軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第178話 終わらない

俺がフロンティア人の取り調べを受けて1週間が経った。

ちょっと早くて長い冬休みに入った俺は今日もソファーに座りながらカエデちゃんのヨガを見学している。

「先輩、見すぎ」

「いやー、お前って本当に身体が柔らかいのな」

本当に柔らかそう。

「どこ見て、言ってんですか……それよりもテレビです。総理大臣さんの会見が始まりますよ」

俺はカエデちゃんにそう言われて、テレビを見る。

テレビ画面にはマスコミに囲まれた総理大臣がマスコミの質問に答えていた。

『総理、最近、噂になっているエレノア・オーシャン氏の身柄要求は本当なのでしょうか?』

とある記者がテープレコーダー片手に総理大臣さんに聞く。

『えー、まずその件ですが、個人の情報及びフロンティアの情報を含むため、詳細には説明できないことをご理解いただきたい。それを踏まえてですが、エレノア・オーシャンさんの身柄要求はありません』

お、断言したぞ。

『本当ですか? では、あの報道は嘘だったと?』

『あの報道はフェイクニュースだった……と断言はできません。経緯を説明致しますと、エレノア・オーシャンさんについて、とある国々がフロンティア側にエレノア・オーシャンさんがフロンティア人ではないのかという問い合わせをしたのです。もし、もしもですよ? 彼女がフロンティア人であるとしたら当然、不法滞在になりますからフロンティアに帰ってもらわないといけません。あの報道はそういう話の一部分を切り取った報道なのでしょう』

この人、結構、詳細に言ってない?

『では、エレノア・オーシャン氏はフロンティア人ではなかったと?』

『その可能性は低いという回答を得てます』

ん? 回答を得てます?

お前も問い合わせしたんか?

『ん? それはエレノア・オーシャン氏はフロンティア人である可能性があるということですか?』

『可能性の話です。可能性があるからと言って罰しては法律が死にます。大事なのはフロンティア人である証拠があるか、ないかということです。フロンティア側の回答としては明確な証拠がないため、フロンティア側に連れていくわけにはいかないとのことです。もし、それをすれば誘拐と同義ですからね。我が国としてもそのような行為を認めるわけにはいきません』

そうだ、そうだ。

良いことを言うな、おっさん。

今度、支持するかどうかの電話がかかってきたら支持するって答えてやろう。

『そうなると、エレノア・オーシャン氏は日本人ということでしょうか?』

『そのあたりについてはお答えできません。国籍は個人情報であります』

個人情報云々を言うなら俺の名前を出すんじゃねーよ。

『発表がここまで遅れた理由はどうしてでしょう?』

『今回の報道はかなりの注目を集めた報道でしたので詳細に調査し、正確な情報をお伝えするためです』

『フロンティア側はどうやってエレノア・オーシャン氏がフロンティア人である可能性が低いと判断したのでしょうか? 一部では取り調べがあったという話もありますが』

まーた、漏れてるし。

『そのあたりもまた、個人の情報を含みます。また、フロンティアの情報も含みますのでお答えはできません』

『答えられないということはあったということですか?』

うっぜ。

答えられないって言ってんじゃん。

『お答えできません』

『政府として、エレノア・オーシャン氏に取り調べは行いましたか?』

『ですから個人の情報を含みますからお答えできません』

『我々には知る権利というものもあると思いま――』

俺はテレビを切った。

「んなもんはね-よ」

何が知る権利だ。

プライバシーの侵害を知らんのか。

「これは当分、外には出れませんね」

カエデちゃんがヨガをやめて、俺の隣に座ってきた。

「出なくていいよ。当分は沖田君で過ごす。どうせ、冒険にもギルドにも行かないし」

そもそもギルドがやってない。

「ですねー。私もお休みです。朝のお布団が気持ちいいです」

カエデちゃんは本当に嬉しそうだ。

そのせいか日に日にカエデちゃんが寝る時間と起きてくる時間が遅くなっている。

「幸せだねー」

「こんなに休むのは学生以来ですよ。先輩は年末年始はどうされるんです? 実家?」

「実家? もうないね」

「え? ないんです?」

カエデちゃんがちょっと驚いたように聞いてきた。

「両親が海外に行った際に実家は売ったそうだ。あいつらも帰ってこないだろうし、俺はここでそばをすする」

去年の大みそかは仕事だったうえに残業だった。

会社で数人の同僚とインスタントのそばを食べながら愚痴ってた。

「ですかー……私はどうしようかな?」

「お前の実家って? 東京だったよな?」

確かそうだった気がする。

「はい。そんなに遠くないですし、たまに帰ってますよ。だから年末年始に帰っても帰省っていう意識が薄いですね…………うーん、31日と1日だけでいいかな? おせち食べて戻ってきます」

