軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第043話 魔女の魔法 ★

俺は魔女に筋肉バカと言われてしまった。

まあ、身体を鍛えることが趣味だし、自慢の筋肉なので否定はしない。

「むさくるしくてごめんなさいね。一応、あなたの護衛なのよ」

クレアは俺達の目的を言うことにしたようだ。

「護衛? どうやら日本とアメリカでは護衛の意味が異なるようね。日本ではこれを誘拐と言うのよ」

アメリカでもだよ。

「ちゃんと帰すよ」

俺はバックミラー越しに魔女を見ながら頷いた。

「ここがどこかもわかっていないのに?」

「すまん。品川ってどっちだ? 俺らのホテルがあるんだが……」

そこで降ろそう。

「…………次の信号を右に曲がりなさい」

右、ね。

「今、世界中があなたを欲しがっているわ。あなたは危ないの」

クレアが話を続ける。

「私をねー……ねえ? あなた達、池袋のギルドに来た?」

池袋?

こいつが所属しているさっきのギルドか?

「行きたいんだが、まだ許可が下りてない」

別に池袋じゃなくてもいいんだが、日本が借り受けているフロンティアのエリアに行こうとしているのは事実だ。

よその国がどんなエリアを借り受けているか気になるし。

「ふーん……あなたかと思ったんだけどね」

魔女がそう言って、クレアを見るが、何のことかわからない。

「どういう意味……?」

クレア、動揺しすぎだ。

落ち着け。

「本当に違うみたいね。あなたのスキル、多分、透明になれるか、気配を消せるスキルだろうからあなただと思ったんだけど」

何のことかはわからないが、スキルは正解。

クレアのスキルは自分の存在を他人の意識から外すスキルだ。

もちろん、モンスターにも有効。

「ごめんなさい。本当にわからないわ。何かあったの?」

「昨日、ギルドに空き巣が入ったらしい。盗まれた物はないみたいだけどね」

チッ!

もう動いたか!

「く、詳しく聞かせてちょうだい!」

クレアが慌てて詳細を聞こうとする。

「全部言った。それ以上は知らない。私、ギルド職員じゃないし」

そりゃそうだ。

こいつは冒険者だ。

「私達があなたを守るわ」

「いらない。あなた達が私を狙ってる可能性が高い」

まあなー。

「信じてくれないのかしら?」

「信じる? 私が? あなた達を? お花畑ねー」

クレア、落ち着け!

拳を握りしめるんじゃない!

どう考えても俺らが悪い。

「だったらどうしたら信じてくれる?」

「ステータスカードを見せて」

「え?」

ステータスカードは人に見せることはできない。

自分のスキル、レベル、ジョブは絶対に隠さないといけないものだ。

「ふふっ、そんなに呆けないでよ。怖いならいいわ」

チッ!

安い挑発だ。

こんなものに乗るヤツなんて…………

「いいわよ。見せるわ」

うん、知ってた。

ノーマン、すまん。

俺らにはこういう仕事は向いてないわ。

「ふーん、冒険者なんだ」

「知ってるくせに」

クレアは有名だからな。

クレアは懐から本当にステータスカードを出し、魔女に見せた。

もちろん、スキルの部分は指で隠している。

「クレア・ウォーカー…………え!? 本名? コードネームじゃないの?」

魔女が初めて驚いた。

「隠してもしょうがないでしょ。私達は顔が割れているんだから」

Aランクだもんなー。

「……………………」

魔女はカバンからスマホを取り出し、操作し始めた。

「あ、Aランクなんだ」

知らなかったのかよ……

もしかして、クレアって日本での知名度がない?

クレアは俺よりも人気で知名度も高いんだが……

魔女は再び、すぐにスマホを操作しだした。

「ねえ、ハリー」

「なんだ?」

「あなたって、ハリー・ベーカー?」

あ、俺も知られてなかった。

「…………そうだ」

「なんかごめんね。私、あんまり詳しくないの。でも、調べてみると、いっぱいヒットしたし、きっとすごいんでしょうね」

すげーフォローしてきたよ。

これ、マジの反応だわ。

「…………信じてもらえた?」

あ、クレアもへこんでる。

アメリカでは子供に人気だもんなー。

「ふふっ、まだだーめ」

魔女はクレアのステータスカードのスキル部分を押さえている指をそっと撫でた。

「スキルはダメ」

「ふーん……じゃあ、スキルは何個?」

「5個」

「嘘つくんだ? 心臓を抉り出して食べちゃおうかな?」

マジ?

