軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第053話 スキルが欲しい

俺はタクシーから降りると、裏口に向かい、警備員に会釈をし、ギルドに入った。

そして、通路を抜け、受付裏に出ると、何食わぬ顔で歩き、ロビーに出る。

今日は月曜の昼だというのに珍しく、他の冒険者が数人いた。

俺は珍しいこともあるもんだと思いながらカエデちゃんのもとに行く。

「こんにちは」

「はい、こんにちは」

俺が挨拶をすると、カエデちゃんも挨拶を返してくれる。

仕方がないことではあるのだが、カエデちゃんはエレノアさんの場合はちょっと業務的な口調だ。

「今日は人が多いわね」

「5人で多いと言われるのが悲しいですが、そうですね」

おーっと、ごめん、ごめん。

でも、しゃーないだろ。

普段は俺ぐらいしかいないんだから。

「オークション関係?」

「多分……今日からですし、野次馬では?」

暇人だなー。

「まあいいわ。いつものところに行く」

人がいるので具体的な場所は言わない。

どこで漏れるかわからんし。

「わかりました。早く行った方がいいですよ」

カエデちゃんはそう言って、剣と杖を受付に置く。

この言い方はナナポンがすでに向かっており、ダイアナ鉱山で待っているという意味だろう。

「そうね。それよりもどう?」

俺はポニーテールを触る。

「結ぶことにしたんですね。お似合いですよー」

リアクションが薄いな……

「やっぱり似合ってない?」

「いや、似合ってますって。あのー、帰ったらネットを見てください。髪も結べないフロンティアのお姫様になってますよ…………」

ラーメン屋でクレアに言った冗談か……

誰か聞いて、信じたか?

「あほくさ。どう見てもお姫様ではないでしょうに」

魔女だぞ、魔女。

「まあ、噂は色々と尾ひれがつきますから」

そうかもしれない。

「まあいいわ。じゃあ行ってくる」

俺は剣と杖をカバンに入れると、奥にあるゲートに向かう。

そして、ゲートをくぐると、岩壁に囲まれた薄暗い平地に到着した。

ゲートのすぐ近くの小屋の前にぼろっちいテーブルと椅子があり、ナナポンが座っている。

ナナポンは顔を上げ、俺の方を見ると、顔がぱーっと明るくなり、走って、俺に近づいてきた。

「エレノアさん、こんにちは」

「はい、こんにちは。遅れてごめんなさいね」

俺は遅れたことを謝る。

「いえ、私も来たばっかりです。今日は髪を結んでいるんですね」

「ええ。やっぱり身体を動かすには邪魔だしね。大丈夫? ちゃんとできてる?」

「もちろんです。上手になられましたね。すごく似合っていますよ」

ほっ……

辛辣なブラックナナポンが言うなら大丈夫そうだ。

カエデちゃんはいい子だから世辞を言っている可能性がある。

「ありがとう。今日だけどね、スキルを習得しようかなって思ってるの」

俺はお礼を言うと、本日の冒険テーマを発表した。

「スキルですか?」

「そうそう。私達ってユニークスキルを除けば、1つだけでしょ? 私は剣術だけだし、ナナカさんも火魔法だけ。もうちょっとあっても良くない?」

「まあ、そう思ったこともありますけど、いります?」

いるの!

「この前ね、例の外国人2人のステータスカードを見たわ」

「どうでした?」

「ずらーっとスキルが並んでいたわね」

「要は羨ましかったわけですか……」

まあね。

「そういうわけでスキルを習得しましょう! まずはこれ!」

俺はカバンからクレアからもらった拳銃を取り出す。

「銃? エアガンですか?」

「いや、アメリカのエージェントから翻訳ポーションと交換したやつね」

「え!? 本物ですか!?」

ナナポンが驚いて拳銃を凝視した。

「そうね。ここじゃあ、私のエアハンマーが使えないでしょ? だから遠距離攻撃用にいいかなって思ってね。しかも、これを使えば狙撃というスキルが手に入るってネットに書いてあったわ」

「…………あのー、とっても言いにくいんですけど、フロンティアでは火器類は使えませんよ」

使えない?