ということは31日と1日は俺1人か……

寂しい。

「映画でも見るかな……」

「ウチに来ます?」

「嫌。何て言えばいいんだよ」

今度、結婚します、か?

付き合ってもないのに。

「まあ、そうですね」

「あのさ、お前、親に何て言ってる? 俺と同棲してることは伝えてんの?」

「大学の先輩とルームシェアしてるとは言ってます」

それ、同性の先輩と思われてね?

「うーん、どうしようかなー?」

そろそろ例の書類を渡そうか?

引かれないかな?

「何がです?」

「いや、年末年始をどう過ごそうかなって」

とりあえず、保留にしとくか。

「1日の夕方には帰ってきますよ。2日ぐらいに初詣に行きましょうよ」

「いいね。ここ何年行ってないし、お参りするか」

「来年もいい一年だといいですね」

「だなー。今度は沖縄に行きたい」

北海道に行ったし、次は沖縄だろう。

「いいですね。まあ、春以降ですね」

「そうなるね。温泉でもいいけど」

「冬はそっちでしょうね」

浴衣姿のカエデちゃんが見れるぜ。

まあ、北海道で見たことあるんだけどね。

「金も時間もあるからなー」

「良いことです」

カエデちゃんがうんうんと頷く。

「今年もあと2週間か……だらだら過ごそうぜ」

「そうしましょー」

おー!

俺とカエデちゃんが今後の予定を話しながら幸せを噛みしめていると、俺のスマホの着信音がなった。

「んー?」

俺はテーブルに置かれているスマホを手に取り、着信画面を見る。

「誰です?」

カエデちゃんが聞いてくる。

「サツキさん」

「サツキさん? 何だろ?」

「オークションの件かもな…………もしもし?」

俺は通話ボタンを押し、電話に出た。

『沖田君か。エレノアじゃないんだな』

「いや、俺が本体だから」

なお、ナナポンはエレノアさんが本体だと思っている。

『まあ、どっちでもいいや。オークションの取引が終わったぞ』

お! 本当にオークションだった。

「すんなり終わった?」

『終わった、終わった。買ったのは中国の富豪だな。受け取りに来るのが遅れたが、引き渡しはスムーズだった。お前の口座に振り込んでおいたからな』

「あんがとさん」

『気にするな。私としても冬のボーナスだよ』

5パーセントのマージンのことか……

それ、あんたの金でいいのか?

ギルドの金じゃないの?

「良かったな。捕まんなよ」

『大丈夫、大丈夫』

ほんまかいな…………

「サツキさんもこれで仕事納め? 冬休み?」

『そのつもりだったんだがなー…………急遽、仕事が入った』

「あらら。お気の毒に」

可哀想に……

頑張れ!

『ああ、本当に気の毒だよ。そういうわけで本題だ』

本題?

オークションが本題じゃないの?

「何かあったの?」

『あった。エレノアに手紙が届いているぞ』

「手紙? ファンレターか何かか? 後で読むよ」

めちゃくちゃ嫌な予感がするし。

『いやー、すぐに読んでくれ。フロンティアから届いたんだよ』

フロンティア……

いや、なんで!?

「誰? アルク? ミーア?」

『わからん。封筒に入っているんだが、封筒に書いてある文字がまったく読めないんだ』

フロンティアの文字だな。

「俺も読めねーわ」

『翻訳ポーションがあるだろ。そういうわけだから今からギルドに来い。本部長とヨシノもすぐに来るから』

えー……嫌ぁ……

「今、忙しい」

カエデちゃんと一緒にいるのでとても忙しい。

『嘘つけ』

「嘘ですねー」

サツキさんとカエデちゃんが同時に言った。

「マジ?」

『マジ。いいから来い。あ、もちろん、エレノアで来いよ』

マジかよ……

もう今年は閉店ガラガラなのに……