軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第001話 会社クビ

『こんな会社辞めてやる! もうあんたの言いなりにはならない!』

このセリフを何度言おうと思っただろう。

大学を卒業して、4年。

直属の上司に嫌われた俺はいつも無理難題を押しつけられ、それができないと怒鳴られていた。

でも、ロクに資格もなければ、仕事ができるわけでもない俺はそれを甘んじて受け入れるしかなかった。

俺は今日も嫌な1日の始まりだと思いながら出社し、周りの同僚に挨拶をしながら自席に着こうとした。

「沖田君、ちょっと」

俺が席に着こうとすると、直属の上司が俺を呼ぶ。

朝から何だよ……

まーた、無理難題か?

「何でしょう?」

俺は嫌々ながらもその気持ちを表情に出さないように気を付け、上司の席に向かった。

席に座っている上司が片肘をデスクにつきながら俺を見上げる。

非常に態度が悪いが、この人はいつもこんなんだ。

「沖田君、明日から来なくていいよ」

「はい?」

俺は上司の言葉を理解できなかった。

「君は本当にバカだねー。じゃあ、はっきり言うよ。クビだよ、クビ。さようなら」

こ、こいつは急に何を言い出すんだ!?

「どういうことでしょう? 私が何かをしましたか?」

大きなミスはしていないはずだ。

「いや、何もしていないのが問題なんだよ。ウチの会社も君みたいな者に無駄金を払う余裕があるわけではないんだ。だからクビ。あ、でも、君の自主退職にしてね」

「な、なんでですか!?」

俺、辞める気ないよ?

毎日、辞めたいとは思っているけど、本当に辞める気はない。

だって、そんなに貯金ないし、次の仕事もあるかもわからない。

「いやね、自主退職じゃないと困るのよ」

「私だって、困ります!」

「沖田君、これは私の優しさだと思ってくれ。君がここで断ると、私は君を例の部屋に人事異動させないといけない」

例の部屋……

リストラ部屋か……

あそこに配属になった先輩達は1ヶ月も持たずに辞めていった。

あそこで1ヶ月耐え、次を探すか?

いや、でも、あそこはマジで地獄と聞く。

ただでさえ、心が病みそうな状態なのに、あそこに行ったら確実に病んでしまう。

貯金がないとはいえ、節制すれば、2ヶ月は生きていけるだけの貯金はある。

病む前に辞めた方がいいか……

「…………わかりました」

俺は渋々、了承する。

「わかってくれたかね? それは結構」

なーにが結構だ! ボケ!

