軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第125話 お礼を受け取るのも気が引ける

俺は渋谷支部にやってくると、応接室で渋谷支部長と俺が助けた子のお父さんである長岡さんに会っていた。

「和解の場? 別に和解をすることなんかないわよ。そもそも、私はあの子に迷惑をかけられていない」

俺は一応、言っておこうと思った。

「まあ、聞け。こういうのはなあなあで済ますと、あとで問題が大きくなる場合があるんだ。だからギルドが仲介する」

支部長が説明してくれる。

「たいしたことをしてないんだけどね」

「お前があいつらを助けたこと自体は別に問題はないし、むしろ褒められることだ。お前がこの支部の所属だったら表彰状の1つでもくれてやる」

いらねー。

「じゃあ、何が問題なの?」

「回復ポーションに決まっているだろう。あんなもんを軽々しく使うお前が悪い」

軽々しく使える量を持っているからねー。

それにあの時は大量に売れた後だったからご機嫌だった。

「あっそ……別に命の危険があったわけではないし、使わない方が良かったかもね」

「それについては否定も肯定もできん。とにかく、お前は長岡ユウカに回復ポーションを使ったということでいいな?」

「そうね。あいにくと回復魔法は使えないの」

「その時の状況を説明してくれ」

めんどくせ-……

「前のことだからあまり詳しくは覚えてないかもだけど?」

「おおまかでいい」

「えーっと、クーナー遺跡に行ってたら若い4人の冒険者がスケルトンと戦っていたわね。スケルトンは5体だったかしら?」

確かそうだ。

あの子達より数が多かったことは覚えている。

「うむ。続けろ」

「私も他の冒険者には接触しない方が良いと思ったんだけど、実力や装備的に見ても危ないかなと思って、様子を見てたの。そしたら、あの子……ユウカさんね。あの子が体勢を崩したのを見て、危ないと思って、助けに入ったわけ」

装備も貧弱だったし、何よりも慣れてない感じがしていた。

「それで?」

「介入してスケルトンを倒した。その後、ユウカさんを見たら足が良くない方向に曲がってたから回復ポーションをかけた」

「何故、回復ポーションを使った?」

「理由がいる?」

「いるな。そんな価値のあるものを使った理由だ」

価値のある?

「あんなものに価値なんてないわよ。あんなのは水と一緒。喉が渇いている人に水道水をあげただけ。理由を求められても困るわ」

「ふむ…………まあ、物の価値なんて人それぞれだしな。わかった。確認だが、レベル1の回復ポーションでいいな?」

「そうね」

当時はレベル2の回復ポーションは作れなかった。

「よし。だいたい他の証言と一致しているし、そういうことなのだろう。一応、聞くが、回復ポーションの代金を請求する気はあるか?」

「ないわね。私が勝手にやったこと。回復ポーションを要求されたわけではないし、助けてくれと言われたわけでもない」

「と言っているが?」

支部長が長岡さんを見る。

「そういうわけにはいきません。回復ポーション代は弁償させていただきます」

長岡さんはそう言って、ビジネスバッグから封筒を取り出し、テーブルに置くと、俺の方に押す。

「いえ、それは受け取れません」

俺はそれを断り、テーブルの上の封筒を押し返した。

「そういうわけにはいきません」

「いえ、いりませんから」

俺と長岡さんは封筒を押し合う。

「待て待て! 熱くなるなと言っただろうが」

支部長が封筒を押し付け合う俺達を止めた。

そう言われて、俺と長岡さんは封筒から手を放す。

「エレノア、これは個人的な意見だが、それは受け取るべきだ」

「何故?」

「タダより高い物はないという言葉がある。いいから受け取っておけ」

うーん、長岡さんも安心が欲しいのかね?

ましてや、相手は呪い殺すだの、人を食べるとか言われてる魔女だし。

「…………わかりました。これは受け取ります」

俺はそう言って、封筒を手に取る。

これ、いくら入ってんだ?

