軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第209話 騒がしいクリスマス

12月24日。

この日は特別な日であると思う人とそうでない日と思う人の2種類に別れる。

去年の俺にとっては特別な日だった。

何故なら、残業で日をまたぎ、コンビニの売れ残りのケーキを買い、会社で1人で食べながら泣いたからだ。

だから今年は普通を望んだ。

カエデちゃんという最高のキャバ嬢を隣につけ、高いワインを飲みながらリビングの端にある金の延べ棒タワーを眺めるという勝者になるつもりだった。

だが、現実は…………

「じゃあ、じゃあ! お隣さんは?」

「お隣さんはご夫婦だと思いますけど、チキンを食べてますねー」

「じゃあ、下は?」

「下…………え!? あわわ!」

うるせー弟子達だよ…………

「人の家を覗くのはやめなさい。最低よ」

俺はソファーでアルクとはしゃいでいるナナポンに苦言を呈する。

もちろん、エレノアさんの姿だ。

「そうしまーす…………そっか、クリスマスだもんね」

どうやらナナポンは刺激の強いのを見たらしい。

なお、そういう知識が皆無なアルクはポカンとしている。

「大人しくピザを食べてなさい…………ったく」

俺はソファーにいるチビ2人から目線を切ると、正面を向く。

俺の正面にはヨシノさんがリンゴジュースを片手にショートケーキを美味しそうに食べていた。

「せっかくワインを用意したのに」

「言っただろ。私は飲めないんだ。ワインなんか飲んだら即、ばたんきゅーだ」

ばたんきゅーって懐かしいな。

年齢を感じる……

怒るだろうし、こっちにもダメージが来るから言わないけど。

「まあ、リンゴジュースはいっぱいあるから好きなだけ飲みなさい。アルクががぶ飲みするし」

「わかる。私の家のストックがあっという間に消えた」

アルクはヨシノさんの家に寝泊まりしているが、ヨシノさんが忙しくて昼間はいないのでこの家に入り浸っている。

「あいつ、虫歯になればいいのに。ルネサーンス!」

俺は隣に座っているカエデちゃんにワイングラスを向ける。

「ルネサーンス!」

チンッとガラスの音が響いた。

「君達も楽しそうだな」

ヨシノさんが俺とカエデちゃんを見て、苦笑する。

「まあね。それよりも今日は大丈夫だったの? このところ忙しそうだったけど」

以前からクリスマスに打ち上げを兼ねたパーティーをするということでヨシノさんに声をかけていたのだが、どっかの魔女がフロンティアのエリアをオークションにかけるという暴挙に出たため、ヨシノさんは激務だったのだ。

「もう私の仕事は終わったから大丈夫」

俺のためにすまんね。

まあ、ヨシノさんも10パーセントもらえるんだから許してくれ。

「ということはオークションの開催は決まった?」

「ほぼな。君がアメリカに手を回したおかげでスムーズに決まった」

「なんのことかしら?」

エレちゃん、わかんなーい。

「皆、知ってるぞ。ギルドの連中はアメリカが魔女の手先になったって言ってたらしい」

手先なわけねーじゃん。

友達よ、友達。

「まあ、ギルドのケツを叩いてくれたらどこでもいいんだけどね。たまたまクレアがいただけ」

「私的にもなんでもいいな」

お金が入ればなんでもいいよね。

「具体的にはどんな感じに決まったんですか?」

カエデちゃんがヨシノさんに聞く。

「まずは一度、話をしたいらしい。そこでオークションの打ち合わせをする」

まあ、そこは俺も必要だとは思っている。

これまではサツキさんに投げっぱなしだったが、今回はそういうわけにもいかないだろう。

「誰と打ち合わせをするの? ギルドのお偉いさん?」

「本部長」

ん?

「いまだによくわかってないんだけど、本部長さんって正式にはギルドの人間じゃないんじゃなかったっけ?」

「そうだね。所属は政府だ。とはいえ、ギルドの人間は誰が悪い魔女と協議するかで揉めた。そこで魔女が所属している支部の支部長に投げたんだ」

別にいいけど、俺は悪い魔女じゃねーよ。

「サツキさんってこと?」

「そうなる。そして、サツキ姉さんは魔女と繋がっていると思われているから本部長が間に入ることになった。あの人は元新宿支部長でギルドからの信頼も厚いからな。だから今度、池袋支部でサツキ姉さんと本部長で打ち合わせをする。ちなみにだが、私はその場に行けないので3人で打ち合わせしてくれ」

