軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第011話 人生で一番かもしれない日

俺はフロンティアから帰還し、受付で精算を終了させると、更衣室に行き、備え付けられたシャワーを浴びる。

あー、気持ちいい。

身体を動かすっていいなー。

8年間もロクに体を動かしていなかった。

俺は久しぶりの運動の疲れと汗をシャワーで流すと、早めに更衣室で着替えをする。

カエデちゃんはゆっくりでもいいと言ってくれたが、女の子を外で待たすわけにはいかないのだ。

俺は服を着替え終えると、鏡の前に立つ。

うん、俺だ。

金髪でなければ、女でもない。

いつもの普通の俺。

俺は自分の可もなく不可もない顔に満足すると、荷物を持って、更衣室を出た。

そして、ロビーを抜け、ギルドから出る。

ギルドの入口端には白のゆったりとしたニットに花柄のロングスカートを履いたかわいい茶髪の子が茶色いポシェットを肩にかけ、待っていた。

もちろん、カエデちゃんである。

「お待たせー」

「あれ? 早いですね?」

「待たせるのもなんだし、男はこんなもんだよ」

化粧とかしねーし。

「ですかー……」

カエデちゃんがチラチラと俺を見上げてくる。

「カエデちゃんの私服を見るのは久しぶりだわー。相変わらず、かわいいね」

「ありがとうございます!」

よし、ノルマ終わり。

「でも、居酒屋に行くって言ってなかった?」

「女の子はどこに行くのもおしゃれです」

「ふーん。よく行くの?」

「同僚と行きますね」

仕事終わりかな?

この近くって言ってたし。

「…………そん時は?」

「制服です…………先輩、そういうところは直しましょう。空気を読んでください」

だよね。

うん、わかってる。

カエデちゃんは俺のためにおしゃれしてきたのだ。

仕事用に1本に結んでいた髪も今は解いており、なんかナチュラルにふわっとなってるし。

「ごめん、ごめん。行こうか」

「はい、こっちです!」

俺はカエデちゃんに案内されながらカエデちゃんの行きつけの居酒屋に向かう。

居酒屋はギルドから近く、歩いて5分もかからなかった。

俺達は居酒屋に入ると、店員さんに案内され、テーブルと座るところだけがある個室に通された。

「個室なんだね」

「ここは全部個室です。だって、冒険帰りに飲みに来て、受付嬢が愚痴ってたら嫌でしょ? だから私達は個室のある店で飲みます」

それは嫌だわ。

特に対応する冒険者の愚痴だったら最悪。

「なるほどねー。あ、カエデちゃんは何を飲む? カシス?」

カエデちゃんはカシスが好きなのだ。

「いえ、最初は生でいいです」

俺は店員さんを呼び、生2つを注文する。

すると、すぐに持ってきてくれたので、適当につまむものを注文した。

「「かんぱーい」」

店員さんが去ると、乾杯をし、ビールを飲む。

「カエデちゃん、ビールを飲むんだね。前は苦いから嫌だって言ってたのに」

「社会人はビールです。こののど越しがストレスを洗い流してくれるんです」

いや、ストレスをビールごと飲み込んでますがな。

「大変なんだねー。やっぱ接客?」

「です。先輩が来るのは昼間なんで少ないですが、夕方からは多くなります。そして、質の悪い人もいます」

「質ねー。クレーマー? ナンパ?」

「両方です。さらに態度の悪いヤツもいますし、うぜーです」

溜まってるわー。

「そういやさ、俺もエデンの森で昼間は他の冒険者に会わなかったのに夕方は増えたんだけど、なんで? 皆、夕方から活動するの?」

「あー、それですか……エデンの森って初心者用のエリアなんです。ですので、そこに行くのは学校がある学生か脱サラを考えているサラリーマンです。だから昼間はいないんですよ」

