軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第165話 潮時?

「おいこら、サツキ! どういうことじゃい!?」

俺は電話に向かって怒鳴った。

「うるさいなー……私だって意味不明なんだよ。何も聞いてないし、何もしてない。むしろ、お前、何かしたか?」

「真面目に地図を作って金の延べ棒を手に入れただけだわ! それなのになんで俺がフロンティア政府に身柄を要求されなきゃならんのだ!」

俺は先ほどのテレビの緊急速報を見て、すぐにサツキさんに電話をしたのだ。

「知らねーよ。私だって、混乱している。とにかく、お前は当分の間、動くな。今、カエデを帰らせたから指示に従え。私は本部長のところに行ってくる」

あ、カエデちゃんが帰ってくるんだ。

やったー…………じゃねーよ!

「お前、俺を売ったら殺すからな」

「そん時は私もクビだよ」

まあ、悪いことをいっぱいしてるし、そうなるか。

「ヨシノさんに電話をしようと思ってたんだけど?」

「後で連絡をさせる。まずは状況把握が先だ。ナナポンも大学以外は外に出るなっていう指示を出したし、お前も大人しくしてろ」

「まあ、どっちみち、休むつもりだったけどさ」

「だろ? だから家にいろ……ったく、問い合わせの電話がうざいし、何なんだよ…………」

あー、エレノアさんの所属ギルドに問い合わせが殺到しているのか。

「カエデちゃんを帰らせていいん?」

受付が大変では?

「電話線を引っこ抜いた。それに問い合わせは全部、無視するように言った」

すげー。

絶対にダメなことを平気でやる女だ。

「ひどいな、おい」

「職員の職務を邪魔する方がひどい。とにかく、私はこれから本部長のもとに行く。あ、そうだ。お前、クレアに電話して、そっちは何か知らないか聞いてみろ」

「クレア? さっきからめっちゃ着信が来てるけど、無視してる」

まずはサツキさんに話を聞こうと思って、ガン無視してる。

「アメリカでも何かを掴んでいるかもしれない。探れ」

「わかった」

「任せたぞ。じゃあな」

サツキさんはそう言って、電話を切った。

俺はいまだに着信が鳴っているエレノアさん用のスマホを見る。

【クレア】

「こいつもしつこいな…………」

ずっと鳴りっぱなしである。

俺はその場で服を脱いで素っ裸になると、TSポーションを飲み、沖田君からエレノアさんにチェンジする。

そして、電話の通話ボタンを押した。

「しつこいわよ! 少しは待ちなさい!」

俺は電話に出ると、イラつきながら文句を言う。

『いや、焦りもするでしょ! 身柄の引き渡しって何!?』

「それは私が聞きたいわ! 何もしてないわよ!」

『クレア、落ちつけ』

あ、ハリーの声だ。

一緒にいるのか。

「あんたら、何か聞いてない?」

『いや、何も聞いてない。俺らもニュースを見て、びっくりした。ノーマンに聞いてもまったく聞いてないそうだ。本国はパニックだぜ』

アメリカも把握してない?

マジであのニュースのソースはなんなんだよ。

『ねえ、エレノア、マジで聞くんだけど、あなたってフロンティア人?』

クレアが聞いてくる。

「んなわけないわよ! そもそもフロンティア人って何よ! ホントにいるのかも知らねーわ!」

『じゃあ、なんでフロンティア政府があなたの身柄を要求するのよ?』

「だから知らないわよ! というか、フロンティア政府って何よ! フロンティアってこっちが勝手につけた名前でしょうが!」

フロンティアとは通称だ。

フロンティアは開拓の意味であり、未知なる世界への希望が込められている。

『うーん、信じるわよ?』

まーだ、疑ってるな、これ。

「信じようが信じまいがどうでもいいわ! そんなことより、事実関係よ! フェイクニュースかどうかをさっさと調べなさい! 何のためのエージェントよ!」

お前ら、ラーメン食べるか、商売するかじゃん。

『そういうためのエージェントじゃないんだけど、わかった。こちらとしても上から事実関係を探れって言われてるの。とりあえず、あなたは身に覚えがないのね?』

「ないわよ! 私を拘束しようとするヤツはぶっ殺してやるわ! もしくは、私の身柄を要求しているフロンティア人とやらを私の前に連れてきなさい! 首を刎ねてやる!」

『こえーよ…………』

『頼むから大人しくしててね。そっちのギルドでも探ってると思うけど、こっちもやってみるから。間違っても、変なことをしないで』

クレアが諫めてきた。

「いい? 私がいなくなったら回復ポーションもアイテム袋も何もかもパーなわけ! 金儲けをしたかったら何とかしなさい!」

『わかってるわよ…………アメリカでも回復ポーションとアイテム袋は足りてないからね』

「レベル3の回復ポーションをあげるからギルドや日本に圧力をかけて聞きだすようにあんたのところのプレジデントに伝えなさい! 今なら2000キロのアイテム袋もつけてあげるわ」

『2000って…………』

「足りない? 3000でもいいわよ」

5000でも1万でもいいわ。

所詮は輪ゴムよ。

『わ、わかったから。伝えればいいんでしょ』

「そうよ。日本政府が把握してなくても、あの報道をしたテレビ局を詰めなさい」

『わかった』

「さっさとしなさいよ。オークション中止なんてごめんだからね」

俺は一方的にそう告げ、電話を切った。

「ったく…………」

俺はスマホをポイッとテーブルに投げた。

「あのー、先輩…………」

声がしたので振り返ると、そこにはコートを羽織ったカエデちゃんが何故か気まずそうに立っていた。

「あ、カエデちゃん、おかえりー」

カエデちゃんの顔を見ると、癒されるなー。

「ただいまです…………」

でも、ものすごく微妙な顔をしている。

「何?」

どうしたん?

