軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第175話 それぞれの思惑(じゃぱーん) ★

「終わったかね?」

エレノアがさっさと帰っていったのを見送るしかできなかった私達のもとにメガネをかけた中年の男がやってきた。

「総理…………はい。エレノア・オーシャンはフロンティアから帰還し、さっさと帰っていきました」

サツキ姉さんの部屋で1人で待機していた総理大臣の問いに本部長が答える。

「そうか……話をしたかったのだがな…………」

「おやめください。やはりあの女は危険です。フロンティア人に向かって斬り殺すと発言したようです」

沖田君だもんなー。

あの子はケンカを売るタイプではないが、絶対に買うタイプの人間だ。

というか、自分の剣術を見せびらかしたい感じだ。

しかも、ちょっとだけサイコが入っている。

「斬り殺すか…………まともではないな。しかし、戻ってきたということは黄金の魔女はフロンティア人ではなかったということか?」

「いえ、それが…………」

本部長が言い淀んだ。

「どうした?」

「私もその問いをしたのですが、はぐらかされました。後で問い合わせへの連絡がくるだろう、と」

これは沖田君には言っていないが、実は問い合わせをしたのは日本もだったりする。

「ふーむ、まだ待てということか……」

総理大臣的には早くマスコミに言いたいんだろうな。

日に日にエレノア・オーシャン叩きから政府やギルドへの叩きに移行しつつあるし。

「こればっかりは待つしかありません。今は辛抱の時です」

「戻ってきたということはフロンティア人ではない。そういう考えで先行して発表はできんか?」

「先程の魔女は含みを持たして言っていました。何かあります。ここは焦ってはいけません」

私もそんな気がする。

皆がエレノアに手出しできないのはゲートを閉じるぞという脅しがあるからだ。

もし、エレノアがフロンティア人ではないとしたらその可能性が著しく減る。

沖田君的にはそれを嫌がるだろうから絶対に何かを仕掛けているはずである。

あの子はバカみたいな言動だが、決してバカではない。

「うーむ、ならば待つか…………ギルドは? やはり待ちか?」

「そうなると思います。アメリカにもそう伝えます」

「わかった。私もそう伝えよう…………しかし、あの魔女とアメリカがそこまで密接な関係だったとは」

いや、全然、密接ではない。

エレノアはアメリカとか日本とかに興味がないんだ。

ただ、金儲けがしたいだけ。

まあ、私もだけど……

「やはり進藤先生の件が問題でしたかね?」

「言うな…………進藤さんにはほとほと疲れたよ」

多分、沖田君はその進藤先生のことを忘れてるよ……

「本部長、ウチの再開は発表を待ってからでいいか?」

サツキ姉さんが空気を読まずに聞く。

「ああ、そうだな。それでいい。発表次第だがな…………」

これは沖田君に聞いておいた方がいいかもしれないな。

「わかった。じゃあ、私は当分、休むからな。電話してくんなよ」

サツキ姉さん、すごいな。

何故、この人にユニークスキルがないんだろうか?

「勝手にしろ……総理、官邸に戻りましょう。今後のことを協議しなければなりません」

「そうだな」

私も帰ろうかな?

「――総理っ!」

私が沖田君の家にでも寄ろうかなと考えていると、裏口からスーツ姿の男が駆け込んできた。

「人のギルドに勝手に入ってくるなよ…………」

サツキ姉さんがポツリと文句を言った。

さすがは大物だ。

しかし、本当にどうしてこの人にユニークスキルがなくて、私にはあるんだろう?

絶対にこの人の方がユニークだろ。

「すまん。私の秘書だ…………どうした!?」

総理大臣は文句を言ったサツキ姉さんに謝罪をすると、駆け込んできた秘書とやらに尋ねる。

「先程、フロンティア側から返答がありました!」

え?

早っ!

「もう来たのか!?」

「はい!」

「それで向こうはなんと?」

「はい! えーっと、エレノア・オーシャンがフロンティア人であるという証明はできなかった。したがって、引き渡し要求はしない。ただ、得体の知れない存在であることは確かであり、本物の魔女の可能性が高いので注意した方が良い、とのことです」

えー…………

「ど、どういうことだ!?」

総理大臣が聞き返す。

「わ、私にも…………読み取れるとしたらエレノア・オーシャンはフロンティア人の可能性もあるし、そうじゃないかもしれないってことです」

まんまだな。

「そんなことはわかってる!! この返答は何だと聞いているんだ! 返答になってないじゃないか!」

「総理、落ち着いてください」

本部長が怒った総理大臣を諫める。

「ああ、すまん…………君もすまん」

総理大臣は本部長と秘書に謝罪する。

この人って偉いくせに偉ぶらないな。

「いえ…………総理、つまりはフロンティアですら把握できない存在ということです。あの魔女は我々が想像する以上に恐ろしい存在なのかもしれません」

「本物の魔女の可能性が高い……か」

魔女どころか男なんだけどね。

もっと言えば、魔法も使えない。

「総理、引き渡し要求はないとのことですし、そう発表するしかありません。魔女云々は発表しなければいいのです」

秘書さんが総理に進言をした。

「アメリカには何と答える?」

「おそらくですが、アメリカも我々と同様の問い合わせをしていると思われます。そのままを伝えましょう」

「この問い合わせ結果がマスコミや世間に漏れたらどうなると思う?」

「正式に魔女認定でしょうね。実際、あの能力は魔女そのものです」

うーん、エレノアの存在がどんどんと大きくなっていくなー。

「本部長、漏れると思うか?」

「日本では漏れないかと……ただ、外国は…………」

漏れるのも時間の問題っぽいな、これ。

「その辺の対応も考えないといけないな…………すぐに協議だ! 戻るぞ!」

「はい!」

総理大臣は本部長と秘書を連れて裏口に向かっていった。

この場には私とサツキ姉さんが残される。

「サツキ姉さん、どう思う? 沖田君のハッタリ?」

「いや、買収だな。明らかに沖田君の狙い通りの返答だ。あの金の延べ棒か何らかのアイテムかはわからないが、見返りを渡し、ああいう発表してもらうように頼んだんだろう。じゃなきゃ、本物の魔女の可能性が高いという言葉はおかしい」

私もそう思う。

だって、沖田君は魔法が使えないんだから魔女認定はありえない。

「沖田君に聞いてみるかな…………」

「そうするか。カエデに電話して、あの家に行こう」

それがいいか。

沖田君は今頃、例のあのタクシーの中か寒空で着替えているかだろうし。

「サツキ姉さんも行くの?」

「ああ。運転は任せたぞ」

皆、車くらい買えばいいのに。

それくらいのお金はあるだろうに…………