魔女だし、冗談に聞こえないんだが……

「…………ふーん、認識阻害ねー」

あ、クレアのヤツ、見せやがった。

しかし、クレアのユニークスキルが見えるってことはこの魔女がユニークスキル持ちなことは確定した。

あとはどんなスキルかだ。

「ハリー」

あ、次は俺か?

絶対に嫌だわ。

「すまん、ステータスカードを忘れた」

そう、きっとホテルに忘れた。

「…………死にたいの?」

魔女のつぶやきが聞こえた直後、ぞくっとし、俺の背中がびっちょりになった。

殺される。

ただ、そう思った。

「そういえば、持ってきてたわ」

俺は前を向いたまま、胸ポケットからステータスカードを取り出した。

すると、すぐに俺の手からカードがなくなる。

「…………ハリー、あんた、身体能力系のスキルばっかりね」

「身体を見りゃわかんだろ。筋トレが趣味なんだよ」

「鋼糸って何?」

やっぱり見えるわな。

「俺のユニークスキルだ。文字通り、鋼の糸を出すことができる。切れ味もいいぞ」

「キャラじゃないわね」

わかってるよ。

「よく言われる」

「まあいいわ。信じましょう。それでなんであなた達が護衛してくれるの?」

魔女が身を乗り出し、俺のステータスカードを返してくる。

「我が国と日本は同盟関係よ。冒険者ギルド間でも協定が結ばれている。だから自主的に助けようと思って」

「まあ、黄金の魔女を敵国に奪われるわけにはいかないってことだ」

「ふーん、つまり勝手に来たわけね。でも、私は大丈夫よ。捕まらない」

すぐ消えるしな。

俺達も何度かあとをつけたが、ノーマンの報告通り、いつのまにか姿かたちが消えた。

「フロンティアの中だったり、今みたいなこともあるだろ」

「フロンティアには行かない。でも、オークションの調整があるからギルドには来るわね。まあ、勝手に護衛しなさい。拒否しても、勝手にするんでしょうしね」

まあ、そうなる。

今日は挨拶と探りに来ただけだ。

大失敗だけど。

「何かあったら連絡してくれ。どっちもいつでも出れるようにしておく」

俺は自分とクレアの連絡先が書かれた紙を渡す。

「うーん、連絡するならクレアの方ね」

紙を受け取った魔女はカバンからスマホを取り出し、操作し始めた。

多分、登録しているのだろう。

「それがいいわ」

魔女の言葉を聞いたクレアが頷く。

まあ、それでいい。

さっきはああ言ったが、フロンティアにいたら通じないし。

「了解。ハリー、ここでいいわ。降ろしてちょうだい」

ここって、もう品川か?

どこだ?

「ハリー、追跡は?」

クレアが確認してきた。

「ない」

そういう車はない。

「なら止まって。これ以上は拘束できない」

さすがにもう無理か……

「暇だし、拘束するのはいいんだけど、もうちょっともてなしなさいよ。何も出さないうえに迷子って…………」

迷子はすまん。

実を言うと、まだ迷子だ。

俺はすぐに車を路肩に寄せ、停車する。

「今日はごめんなさいね。今度はハンバーガーでも持ってくるわ」

え?

煽ってる?

「いらない。そこの筋肉に地図を叩き込んでおいて。じゃあね。オークション頑張って」

魔女はそう言って、手を挙げると、車を降りた。

そして、大勢の通行人が驚いたように魔女を見るが、魔女はまったく気にせずに歩いていく。

「追う?」

クレアが聞いてくる。

「無駄だ。どうせ、すぐに消える。それよりも空き巣が気になる。池袋のギルドを張ろう」

「そうね。池袋まで行って」

どこだっけ?

というか、ここどこ?

