作品タイトル不明
整理整頓
もう今年も終わろうとしている。
毎年恒例の新年会のパーティが迫っていた。今回ほど楽しみだったことは過去一度もなかった。なぜなら久しぶりにレオン様にお会いできるからだ。本当はやらかしの記憶が残っているが、それよりもお会いしたい気持ちのほうが強かった。昔は夏から新年まで会わずに過ごしていたというのに、すっかり学園での生活に慣れてしまった。会ったら何を話そう、お元気かしら。私がそんなことを考える日が来るとは。しかもそれが攻略対象であるレオン様だなんて。しかし今よく考えれば、昔からレオン様と本の話をするのは楽しかった。幼少期の数少ない、いい思い出だ。
レオン様が領地に戻って、自身の気持ちを何度も反復してみた。
やらかしについても思い出しては悶えていたし、お風呂場でお湯に顔をつけながら叫んだりしていた。そのくらい後から考えると恥ずかしいことをしてしまった。あの時に戻れるならレオン様の記憶を消去したいくらいだ。
それが無かったら、素直に、純粋に、ただ、久しぶりにあの真面目眼鏡に会いたいと思っていた。胸がぎゅっと苦しくなった。実は学園に入ってから、よくお話をするようになってからは、そうなることが多かった。必死に違う、気のせいだと否定していたが、2年になってから、シエナ様と第三王子殿下の様子を見て、なんだか肩の荷が下りたというか、勝手に背負っていたものを下ろした感覚になった。そうして生活するうちに、自然と一緒に過ごす機会の多いレオン様に淡く惹かれていったのだ。小言は多いし、生真面目だし、なんでこのヒト?と自分でも思ったりもするが、好きになってしまった。そうでなかったらきっと、レオン様の婚約者に対してあんなに腹は立たないし、お兄様に対してあんな評価にならない気がする。私の大事な幼馴染で、大切な人だから私はあんなに腹に据えかねたのだ。自覚してしまうとあれもこれもと心当たりが出てきて、顔から火が噴きそうだ。
それに彼のいない学園生活はいまいち味気ない。
「モニカ先輩、最近つまらなそうですね。」
ライオルト様と仲睦まじく、学園が休みの日にバージェス騎士団の工房に来たミランダさんにそう指摘されてしまった。
今リッティーさんが腕を振るっているのが、このバージェス騎士団の剣や銃、盾や鎧のメンテナンスをしている工房だ。バージェス家では領地で一からそれらの騎士団で使う金属製品を作り、一人一人に合わせた細かい調整を王都の工房で行っていた。よって、職人たちを何人か雇っていたわけだが、そこの工房を間借りして、ミランダさんとライオルト様の婚約指輪を作ってもらっていた。
リッティーさんの襲撃の件は、話がなぜか王太子殿下まで上がって行ったらしく、収拾の見通しは立っていない。大きな体を縮こまらせて、なんでそんな大事になってるのよぉ~と嘆いていた。しかしさすが職人、指輪の話をしている時は生き生きと仕事をし、その繊細で細かな仕事で、バージェス家の職人たちから一目置かれていた。ちなみに店長さんもベッドで寝ているのが性に合わないらしく、動けるようになってからはリッティーさんとともに工房に通い詰めて、指輪のデザインを考えてくれているようだ。工房にいつ時の二人は楽しそうだったのでよかった。
「モニカ先輩、最近つまらなそうですね。」
話を戻そう。指輪の試作を何回か作ってもらっていたミランダさんが、私の顔を覗き込んで、そう言ったのだ。顔に出したつもりはなかったが、張り合いがないとは思っていた。
「それはそうだろう、レオン先輩がいないんだから、モニカ嬢がつまらなくて当然だと思うけど。」
ライオルト様が当然という口調でミランダさんに答えていた。ちょっと待ってライオルト様にもバレるくらいつまんなそうなの?私!
「え、ちょっと~モニカちゅんのそういう話聞いたことな~い~!誰だれダレなの?ライ君!」
「え、レオン先輩ですか?モニカ嬢と同じ生徒会で、剣技大会で優勝したお方ですよ!第三王子殿下の護衛もされていたんです。」
なぜかライオルト様が自慢げに答えていた。彼にとってあこがれで、自慢の先輩であることが端々に出ていた。
「それからモニカ嬢とは幼馴染なんです。…幼馴染に会えなかったら、つまらないですから。」
じっとミランダさんを見ながら答えたライオルト様に、目が合ったミランダさんは赤くなった顔を手で仰ぎながらそっぽを向いていた。ミランダさんのぎくしゃくはいまだ続いていたが、それでも少しずつ二人のペースを取り戻してきているようだ。
それにああなるほど、ご自分がつまらなくなってしまうから、私もそうだろうとそういうことね。
「あ、もしかしてモニカちゅんの、懐中時計の君?ああ~そっかぁ~騎士だって言っていたもんねぇ~。」
「ニヤニヤしないでください。」
そうそのレオン様がいないから、なんでリッティーさんの件が王太子殿下まで話がいったのかとか、そういう経緯が分からなくて困っていたのだ。あと情報の入手手段は第三王子殿下だが、話しかけたくないので却下だ。シエナ様に訊いてもらうのも、結局殿下が出てきそうな予感がするので聞けていない。バージェス公爵閣下も、殿下たちが動いているらしいとしか話してくれないので、お手上げ状態だ。
「んもう、照れなくていいのよ~ぅ。あ、モニカちゅんの懐中時計みたいに、金属を途中から合金にして色を変えてみる?」
そう言いながらグローブで指輪に金属の粉を振りかけたリッティーさんは、器用に指輪を加工していた。
「おお、相変わらずあんたスゲーな。」
自分の作業の手を少し停めて、年配の職人が声をかけた。
「も~みんなが褒めてくれるから最近私、綺麗になったかもぉ~。」
そんな冗談を言いつつ仕事は本当に繊細だった。リッティーさんのアクセサリーの技術は普段武具をいじっているここの職人さんたちには新鮮に映るようだ。私も知る限りでは合金にして強度をあげる、そういうことをやっていた人はリッティーさんしかいなかった。もともとあまり職人さんの知り合いがいるわけではないのだが。
「いやいや冗談じゃねえよ。もともとあんたも武具を作ってたんじゃねえのかい?その技術はアクセサリーのもんじゃねえよな。いや、繊細な透かし彫りとかはアクセサリーっぽいが。」
「ああ~、オジサマ鋭い。アクセサリーはね、ずっとやりたかったのよ。でも地方民が、上京してすぐに希望の職種で働けるわけではないでしょ?だからとにかく就職って思って言っていたのよ。」
手を止めずに金属を伸ばしている。
「前に勤めていた所のこと、悪く言いたくないけどかなり大変だったのよぉ。朝から晩までずっと合金の作業させられてぇ。銃とか剣の強度がいる部分ばっかり担当させられて大変だったんだから。」
「そういえば前の職場は大変、その、破天荒だったそうで…。どちらでしたっけ?」
「思い出したくないわあ。新緑商会の銃火器職人だったの。」