あー、俺みたいに辞めてから冒険者になる人は少ないのか……

「ギルドにいないのは?」

「そら、ウチがそんな初心者しか来ない不人気ギルドだからですよ」

カエデちゃんがビールをぐいーっと飲む。

「ギルドに不人気とかあるの?」

「要素は色々ありますが、ウチはAランクがいません。だから持って帰る素材もしょぼいし、売っている素材もしょぼいんです。もっと言えば、受付嬢が不人気です」

「カエデちゃんがいるじゃん」

かわいい。

「他所はすごいですよ。売り上げを上げるために美人ぞろいです。スタイルもどーんです」

カエデちゃんが手で巨乳のジェスチャーをする。

「へー……」

「あ! 先輩、そっちに移る気ですか!?」

「いや、俺、知らない人よりカエデちゃんがいるギルドがいい。俺、よく考えたらお前しかしゃべる人がいない」

たまにお隣さんのやーさんと話す程度だ。

「…………先輩」

「これに気付いたのが先日というね」

「先輩、おかわり、飲みます?」

「飲む、飲む」

俺達は早々と2杯目を頼んだ。

そして、一緒に来たつまみを食べながら愚痴をこぼしていく。

「なーにがお姉さん、かわいいね、だ! んなもん、産まれた時から知ってるわ! 高校生のくせに24歳をナンパすんな!」

荒れてんなー。

「あ、カエデちゃん、俺のつくねを取るな。お前はもう食べたろ」

「相変わらず、小っちゃい人だなー。もう1本頼めばいいじゃん。宝くじが当たったんでしょ!」

酔ってんなー。

こら、確かに他の冒険者に見せらんねーわ。

「小っちゃくないわ」

「いーえ、小っちゃいです。昔も2人で飲みに行った時も唐揚げの数を数えてました」

…………それは小っちゃいわ。

「俺、お前と2人で飲みに行ったことなくね?」

ランチとかの単純なご飯は何回かあるが、飲みは大抵、皆とだった。

「2次会ですよー。2人で延長戦したじゃないですか」

「あー、それはあるね」

2次会で唐揚げを頼む若さが懐かしい。

まだ若いけど!

「最初から2人で飲みは初めてですねー」

「まあ、あの時は大学生だったしね。行くなら皆一緒でしょ」

彼氏彼女という関係でもないし。

「あれから4年……先輩はブラックで心を病み、私は現在進行形で病みそうです。私も辞めて冒険者に戻りたい」

ん?

「お前、冒険者だったん?」

「ですねー。先輩が卒業した後にバイトして資格を取りました。働きたくなかったんで」

動機がそれか……

「でも、辞めたん?」

「大学卒業前までは続けましたし、儲けもありました。でも、私がいたパーティーが解散しちゃったんです。先輩は剣の達人さんだからわからないでしょうが、フロンティアにソロで行くのはバカか友達がいないヤツですよ…………そう、あなたです!」

カエデちゃんがどーんという効果音がつきそうな感じで俺を指差してきた。

そして、すぐにキャッキャと笑う。

こいつ、めっちゃ酔ってる……

「なんで解散したん?」

「リーダーが疲れたって言ってましたね。まあ、あまり長くやる職業ではないです」

危険が多いしなー。

「大学卒業前かー。就活、きつくね?」

そこから就活しても間に合わない。

「いえ、そのリーダーがギルマスに再就職したんですよ。それで私を誘ってくれました。だから私は受付嬢になったんです」

なるほど。

つまり、池袋支部のギルマスはカエデちゃんがいたパーティーのリーダーだった人か。

学生だから気を使ったんだな。

「へー。お前も大変だなー」

「まあ、給料は良いですけどね」

少なくとも、前職の俺の給料よりは良さそうだ。

「ふーん、学生時代にお前を誘って、冒険者をやればよかったわ」

「あ、そういえばですけど、先輩はなんで冒険者をやろうと思わなかったんですか? 最初から剣術のレベルが5もあるのに……」

「俺は普通の人生を歩みたかったんだよ。就職して、結婚して、子供を作る。そんな人生」

しょうもないと思われるかもしれないが、そういう人生を歩みたかった。

「ですかー……それなのに、入った会社はブラックだったんですね」

「そういうこと。人生は上手くいかない」

「まあ、そういうこともありますよ。でも、先輩はまだ26歳でしょ? いけます!」

「ちなみに聞くけど、1000万で良いの?」

結婚してくれる?

「いえ、先輩ならもっといけそうです。億を目指しましょう! いえーい! かんぱーい!」

「かんぱーい! 世界一周旅行に連れていってやるぞ!」

「素敵ー! でも、さっきの北海道のカニといい、発想が完全に庶民ですよね」

やかましいわ!

俺とカエデちゃんはその後も話しながら飲み、いい時間になると、解散することにした。

俺はカエデちゃんの状態を見て、これは無理だと思い、店員さんにタクシーを呼んでもらった。

「せんぱーい、2軒目はー?」

俺は完全に出来上がったカエデちゃんをタクシーに乗せようとすると、カエデちゃんがアホなことを聞いてくる。

「また今度な。今度は2次会で築30年のウチのアパートに連れ込むわ」

「引っ越せー。私はきれいなマンションのダブルベッドがいい!」

引っ越したらダブルベッドを買うことが決定した。

「はいはい。帰って寝ろ」

「せんぱーい、今日はありがとうございました。ごちでーす」

「お前もいい店を紹介してくれてありがとうな。今日の稼ぎが残ったわ」

今日の3万5千円はなくなるかと思ってた。

「もっと稼げよー。億だぞ、億!」

「わかったから」

めんどくさい子だよ、まったく。

「せんぱーい、また明日ねー! あ、それと、今度は焼肉に行こうぜ!」

お前は明日、休みだろ……

「はいはい。例の有名処に連れていってやるよ」

前にメッセージでそういうやり取りをしたのだ。

「約束ね! せんぱーい、愛してまーす」

「運転手さん、やっぱ俺が連れて帰りますわ」

えーっと、ホテル、ホテル……

「あ、やべ、これはガチだ。運転手さん、練馬駅まで」

カエデちゃんは酔いが醒めたようだ。

「はよ帰れ」

「おやすみー」

「おやすみ」

カエデちゃんを乗せたタクシーが走り去ったので俺もコンビニで色々と買い込み、タクシーで家に帰った。

大学を卒業して4年…………今日が一番楽しい1日だったと思う。