軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

悪運

王族専用の控室の扉を開けて、ため息をつこうとし、呑みこんだ。

「リチャード君!逢いたかったわぁ!同じ王城に住んでいるのに全然逢わないんですもの!」

そこには王太子妃であるラペット妃がいた。声を聞いただけでリチャードの両肩は何か乗ったようにずしりと重くなった気がした。もちろん王城でもラペット妃のいるところにはいかないし、予定はずらすようにしていたから逢わなくて当然だ。それにしても扉の前にラペット妃の護衛はいなかったはずだ。

「どうやら部屋を間違えたみたいですね、失礼しました。」

「あらいいのよ!ちょっと座って行って!占いでリチャード君に言いたいことがあったから。婚約者のシエナちゃんに、伝えてほしいのよ~。」

さっさと退室しようとした足が、グイっと止まった。この人の唯一の長所である占いの話をされたら、話だけは聞いておいたほうが良いという結論になった。

「なんですか。」

しかしその場からは動かなかった。

「こっちに座ってよ。」

「ここで結構です。」

「いいから。そこは扉に近すぎるわ。」

そう言われれば、ラペット妃の向かい側に座るしかなかった。扉の外の気配はロイだけだが、それだけとは限らない。彼女はテーブルの上にある、バラの花びらの入った水差しを傾け、コップに二つ注いだ。

「まずね、シエナちゃんに。このままリチャード君と仲良くしてねって。年明けからあの子のことが気に食わない勢力が、シエナちゃんを貶めようとするのよ。リチャード君はシエナちゃんをしっかり守ってあげてね。過去を断ち切るのがポイントね。シエナちゃんは魚の髪飾りを用意するのがいいわ。」

「そうですか。」

相変わらず気の無い返事をしていたリチャードに、それでもラペット妃は微笑みかけた。

「それから。シエナちゃんの友人に。えっと、なんて言ったかしら、あのお友達。ドレスト家ではなくバーン家の子のほうが結婚するならいいよって伝えて。これはもう何か月も前の占いなんだけど、迷っているなら一応。」

「そうですか。」

「ねえ聞いてよリチャード君、シエナちゃんのお友達の占い結果ね、違う相手と結婚したら、お友達がね、監禁されちゃうのよ。手紙も送れないし屋敷から出られないし、もう私、占いしながら怖くなっちゃって、でも連絡先も知らないしどうしようって思ってたのよ。どうやらバーン家の子と結婚するみたいだから安心しちゃった。」

「そうですか。」

シエナのお友達と言えばあの、ミランダ嬢だ。彼女の婚約者はモニカとも仲のいいライオルト・バーンで、ミランダ嬢と婚約しなかったらリチャードの心のブラックリストに入れる予定だった。

「それから、リチャード君の前の婚約者の、えっと、なんでしたっけ?えっと、黒髪の子。」

「モニカです。」

胸がドキリと高鳴った。それを悟られてはこの人に何か言われるかもしれないので、表情には出さないよう努力をしていた。

「そうだっけ、その子がね、悪運が強いわね、『今回も』殺されなかった。」

「今回も?殺されなかった?どういうことです?まさか夏に遭ったあの事件の時、めぼしい占いはなかったと報告されていましたが、あったんですか?」

「大したことじゃないでしょ?貴族子女が攫われるというのと、殺される確率が一番高いのがあの黒髪の子だったってだけよ。もう婚約者でも何でもないんだから、貴方が気にすることないでしょ。それより広場での魔物化現象のほうが被害が大きいわ。」

目の前が真っ赤になった。確かに婚約者でも何でもないが、前はモニカの身を案じて、何度か占いしていたではないか。それでリチャードに何度も婚約解消を勧めてきたりもしていた。

「8月には、その占いがあったと?」

「ええ。前日まで死ぬ確率が高かったの。でもね、事件があってからすぐに占ったら、無傷で帰ってくるって結果になったのよ。だから問題ないのかなって。」

「それで、今回何を占ったんですか?」

「うん、大事なものを見極めるのが重要ね。本当に大事なもの、一番大事なもの。それに従って歩んで行けば、貴方の後ろに道ができる。」

そう言ってリチャードの前に水を差し出した。

先ほど柄になく頭に来ていたので、リチャードは思わずそのコップを掴んだ。すっと口に運ぼうとしてからぴたりと動きを止める。相変わらずラペット妃はニコリと微笑んだままだ。

「リチャード君、一度離れた心を取り戻すことはできないわ。貴方は諦めたほうがいい。」

ポケットを探って、四つ折りになっている布をテーブルの上に出した。そしてその上にコップを乗せた。

「シエナちゃんと幸せになる、そのことだけ考えたら、貴方の将来は明るいわ。」

ゴトリと音を立てて、コップが倒れた。

「何を入れたんです?」

それにもラペット妃は微笑みを返した。

「どうされました?」

ノックもせずにロイは躊躇なく扉を開けた。王太子妃に対してあまりにも失礼な行動ではあるが、何かあってからでは遅いのだ。テーブルの上にある、布の上でひっくり返った飲み物を見て、ロイはすぐさまラペット妃と立ち上がっていたリチャードの腕をつかみ、間に割り込んだ。

「大したものじゃないわよ。」

そう言っていまだ彼女は微笑んでいた。