執務室の隣の空き部屋をお借りしたく。」

第三王子殿下はお昼は当然、学園内にある王族の執務室にて食べていた。毒の可能性を考えてシェフも王宮からついていた。いつもレオン様とロイ様と食事なさっているのだろう。

「つまりシエナ嬢が一人で昼食をとっている部屋のとなりで、3人でわいわい食事をとれと?」

そういうつもりで言ったわけではないが、そうとったのなら仕方ない。

「いえ、お邪魔してはいけないかと思ったんですが、シエナ様お一人のほうがご心配ですか?」

本来なら学園に先に話を通すが、今回は第三王子殿下にかんでほしかったので、話を持ってきたのだ。わかっている癖に知らないふりをしているのはなぜなのか。

「シエナ嬢と一緒に食事をすればいいんだろう?それでその対価は何だ?」

鼻で笑われた。私はできるだけ皮肉気に見えるように全力で笑顔を作った。

「あら、あれだけの美少女と食事がとれますのに、対価など必要ですか?」

「いるだろう。労働には相応の対価がいる。」

「でしたらお隣のサロンでよいですわ。第三王子殿下に労働などさせられません。ただ執務室のお隣ですから、許可のある人しか使えないということにしてほしかっただけですわ。そこまでおしゃるのなら学園に許可をもらいに行きます。」

「待て。週に一度、シエナ嬢の様子を見に、モニカが来るならやってやってもいい。」

なんだその対価は。全然対価になっていなくない?それから掴まれた二の腕が痛い。

「腕が痛いので放していただいてもよろしいですか?…せっかくの学園生活、シエナ様の邪魔をしたくありませんので、辞退させていただきます。」

手を離されたので、今度は掴まれない位置に逃げた。具体的にはレオン様の後ろだ。背中の後ろで二の腕をさすっていた。

「まったく相変わらずだな、モニカは。わかった、隣の部屋にシエナ嬢以外は入れないように。」

「ありがとうございます。警備の観点からはいかがでしょうか?」

レオン様の袖を後ろから引くと、少し考えた後、鍵をしっかりかけてくださるのなら、と言われた。確かに公務の資料もあるだろうからそれは妥当だ。

「では本日の昼にも学園に許可を取り、放課後に少し様子を見に行ってまいります。少し騒がしいかもしれませんが、ご容赦くださいませ。」

「ああ、わかった。」

放課後、ミランダ様に、シエナ様、私の3人で第三王子殿下の執務室に向かった。部屋のカギは執務室の管理だ。学園からの許可も、シエナ様が他の人を入れないという条件で取れた。執務室の隣なのでうるさくしないよう、かなり言われた。

ノックをするとドアを開いたロイ様がにこりと笑った。

「あ、モニカ嬢、待っていました。」

「失礼いたします。お時間はかけないつもりです。今日は掃除をと思いまして。こちらは手伝いのミランダ様です。」

ぺこりとしたミランダ様に興味なさげな第三王子殿下が、ああ、とだけ答えた。

「皆さん、これからお隣をお借りします。うるさくもしないし、きれいに使うわ。」

「ああ。」

「鍵をお借りします。使うときはこの部屋にシエナ様が取りに来る形でいいでしょうか?」

「そうだな。どうせ昼しか使わないだろうから、それでいい。」

「わかったわ。」

失礼しますと退出して隣の部屋を開けた。こもっているが埃などはあまりなく、定期的に掃除はされていそうだ。

「ああ、緊張した。本物は雰囲気がピリッとしてるのね。」

ミランダ様がふあ~と静かにため息をついた。私も一緒にため息をつく。

「そうですよね。わたくしもいまだに緊張いたしますわ。」

「え?そうなの?私は平気だわ。お優しいの知っているし。」

「さすがシエナ様。メンタルまでお強いなんて。」

だってお優しいのは本当だもの、とぷくっとしたシエナ様が天使。思考がシエナ様可愛い、のほうに行く前に気を取り直す。

見回せば、布のかかったテーブルセットがあった。とりあえずご飯を食べるくらいなら問題なく過ごせそうだ。テキパキと布を剝ぎ、ミランダ様が布をたたむのをササっと手伝ってくださり、掃除を終わらせにかかる。隣の部屋にうるさいと悪いので、視線でほうきを指すと、ミランダ様はうなずいて掃き掃除をしてくれた。私はその間に水を張ったバケツとタオルで拭き掃除だ。正直ミランダ様はこの世界の誰よりも、指示なしで動いてくれるので、一緒にいて楽だ。出会ったばかりなのに阿吽の呼吸というべきか。

「ねえシエナちゃんはこのテーブルどんな角度がいい?」

「こちらが窓ですからこっちに椅子が良いでしょうか?」

ミランダ様と一緒に振り替えると、第三王子殿下が入り口にいたので一気に心拍数が上がった。ミランダ様がひえ、と小さく悲鳴をあげたのが聞こえた。

「ずいぶん息があっているな、そこの二人は。」

慌てて礼をしようとしたが、手をあげて制された。うるさかっただろうか?

「…騒がしかったでしょうか?申し訳ございません。」

「いや、様子を見に来ただけだ。何もないなこの部屋は。」

「でもテーブルも椅子もあるから大丈夫よ。」

「そうか。」

「それより見たでしょ、リチャード様。モニカったら最近、ミランダちゃんとばっかり仲がいいのよ。」

「ああ。ハンドサインとアイコンタクトで話を通していたな。お前たちは軍隊か?」

「それは静かにしようとしていただけですわ。」

「もう終わったか?」

確かに掃除は終わった。

「後はテーブルの向きだけですわ。シエナ様どちらがいいですか?」

「そのままでいいわ。ありがとう、なんか私が掃除する暇なかったわ。」

ヒロインに掃除なんかさせられないに決まっている。

「いえ、勝手にしてしまってすみません。では私たちは行きましょうか。シエナ様は鍵のルール作りなど、まだ御用などありますか?」

「いや、鍵はかけてくれれば他は問題ない。私たちがいないときは職員室に予備のカギを置いてもらおう。担任に預けておく。それより少し、ミランダ嬢を借りれないか?」

「はい?私ですか?」

突然声をかけられてびくびく答えるミランダ様が、こっちに助けを求めていたが、私にはどうにもできない。

「執務室でお話ですか?」

「ああ、付いて来てくれ。」

そんな~という顔をしながら執務室に連れられて行ったミランダ様を、シエナ様が不安そうに見つめていた。