軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第009話 皆、大変

俺はテーブルに置かれた275万円の札束を眺めながらご機嫌でビールを飲んでいた。

「やったぜ! 一気に金持ちになった!」

色々と問題はあったが、無事に回復ポーションをさばくことができた。

俺がご機嫌で飲んでいると、スマホから着信音が聞こえたので、見てみる。

『行きまーす。でも、ギルドに来てくださいよー。全然、来ないじゃないですか? 冒険して、終わったら一緒に飲みに行きましょう』

カエデちゃんだ。

さっき、ご飯に誘ったのだが、返事がすぐに返ってきた。

「早いな……」

カエデちゃんは接客の仕事のため、仕事中はスマホの電源を切っていると聞いている。だから、返事は夜だと思っていたのだが……

まあ、ちょうど休憩中だったのかもしれん。

「そういや、ギルドに行ってねーな」

さっき行ったけど、あれは俺ではない。

謎の美女、エレノア・オーシャンさんだ。

「レベル上げもしないとだし、行くか……」

俺はスマホを操作し、返事を打つ。

『じゃあ、明日か明後日の昼に行くわ。休みなら教えて。行かないから』

カエデちゃんがいないのなら行く意味はない……とまでは言わないが、専属だし、カエデちゃんと話すのは楽しいので、カエデちゃんがいる時に行きたい。

「俺、大学を卒業してから誰かと遊んだことも飯を食いに行ったこともないなー」

あっても会社関係だ。

よく考えたら彼女どころか友達すらいない……

そら、病みそうにもなるわ。

俺が自虐しながらビールを飲んでいると、スマホがピンコーンと鳴る。

カエデちゃんだろう。

他にいねーし。

『明日明後日は土日なんでギルドも飲み屋もお客さんが多いです。月曜にしましょう。火曜日は休みますんで』

あー……明日から土日かー。

自由業って、すげーな。

土日の感覚がない。

それにしても、冒険者って全然、見かけないと思っていたが、土日は多いのか……

その辺がよくわからんな。

今度、カエデちゃんに聞いてみよう。

俺はさらに返事を打つ。

『じゃあ、月曜日ねー。お店はどうする? 予約しようか? 高いところでもいいよ?』

金はあるのだ。

そう、275万もね!

『月曜ですし、予約は大丈夫です。ギルド近くの店にしましょう。連れていってあげます』

ギルド近く……

馴染みの店かな?

『わかったー』

『あ、着替えは持ってきてくださいね。普通の居酒屋ですけど、ジャージは嫌です』

そういえばそうだ。

言われなきゃ着替えを忘れ、ジャージのままで行くところだった。

女の子とご飯に行くのにジャージはない。

やべー、やべー。

『もちろんわかってるよー』

『20秒。ダウト』

時間を数えんなっての。

『ちゃんと持っていくよ』

これを返すと、返事もなくなり、既読もつかなくなった。

多分、仕事に戻ったのだろう。

俺はスマホを置き、ビールを一口飲んだ。

面白いものでカエデちゃんとメッセージのやり取りをしている時よりも美味しくなかった。

目の前に275万円があるのにもかかわらず……

◆◇◆

俺は土日の予定がないので無駄にポーションを作ったり、引っ越そうかなーと思い、アパートやマンション情報を見ながら適当にすごした。

その間のご飯はほぼコンビニ飯である。

本当は良い店に行こうかなと思ったのだが、それは火曜以降にする。

カエデちゃんとご飯に行くまでにそれを超えるものは食べたくなかったのだ。

そして、月曜の昼前、出かける準備をし、昼食のカップラーメンを食べながら部屋を見渡す。

部屋がぼろいのは仕方がないとしても散らかっていて、汚い。

大量のポーションがあちこちに置かれているからだ。

「うーん、無駄に作りすぎたな……」

捨てるのももったいないし、飲むか?

