軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調査

クリス兄上が、先ほどディーン兄上から来た手紙を、そのまま父上に丸投げしていた。第二妃に伝ええてほしいと言って逃げるように馬車に乗った。勝手に結婚を決めた息子を、きっと第二妃は連れ戻すために躍起になるはずだ。最悪相手の娘を殺すために暗殺者さえ送るだろう。しかしそれはディーン兄上も分かっているはず。ならなんで結婚の報告なんて律義に送って来たのだろう。このまま黙っていればいいのに。

「浮かれているねえ、ディーン。ま、暗殺者なんて送らせないから安心して。」

「送らせないとはどういうことです?」

「つまり忙しくなっちゃえばいいんでしょ?後でなんか考えるよ。」

くすくす笑っている兄上の感情は、自分にはわからなかった。

「それより、結婚祝いだ。何を贈ろうかな、あ、どこに送ったらいいんだろう。」

暗殺者ではなく結婚祝いか。

「レスト王国の王女殿下に、日持ちのするものを贈れば渡してくれるんじゃないですか?」

手紙の書き方から、もうレスト王国王女殿下とは話がついていて情報を流したように見える。もしかしたら暗殺者についても何か案があって、大丈夫だから手紙が来たと考えてもよさそうだ。

馬車に揺られながら、何気なく外を見た。いつもならレオンがユニコーンのモカに乗って並走しているのに、今日は、これからはずっと、いないのだ。思ったよりも気落ちしている自分に、実は驚いている。何年か前からローファス伯爵に、レオンの兄のことは報告して改善するように言ってはいた。そしてそのベストな方法がレオンが後を継ぐことだということも分かっていた。そうするようにと進めたのは自分だ。

「ねえ、レオンのこと考えていたでしょ。」

「いけませんか。」

「うんん。もっとゆっくり考えなよ。今までずっと一緒にいすぎたんだよ、君らは。」

どういう意味だろう。一緒にいすぎとは。

「お前とレオンは違う人間で、考え方も、行動も違うってことだよ。」

今まで、レオンがリチャードの想像や予想の範囲外に行った事はなかった。事実今だって、文化祭後にすぐ帰るだろうと推察していたが、その通りになった。長年一緒にいたのだから、レオンの行動くらい読める。口を開こうとしたとき、馬車が止まった。ドアが開けられたので、口をつぐんで馬車を下りた。

「ここが彼女たちが乗せられた馬車があった倉庫?」

「はい。」

バージェス家の馬車はすでに撤去してあり、書類などは押収してあった。周りに積み上げられた木箱の中身は全て確認したが、武器、織物、茶葉など、比較的日持ちのする商品が詰め込まれていた。この中に、もしかしたらレストに渡った毒物があるかもしれない。それにもう一つ大事なものがこの倉庫にはある筈だった。『静かの海』商会の小さな事務所にはやけにしっかり書かれている、綺麗な帳簿しかなかったからだ。まったく汚れや折れ線などない帳簿だった。もう一冊『使用感』のある帳簿があるはずだ。

「ここにあるのは、新緑商会から『盗んだ銃』?ずいぶん盗られたね。」

クリスが入り口近くの事務所から一番手近な木箱のふたを開けた。中には箱がみっちり入っていて、その箱の中身は見事な装飾の入った銃だった。ナンバーは入っていないから申請前のものだろう。

「ええ。これだけ盗られていて気が付かないなんてことはありえないでしょうね。新緑商会との取引の証拠が見つかればいいんですが。」

新緑商会を敵に回すということは、バックにある、王国の食糧庫と名高いグリーン侯爵家を一緒に敵に回すということだ。グリーン侯爵家は中立派閥の中でもかなりの有力な家のため、王太子としても、クリスとしても、慎重に証拠を集める必要があった。

「とにかくこの倉庫のものは全部押収しよう。緩衝材の中とかも全部見ないと。毒物が出てくるかもしれない。」

かつかつこつこつ。机をあさって引っこ抜いて中を覗いていたリチャードのところに、クリスがやって来た。中にはゴミ以外何も入っていなかった。そういえばこの事務所の床は木がはられて、ところどころ修繕の後があった。修繕後の床を少し踏んでみた。適当に釘が打ちつけられており、踏むと床が浮いた。浮いた木を目線でおって行くと本棚に無造作に立てかけられている麻袋があった。中は茶葉を入れるための袋が詰め込まれていた。持ち上げてみるが、持てない重さではない。

「リチャード、どうしたの?」

「いえ、なんだか違和感があるのですが。なんで外で使う麻袋の束がこんなところにあるんでしょうね。」

事務所であるここは、商談したり、休憩したり、書類仕事をしたりと使われていたのだろう。麻袋を使う機会がない。

「ああ、それ、外にもあったよ。・・・どかしてみようか。」

袋だけなのにそこそこ重いそれをどかすと、本棚の下は引き戸の棚が出てきた。迷わずそこを開けた。

「何も入ってないか。」

「いえ、兄上、ここを見てください。この床、張替してあります。そしてここは部屋の隅にもかかわらず、あまりほこりが溜まっていません。」

張替の床をリチャードが踏むと、他の床よりも確実にすんなりと床板が浮いた。その床板を外すと、中には革袋に入った金貨と、帳簿、革ベルトが数十個、それから魔方陣の書かれた紙が入っていた。

「魔方陣・・・?なんでこんなものが?」

しかも全く見たことのない文字が書かれていた。禁書を含めて図書館の本をほぼ網羅したと言っても過言ではないリチャードが見覚えのない文字となると、それは外国の書物、とりわけ魔王国や遠方の国の物ということになる。まさか『静かの海』商会の一行が全くの行方知れずになってしまったのは、魔王国の何者かが手引きをした?北でのおかしな魔物の動きと何か関係はあるのだろうか。いやしかしいくらグリーン侯爵家とて、国境を接してもいない、交流の無い魔王国との何らかの取引など可能なのだろうか?仲介者でもいるのか?

「帳簿と金貨とこの魔方陣は良いとしよう、隠したいだろうからね。でもこの革ベルトは何?しかも数が半端ない。とにかくこれは押収しないとね。さて、この帳簿は何が書かれているかな。」

パラリとめくったクリスは思わずえ、と言って固まった。

「ラペット…?」

その名を聞いて、リチャードはぞわっと鳥肌が立った。しかしクリスにはバレてはいけない。どうしたんですか、と平静を装って話しかけ、帳簿を覗いた。

「グリーン領にある、屋敷ですか。」

「グリーン侯爵家から、一棟貰ったとは知っていたけど、なんでそれがここに載っているんだ?」

少しの間二人は押し黙った。物事を最悪のほうへ考えれば、思考はいくらでも悪いほうへと進んでいった。

数年前、『アノヒト』は急におかしなことを言い出し、発狂した。訳の分からない言葉を発し、リチャードが学園に通い出すまでは不安定だった。その後突然、落ち着いたかと思えば、相変わらず訳の分からないクッキーや、お茶などを作っては、リチャードに食べさせようとしていた。正直『アノヒト』はリチャードにとって理解の範疇外なので、考えないようにしていた節があった。しかし今思えば、あれらのクッキーの中には何か入っていたのではないか?『アノヒト』お得意の家に伝わる魔術で作ったもの、以外の何かが。

「どうしますか、兄上。」

「…、とりあえずこの帳簿は私が預かるよ。」

眉間にしわを寄せ、珍しく険しい顔をしていた。