50万はあるんだろうけど、多分、それ以上の額が入っている気がする。

「それには80万円ほど入っている」

封筒を手に取り、この場で額を確認しようか悩んでいると、支部長が教えてくれる。

「高いわよ。回復ポーションの相場は50万から60万でしょ」

「今は50万だ。それには謝礼と迷惑料も含まれている」

「いらないわよ…………」

謝礼はともかく、あの子に迷惑なんかかけられてないっての。

「いいから受け取っておけ。長岡さんからしたら娘を助けてもらったんだ」

まあ、その気持ちはわかるけど…………

うーん、しゃーないか……

「わかりました。受け取ります」

「よろしい。では、ここにサインを書け」

支部長が何かの書類を渡してきた。

俺はその書類を受け取ると、内容を確認する。

ふむふむ…………

要はこの額で手打ちっていう示談書みたいなもんだな。

俺は内容に変なことが書かれていないことを確認すると、書類の署名欄にエレノア・オーシャンと書き込んだ。

「これでいい?」

俺は署名した書類を支部長に渡す。

「ああ、いいぞ。これであの件は解決したことになる。長岡さんもいいですね?」

支部長は書類を確認すると、長岡さんに尋ねた。

「はい。この度は大変ご迷惑をおかけしました」

長岡さんは何度目かわからない謝罪と共に深く頭を下げる。

「いや、こちらの不備もあった。こちらこそ、改めて、大切な娘さんを預かっている立場でありながら申し訳ございません」

支部長が頭を下げ返した。

「いえ、娘にはよく言い聞かせておきます。これからもよろしくお願いします」

そういや、まだ冒険者を続けるんだったね。

あの子もよくやるし、この人もよく許可を出すもんだわ。

まあ、何かの事情があるのかもしれないし、よそ様の家庭に口を出すつもりはない。

「わかりました。では、この場は以上になります。お仕事もあるのにわざわざありがとうございました」

「いえ…………謝罪とお礼が遅れてしまい、申し訳ありませんでした」

長岡さんは俺に謝罪と礼が遅れたことを謝ると、立ち上がった。

「これからお仕事かしら?」

「ええ、今日は時間をいただきありがとうございます」

社会人は大変だねー。

がんばれ。

「あの子は元気?」

「ですね。今日は学校です」

まあ、平日だし、そうだろう。

「そう……なら良かったわ」

「娘を救っていただき、本当にありがとうございました。では、私はこれで失礼します」

長岡さんは一礼し、退室していった。

「あー、終わった、終わった。めんどくさかったわー」

俺は長岡さんが退室すると、緊張が解け、背もたれに背中を預ける。

「ふぅ……今回はまだいい方だ。大抵、揉めるからな…………」

支部長も背もたれに背中を預けると、一息ついた。

「そうなの?」

「お前の立場の人間が多額の料金を要求したり、長岡さんの立場の人間が逆ギレしたりと、色々だ。今回はお前も長岡さんもまともだったから良かったが、ロクでもない人間も多いんだ」

嫌だねー。

人が多い渋谷支部は儲かっているんだろうけど、そういうトラブルも多そうで大変だわ。

その点、サツキさんは部屋でソシャゲ三昧だもんなー。

どっちがいいかはわからない。

「クーナー遺跡には当分、行かないし、こんな面倒なトラブルはないと思うけど、もうごめんよ」

「新人指導はしないのか?」

「私がその新人よ」

冒険者になって2ヶ月程度だし、ルーキーと名乗っていいだろう。

「新人はミレイユ街道には行かないんだがな……」

やはり俺がミレイユ街道にいる情報も掴んでるんだな。

「別にいいでしょ」

「まあ、そうだな。噂の魔女ならもう少し上でもいいだろう」

魔女だけど、魔法は使えないんだなー、これが。

「どこでもいいわよ。さて、私も帰ろうかな…………人が集まってくる前に帰りたいわ」

「もう遅いと思うぞ。多分、下はすでにごった返しているだろう」

情報の拡散が早いわー。

これだからSNS時代は嫌だ。

「裏口から帰っていい?」

「構わん。だが、少し話がしたい」

やっぱり素直に帰してはくれないらしい。

うん、知ってた。