3人ねー……

まあ、知ってる2人だし、本部長さんはまともな人だから建設的な打ち合わせができるだろう。

ここに進藤先生みたいな人がいたら最悪になる。

「了解。適当に日程を決めておいて。私は年末年始でもいいから」

カエデちゃんは実家に帰るし、どうでもいいわ。

「年末年始は嫌だろうな。明日は…………日曜か。じゃあ、月曜にでも調整するよ。また連絡する」

「お願い。それともう1個、あなたにお願いがあるのよね」

「私に? なんだ?」

「まあ、たいしたことではないわ。王様に頼まれていたポーションができたから納品にいく。一応、ついてきてちょうだい」

1人で行くのはちょっとね。

「それなら喜んで行く。あそこの料理を食べたいし、山積みになった金の延べ棒を拝みたい」

気持ちはものすごくわかる。

「私も行ってみたいなー」

カエデちゃんもフロンティアに行きたいようだ。

「アルク、3人で行くから」

俺はソファーでナナポンとオセロをしているアルクに決定事項を伝える。

「えー……3人もー?」

アルクが渋っている。

まあ、引きこもり王家はあまり人を招きたくはないんだろう。

「2人も3人も一緒でしょ」

「まあいっかー…………カエデは男の趣味以外はまともだし」

ワインの空瓶をあいつの頭にぶん投げてーな。

「私は!? 私は!? 私も行きたいです!」

ナナポンも行きたいらしい。

「ナナカ、悪いけど、君は無理。君だけは絶対に無理」

俺もそう思う。

「なんでぇ!?」

「さすがに透視持ちは無理だよ…………」

いくら窓のない地下の屋敷だろうが、ナナポンの透視の前では無意味だ。

全部、見えてしまう。

「ガーン! 有能すぎて出禁になってしまった!」

自分で言うな。

「おみやげを持ってきてあげるからさ」

アルクがナナポンを慰める。

「ぐぬぬ。またお留守番…………」

ナナポンは悔しそうだ。

前回、連れていってやればよかったかな?

でも、透視を持っていることがバレたら何をされたかわからんな。

重要なことを知ってしまったら最悪は殺されていたかもしれん。

俺とヨシノさんは知らぬ存ぜぬを通すが、ナナポンはさようならだ。

さすがに可哀想。

「仕方がないでしょ。アルク、王様の用事を聞いておいて。行く日取りを決めるから」

「いつでもいいと思うよ」

王様って暇なのかい?

「じゃあ、明日」

「明日はマズいね。まだ買い物を終えてない。冷凍ピザを買わないと」

今日はクリスマスだからと思って、出前のピザを用意している。

アルクはピザに大興奮していた。

なお、王様にも送ったらしく、すぐに買ってこいと言われたらしい。

「じゃあ、いつならいいの?」

「明日、明後日は出かけるから…………3日後?」

自信なさげだな。

どんだけ買うつもりなのだろう?

「4日後にします。ヨシノさんとカエデちゃんもそれでいい?」

「私はもう仕事はないから大丈夫」

「私もですね」

まあ、ヨシノさんはともかく、カエデちゃんはそうだろうね。

暇そうにしてるもん。

「アルク、4日後ね。それまでに用意しなさい」

「買うものを絞らないと…………」

アルクが悩みだす。

「どうせまだ滞在するんでしょ?」

食っちゃ寝するんだろ。

「うん。君のオークションが終わるまではいるよ。まあ、たまには帰るし、それでいいでしょ」

「じゃあ、適当に買って帰りなさいよ。ところであなたの仕事はないの?」

「今、仕事中。フィーレの調査」

ピザ食べながらオセロするのが仕事らしい。

「どうでもいいけど、本当に太るわよ。運動くらいしなさい」

「運動ねー……」

「剣術を教えてあげましょうか?」

「ボコボコにされそう……」

子供にそんなことをするわけないだろ。

俺はスパルタが嫌いなんだ。

「別に剣術じゃなくてもいいわよ」

「うーん、まあ、スキルや魔法を使ってるから大丈夫」

ん?

「そうなの?」

「うん。魔法やスキルはエネルギーを使うからね」

「そういえば、MPとかがないわね……」

俺の錬金術もナナポンの魔法もMPが足りなくて使えなくなったっていうことはない。

「MP? よくわからないけど、魔法やスキルを使うと疲れるだけだよ」

「じゃあ、私は錬金術を使って、アイテムを作っていれば、下っ腹が出ることはないわけ?」

「そうなんじゃない? 君はお酒を飲みすぎな気もするけど、摂取したエネルギー以上に消費してそうだから問題ないでしょ」

ほうほう。

良いことを聞いたぞ。

「私もスキルを使うか……」

「私も……」

俺とアルクの話を聞いていたヨシノさんとカエデちゃんが神妙な顔で頷いた。

「ナナカさんも使っておきなさいよ。あなたはまだ若いけど、あっという間だからね」

この前まで大学生だったのにあっという間にアラサーになってしまった。

「いつも透視を使っているんで大丈夫です」

さすがはナナポン……

むっつりストーカーだ。

「下の部屋は終わった?」

「ええ、さっき……!」

ナナポンの顔が真っ赤に染まっていく。

ほらね。

オセロをしながら覗いてやがった。