俺はとりあえず、走り出すことにした。

「ふう…………シャワーを浴びたいわ」

車を出し、しばらくすると、クレアが息を吐く。

「どうした?」

「ずっと、緊張よ。あの魔女、私にだけ、殺気を向け続けてたのよ」

ああ、あれか……

俺も1回やられた。

クレアはずっとあの状態だったのか……

だからあんなにボロボロだったんだ。

「ご愁傷様。拳銃を突き付けるからだろ」

「あれは人殺しね。本当に食べられるかと思ったわ」

「魔女だしなー」

昔読んだ童話を思い出す。

「でも、成果はあったわ」

クレアが無色透明のポーションを持って、不敵に笑った。

「翻訳ポーションとやらか。どう思った?」

「騒がれたことで自分の失態に気付いて、慌てて用意したって感じじゃない?」

まあ、そんなところが妥当か。

「本物かね? 本国に送るのか?」

「1個はね。もう1個は私の物よ」

「そんなもんいらねーだろ」

英語で十分だ。

「バカね。これは世界に1個しかないのよ。物好きの金持ちが大金を払って買うわ。多分、近いうちに日本のギルドが発表するんでしょうけど、そのタイミングでオークションにかける」

「魔女が先だろ」

「日本は遅いから売るまでに時間がかかるわ。私の方が早い」

「出所は何て言うんだよ」

魔女から買ったか?

「スライムからドロップしたんでしょ。私もそう言う」

この翻訳ポーションの値段次第では世界中でスライム狩りかね?

「ちゃっかりしてんな」

「ただでは転ばないわよ」

こいつは冒険者が本業だが、商売もやってるからなー。

「まあ、勝手にしろ。接触はどうする? もうやめておくか?」

「いや、する。あの女、まさしく黄金の魔女よ。金の匂いがプンプンする」

悪い顔してますわ。

「そうか?」

「アイテム袋に翻訳ポーション…………それに回復ポーションね」

「例の件か? 魔女が買取店に回復ポーションを5個も売ろうとしたっていう」

これも調査でわかった。

「それだけじゃないわ。日本の各ギルド支部で明らかに普通じゃない量の回復ポーションが売られている。間違いなく、あの魔女が売ったのよ。それを池袋の支部長が各ギルドに売りさばいた」

「まあ、そう見るのが妥当かね」

「そうよ。そして、私は回復ポーションが欲しい。あれはいくらあってもいい。それに私ならアメリカでもっと高く売れる。回復ポーションは需要に対して、供給が圧倒的に足りてないからね」

それはわかる。

冒険には回復ポーションが必須なのに滅多にドロップしない。

もっと言えば、医療的にも足りてない。

回復ポーションを使えば、一瞬で骨折が治るのだ。

冒険者でなくても欲しいに決まっている。

「交渉するのか? さすがに日本のギルドや政府が黙ってないぞ」

「どうとでもなるわよ。そもそもアイテム袋も回復ポーションもこの翻訳ポーションもあり得ないのよ。あの魔女は異常なの。そして、この異常にお役所仕事の連中では対応できないわ。絶対に揉める。それを私が横からかっさらう」

まあ、わからんでもない。

俺達が命を賭けてモンスターを倒し、それで得たドロップ品をギルドや国は調査と称して奪ったり、多額のマージンを取ったりする。

日本はまだそういうのが少ない方だが、この状況ではわからん。

そして、それをあの魔女が許容できるとは思えない。

「ふーん」

「黄金の魔女は金を生む存在よ。絶対に奪われたらダメ」

「ノーマン達もそう思ったんだろうな」

「この際、フロンティア人なのかどうかなんてどうでもいいわ。死んでも守るわよ」

多分、全員がお前と同じことを思っているだろうよ。

あの黄金の魔女を確保したい。

他に奪われたらダメ。

クレアが完全に金に目がくらんでしまっている。

あのエレノア・オーシャンとかいう女は本物の魔女だ。

金という魔法で人を狂わせる魔女だろう。

「ねえ、ハリー」

金に狂った女が声をかけてくる。

「なんだ?」

「あれ、スカイツリーに見えるんだけど、あんた、どこ走ってんの?」

確かにでかいタワーが見えるな……

「わからん」

「…………いつから?」

「実は魔女を乗せた時からまったくわかっていない」

東京はわからん。

「運転代われ、脳筋野郎」

ホテルに帰ったら地理を覚えるか……