「いや、服を着てください。なんでエレノアさんの姿で素っ裸なんですか…………」

あ、そうだった。

「ごめん。すぐに戻るわ」

「私も着替えてきます」

カエデちゃんはそう言って、リビングを出ていった。

俺はTSポーションを飲み、沖田君に戻ると、服を着て、キッチンに向かう。

そして、お湯を沸かすと、2つのコップにココアを淹れて、リビングにソファーに戻った。

すると、すぐにカエデちゃんも着替えてリビングに戻ってきた。

「お待たせしました」

カエデちゃんが俺の隣にちょこんと座る。

「うん。はい、ココアだよ」

「わー! ありがとうございます!」

カエデちゃんは嬉しそうに両手でココアを飲みだした。

俺もそんなかわいいカエデちゃんを横目に見ながらココアを飲んで一息つく。

「あー、美味し」

「ですねー。冬はココアです」

ホント、ホント。

「それでさー、事情は把握してる?」

「ネットニュースを見ましたね。びっくりです」

「俺はテレビの速報で知った。何あれ?」

「わかりません。いくらなんでも急すぎます。もし、本当に身柄要求があったとしても内密にウチのギルドに話が来るはずです」

というか、当人である俺がその話を知らないっていうのはおかしい。

「今日のヨシノさんの感じだと、ヨシノさんも知らないっぽいんだよな」

「だと思います。多分、本部長さんも知らないんじゃないでしょうか?」

そうなると、ますます変な話だ。

「チッ! そうなると、フェイクニュースの可能性が高いな」

「でも、緊急速報までしたのにフェイクってありますかね? 何らかの確証がないとマズいでしょ」

確証ねー?

「マジで何なんだろうか…………」

「とりあえずは待つしかないと思います。さっきクレアさんに頼んでましたよね? サツキさんも動いてますし、結果を待つしかないです」

そうなるか。

もどかしいな。

「オークションは? 中止?」

「いえ、続行します。すでに9000万円を超えていますし、今さら中止はできません」

9000万円を超えたか……

これは1億に届きそうだな。

「中止じゃないならいいわ。家で大人しくしてるか」

「ですね。私も数日はお休みをいただきました」

「いいの?」

このタイミングでカエデちゃんが数日も休むって怪しくね?

「サツキさんは本部長にギルドの一時的な閉鎖を頼むそうです。マスコミが殺到しますし、野次馬も増えます。運営が困難です」

あー、ありそう……

「閉鎖っていいの?」

「ウチは冒険者の数が少ないですし、一時的に移籍してもらえばいいです。そういう特例があるんですよ。例えば、職員がインフルエンザにかかったらそうなります」

なるほどね。

インフルに限らず、止むを得ない時ってあるもんな。

「わかった。じゃあ、数日はゆっくりしよう」

やった。

カエデちゃんと一緒だ。

「はい。それとなんですけど…………先輩、もう潮時だと思います」

カエデちゃんはココアをテーブルに置くと、俺の方を向き、俺の手の上に自分の手を重ねてきた。

「そうだな…………もう十分かもな」

俺はリビングの端っこに積み重ねた30本の金の延べ棒を見る。

「はい。そう思います」

「すでに何十億という金を得ている。お前と2人で暮らす分には十分すぎるな」

もし、俺とカエデちゃんの間に子供ができたとしても余裕だ。

「一生遊んで暮らせると思います。それにサツキさんやヨシノさん、クレアさんがいますから今後も売ることはできます」

クレアはあれだけど、サツキさんとヨシノさんは俺のことを知っている。

俺が作ったものを渡せば売ってくれるだろう。

「引退すっかなー。わずか数ヶ月で引退か……」

「いいと思います。そういう方は大勢いらっしゃいますよ」

「まあ、そうだろうね」

冒険者をやろうと思ったけど、やっぱり無理だった者はたくさんいるだろう。

「身柄引き渡し要求の真偽はわかりませんが、もし、フェイクだとしても、もうやめるべきです。これ以上は危険です」

「そうだな。フェイクじゃなくて本当だとしたら逃げるし、フェイクだったとしてもその辺を考えた方が良いな」

「ですね。エレノアさんは大きくなりすぎました」

でも、本当にエレノア・オーシャンを作ったのは正解だと思う。

これが沖田君だったら最悪だ。

「わかった。考えておくよ」

「はい。2人で平穏に遊んで生きましょう」

よーし! こいつと結婚しよ!