「お世話になりました。ここで失礼します」

「ああ、それがいい。あ、有給にならんからね」

知ってる。

今まで有給なんて取れたことないわ。

俺は上司を殴りたくなる衝動を抑え、頭を下げると、自席に戻り、自分のデスクを整理した。

そして、まだ朝の9時前だというのに家に帰ることになってしまった。

俺は呆然としながら自宅である安アパートに帰ると、帰りにコンビニで買ったビールのプルタブを開ける。

そして、一気に飲み干した。

「クソッ! マジでクビかい! これからどうすりゃいいんだよ!」

俺の貯金は40万弱はあったはずだ。

それで何とかしのぎ、次を探さないといけない。

「あーあ、こんなことなら何かの資格を取っておけばよかったわ」

さっき辞めた会社は資格がいるような職種ではなかったため、運転免許以外は何も持っていない。

だが、今思えば、さっさとあんな会社に見切りをつけ、資格を取っておけばよかった。

「ハァ……と言っても、後の祭りか……マジでどうしよ」

俺はため息と共に独り言をつぶやきながら次のビールを開ける。

「朝からビールを飲む無職だぜ。すげーわ。公園にでも行こうかな」

俺は公園でビールを飲む自分の姿を想像し、涙が出そうになった。

「クソ! 今日は自棄だ! 死ぬまで飲んでやる!」

俺は朝からビールを大量に飲み続け、会社やあの元上司の悪口を言いまくった。

◆◇◆

「…………うん?」

俺は目を開けると、周囲を見渡すが、真っ暗で何も見えなかった。

「ああ……もう夜か。飲みすぎて潰れたのかな……?」

俺は立ち上がると、部屋の電気をつけ、カーテンを閉めた。

そして、スマホの時計を見る。

「げっ! 夜の1時じゃん…………まったく記憶がない」

俺はビックリしたが、床に散らばる大量の空き缶を見て、まあ、そうなるわなとしか思えなかった。

「ハァ……何してんだろ……」

俺は気分が暗くなったのでテレビでも見ようかと思い、電源を付けた。

「パチンコのCMか……」

俺はパチンコのCMを見て、パチプロもいいかもなと思った。

「パチかー……まあ、やったことないわ」

俺は博打はやらない。

大学の時に友人と遊びの賭けマージャンをやった程度だ。

「でも、人間関係に悩まないでいい仕事っていうのは良いかもな……」

俺はコミュ障というわけではないが、口が達者な方でもない。

あんなクソ上司みたいな人と仕事をするくらいなら人付き合いのない仕事を選んでもいいかもしれない。

俺は明日からの仕事探しのことを考えながらぼーっとテレビを見続ける。

『あなたも【冒険者】になりませんか? 冒険者は夢いっぱいのお仕事です! フロンティアがあなたを待っています』

「冒険者か……」

俺はセンスのないCMを見て、ポツリとつぶやいた。

この世界は30年前に大きく変わったと聞いている。

俺がまだ生まれていない時だが、世界の常識が覆った瞬間らしい。

何でも、世界各地に【ゲート】と呼ばれる門が現れ、その門をくぐると別の惑星(?)に繋がっていたというのだ。

そして、その世界は未知なる力が働いており、多くの人を歓喜させた。

魔法、スキル、見たことのない資源や生物…………そして、人。

そう、その謎の世界には人がいたのである。

それはゲートができて、すぐに判明した。

何故なら、向こうから接触してきたからだ。

異世界人は各国に使者を送った。

向こうの要求はこうだ。

・ゲートを出して、世界を繋げたのは自分達である。

・食料不足のため、食料を援助してほしい。

・その代わりに土地を譲る。

・ただし、その決められた土地以外は侵犯してはならない。

・断ったり、条約を破った国は即座にゲートを閉じる。

もちろん、この要求を断った国はない。

資源が足りないのはどこの国も同じなのだ。

もっとも、条約を破って、ゲートを閉じられた国はいくつもある。

そして、日本は条約を破っていない。

だからこの国にはゲートがある。

しかも、日本は食料にとどまらず、多くの援助をした。

それが功を奏し、この国にはいくつものゲートがあるし、色んな場所の土地をもらった。

もっとも、正確には土地を借りているとかなんとからしいけど、詳しいことは忘れた。

日本だけにとどまらず、こういう方策を進めた国は多くある。

世界中の国々はその別惑星のことをフロンティアと呼び、開拓を進めた。

それと同時に民間への物資集めを許可した。

その許可を得た者を通称【冒険者】と呼ぶ。

ちなみに、これは全部、学校の授業で習う。

「冒険者なら嫌なヤツと仕事をしなくても済むかもな」

冒険者でもパーティーを組むことはあるが、嫌なら解散なり、抜けるなりすればいい。

「悪くないな」

俺は26歳だからまだギリギリ若いと思うし、遅くはないと思う。

正直、会社勤めはもう嫌なのだ。

だったら、冒険者で一攫千金を狙うのも手ではある。

冒険者は危険も伴うが、儲かる。

実際、儲かった人間は多いし、テレビや雑誌に引っ張りだこなスター冒険者もいる。

俺は部屋の隅に転がっている刀を手に取り、抜いた。

この刀は父親にもらった俺の宝物である。

もちろん、刃引きはしてある。

「剣術の覚えはある…………ブランク8年だが」

18歳まで変わり者の父親に剣術を習ってきた。

大学で遊びを覚え、振らなくなったが、物心ついた頃から毎日振ってきた。

「フロンティアの魔物がどれくらいの強さなのかは知らないが、その辺の高校生でも冒険者をやっているみたいだし、この俺ができないはずがない」

ちなみに俺が無駄にかっこつけているのは酔っているからである。

自覚はある。

「やるか……」

俺は普通の人生を送りたかった。

会社勤めで頑張り、嫁さんをもらい、休日に子供と遊ぶ。

そんな普通と呼ばれる人生だ。

だが、現実は会社をクビになるわ、嫁や子供どころか、彼女もいない。

「ヤケ酒を飲んで、涙を流す人生に何の意味があろうか……いや! ない!」

俺は刀を鞘に納め、立ち上がると、目を閉じた。

「俺は沖田ハジメ! 新選組の誰かさんと誰かさんと同じ名を持つ者なり!」

俺はそう言って、居合切りで刀を振るう。

しかし、かなり酔っていたらしく、振った刀が手からすっぽ抜けていってしまい、タンスに突き刺さってしまった。

「あー!! 俺の刀とタンスがー!!」

『うるせーぞ! 隣!! 今、何時だと思ってんだ!?』

お隣さんから怒鳴り声が聞こえてきた。

お隣さんは余り物とかをくれる良い人だけど、ちょっとかたぎではないのだ。

「さーせん!!」

今日はもう寝よう……

飲みすぎだわ。