「いや、そりゃあ日本では銃は違法でしょうけど、誰も見てないじゃない。こそっと使うのよ」

そもそも、そういう場所に来ているんだから問題ない。

「いえ、そういう意味ではないです。フロンティアに来ると、何故か火器類が使えないんです。もっと言えば、ヘリやドローンも飛ばせないんです」

………………なんか昔、そんなことを学校で習った気がしてきた。

「そうだったような…………気がする」

ということはあの情報はガセか……

「一説によれば、フロンティア人が地球の軍の侵攻を怖れているとかなんとか…………というか、銃でスケルトンを撃つんですか? 骸骨ですよ? もっと言えば、狭い鉱山の中ではやめた方が良いような気がします」

「……………………」

俺は無言で拳銃をカバンにしまい、剣を取り出した。

そして、鞘から剣を抜く。

「見て、ナナカさん。この剣の輝きを……」

俺は剣を掲げ、きらりと光る剣を見る。

「ハァ? きれい……ですかね?」

「私は物心がついた時から剣を振っていたわ。そう、剣こそが私の生きる道なの」

本当はこのショートソードじゃなくて、刀だけど。

「ですか……」

「良いものを見せてあげるわ」

俺はカバンの中から財布を出し、10円玉を取り出した。

そして、その10円玉を真上に放り投げる。

「ほー……」

ナナポンはマヌケ面で投げた10円玉を目で追う。

「刮目せよ!」

俺は剣を下ろすと、正面を向いた。

そして、タイミングを見計らい、振り上げる。

すると、俺の手には確かな感触が残った。

「どう!?」

俺はナナポンを見る。

「え、何が……?」

刮目しろって言ったのに……

「ちゃんと見てなさいよ……えーっと、どこかな?」

俺は地面を探し始める。

すると、草が生えていないのですぐに見つかった。

俺は10円玉を拾うと、ナナポンに見せる。

「どう!?」

「あ、真っ二つに切れてますね。すごいです」

反応薄いなー……

「よしわかった! あそこの岩を斬りましょう!」

ちょっとでかいがいけるだろ!

「わ、わかりましたからやめてください! すごいですよ! 銃なんていらないと思います!」

「そう? わかった?」

「はい…………沖田さんのことをバカって言ってた朝倉さんの気持ちがわかりました」

カエデちゃんはすぐに俺をバカにするからなー。

今度、怒っておこう。

「よし! そういうわけで筋トレをしましょう!」

「攻撃力が上がるってやつですっけ?」

さすがにナナポンも詳しいな。

まあ、俺よりも先輩だし、調べてはいるか。

「そうそう。基礎のやつね」

「いいですけど、私もですか? 私、魔法使いなんですけど……」

確かにナナポンはいらないか。

杖で殴るわけでもないし。

「魔法使いってどんなスキルがあるの?」

「魔力上昇とかです」

「威力が上がる感じ?」

「ですね。魔法を使っていれば、その内、身につくっていうのが定説です」

じゃあ、特にやることはないな。

鉱山の中では灯りの確保のために常時使っているし。

「ふーん、じゃあ、一緒に筋トレする?」

マッチョになろうぜ。

「あのー、エレノアさんって、攻撃力上昇がいります? あなた、全部一撃じゃないですか……」

「でも、スキルが……」

「正直なことを言えば、私も冒険者になったばかりの頃はそう思ってました。色々と調べましたし、修行もしました。でも、気付くんです。『これ、いる?』って。だって、エデンの森にしても、クーナー遺跡にしても、ここにしてもモンスターってそんなに強くないじゃないですか」

まあそうかも。

「でもなー……」

「私はかつて、ネットで質問しました。ロクに冒険者の知り合いもいなかったですしね。その結果、初心者ほどよくスキルを欲しがるってバカにされました。そういうのは後からついてくるもんだそうです。初心者は安全第一。そして、慣れつつ、レベル上げです」

うーん、掲示板で聞いたな、こりゃ。

多分、めっちゃバカにされたんだろう。

「じゃあ、今まで通り、レベル上げをしておけばいいの?」

「武器を絞ることも重要だそうです。まあ、私達は決まってますからこのままレベル上げをすべきです」

「あなた、何歳だっけ?」

「19歳ですけど……」

若い……

俺、こんなガキに諭されてるぞ。

スキルというおもちゃを欲しがる子供な気分になってきた。

もう26歳なのに……

「よくわかったわ。では、いつも通りにハイドスケルトンを狩りましょう。ついてきなさい、弟子!」

「19歳にマウントを取らないでくださいよ…………朝倉さんが沖田さんのことを小っちゃい男って言ってた意味がよくわかります」

カエデちゃん、悪口しか言ってねーな……

少しは彼氏を褒めて自慢しろよ。

「ほっとけ……よし! じゃあ、行きましょうか……あ、そうそう。ナナカさん、サインいる? 練習したんだけど」

「ください。でも、宛名は書かないでください」

こいつ、売る気だ……