「どっちみち、カエデちゃんをお持ち帰りはできんな」

どれだけ酔っていても、この部屋を見たら色んな意味で酔いも醒めるだろう。

まあ、そんなことをする気もないが。

俺はカップラーメンを食べ終えると、着替えを入れたカバンと採取用の白いカバンを持ち、出発する。

そして、電車に乗り、ギルドへと向かった。

ギルドに着くと、受付にいるカエデちゃんのもとに行く。

「おいーす」

「こんにちはー…………」

俺はカエデちゃんに挨拶をしたのだが、カエデちゃんは挨拶を適当に返し、俺のカバンをじーっと見ていた。

「どったの?」

「いえ…………」

カエデちゃんがものすごく気の毒な人を見るような目で俺を見ている気がする。

「お前、その顔やめろ」

「ごめんなさい。それにしてもやっぱりジャージで来ましたね」

カエデちゃんは普通に戻ったが、やっぱりバカにしてくる。

「着替えは持ってきたから」

「いえ、そういうことではないです。これは私が説明してなかったことが悪いんですが、あっちに更衣室とシャワー室があります」

カエデちゃんが指差した方には部屋が2つあった。

男女の更衣室だろう。

言われてみれば、更衣室くらいは当然あるはずだ。

鎧や専用の服を着ないといけないし、汗をかくこともある。

俺はカエデちゃんに任せきりだったので、その辺をちゃんと見てなかった。

しかし、更衣室か……

女子更衣室……

俺は頭の中によからぬことが浮かんだが、女の場合だと、着替える服がない。

それどころか下着すら持っていない。

ダメだわ。

俺はすぐに諦め、着替えが入ったカバンを受付に置く。

「預かってて」

「いや、更衣室にロッカーがありますけど……」

「めんどい」

お金がないとは言わない。

金ならある!

そう、270万円も!

「まあ、いいですけど……今日もエデンの森ですか?」

カエデちゃんは俺のカバンを自分の足元に置くと、行き先を聞いてくる。

「だねー。まだ2回しか行ってないし、ウルフにも遭遇していない。多分、余裕だとは思うけど、段階的に進んだ方がいいかなって」

「…………そうですね。慎重にいった方がいいと思います」

カエデちゃんが少し変な顔をした。

「だから今日はちょっと儲からないかなー」

「まあ、最初は仕方がないですよ。慣れつつ、レベル上げです」

いきなり飛び級する必要はない。

金はあるんだ。

せっかく、儲ける手段ができたのに危険を冒すことはないだろう。

「じゃあ、2階に行ってからフロンティアに行くわー」

「2階? 武器屋ですか?」

「そうそう。刀を買う」

まあ、とりあえずは50万のやつでいいだろう。

「へー……本当にまとまったお金が入ったんですねー」

「そうそう! だから今日は奢ってあげる!」

「ありがとうございます。ちなみにですけど、そのお金、どうしたんです?」

ど、どうしたんです?

…………マズい。

この質問は想定していなかった。

「………………………………」

無言になってしまった。

「ハァ…………宝くじでも当たりました?」

それだ!

「それそれ」

「ですかー。良かったですねー」

なんで棒読み?

「そういや、預けているショートソードはどうしよかな? 売れる?」

「売れますよ。でも、予備に持っておいた方がいいです。皆さん、そうされています」

へー。

「二本差しでいこうかな?」

「邪魔では? アイテム袋があると良いんですけどね」

アイテム袋とは見た目以上にアイテムを収納できる魔法の道具だ。

これはさすがに俺も知っている。

「あれ、高いでしょ」

「めっちゃ高いですし、企業や高ランクの冒険者がほぼ独占状態ですね」

一般市民は厳しいか。

じゃあ、ショートソードは預かってもらっておこう。

「ドロップするんだっけ?」

「しますけど、皆さん、お売りになられますね。便利ですけど、それ以上に高く売れます」

夢のある話だわ。

「もし、ドロップしたら売るわ。北海道にカニを食いに行こうぜ」

「いいですねー。ぜひ、頑張ってください」

カエデちゃんが嬉しそうにニコッと笑う。

「任せとけ」

「じゃあ、探してきてください」

カエデちゃんがそう言いながらステータスカードを渡してくれる。

「了解。あ、カエデちゃんのあがりっていつ?」

「今日は5時ですね」

そこから着替えたりすれば、ちょうどいい時間だな。

「じゃあ、そのくらいに戻るわ。そういや、ここって、何時までやってんの?」

「基本的には24時間です。泊まりで遠征に行かれる方もいますし、使うのは冒険者だけではなく、自衛隊も使いますから」

なるほどねー。

「大変だねー」

「ですね。まあ、夜はお客さんも少ないですし、夜勤もほぼないんですけどね」

ほぼ……

たまにはあるのか。

俺も夜勤の経験はあるが、あれは辛い。

そりゃ、愚痴も言いたくなるだろう。

「頑張って」

「先輩が頑張ってください。年収1000万円を超えてください」

1000万か……

ポーションを20個売ればいける。

余裕やんけ。

錬金術ってマジで金を作るんだな……

俺はステータスカードをカバンに入れると、2階で50万円の刀を購入した。

正直、50万円の割には質が良くないように見えたが、未知の鉱物でできているようなので詳細はよくわからない。

それでも念願の刀を手に入れたことに満足すると、ゲートまで行き、エデンの森へと向かった。

さあ、3回目のフロンティアだ!