軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第440話 大ダメージ

鼻からの出血により血が滴り落ちているものの、蓮さんの目はアールジャックさんだけを捉えていた。

集中力が極限まで高まっているのが、素人の私でも分かる。

最初は試合続行に心配そうにしていたアールジャックさんだったが、蓮さんの目を見て再び拳を構えた。

これまで模擬戦大会では派手な流血がなかったため、いつもと違った空気に感じる。

「意識を断つつもりで殴ったんだが……攻撃を受ける瞬間にポイントをズラしたのか?」

「ああ。顎だとヤバいと思ったから、顔を下げて頬で受けた」

「全身の力を抜きながら、後ろにも軽く跳んでいるよな?」

「パワー型の強い人が身近に2人いるんだ。そのお陰で、何とかダメージを最小限に抑えることができた」

蓮さんの身近なパワー型の2人とは、美香さんとドニーさんのことだろう。

私には完璧に攻撃を受けたようにしか見えていなかっただけに、ギリギリの受け身を取っていたことに驚き。

蓮さんの返答を受け、アールジャックさんは納得したように笑うと、一気に距離を詰め始めた。

手加減はいらないと確信したようで、先ほどと同じ本気の圧力を感じる。

そこから始まったのは、アールジャックさんによる一方的な攻撃。

腕を振っているだけなのに、ブンブンという風切り音がここまで聞こえてくるほどの凄まじい威力。

蓮さんはステップで上手く捌き、木剣でガードしてクリーンヒットは避けているものの、ガードの上からでもダメージを受けているように見える。

アールジャックさんは攻撃を行う度、動きが鈍くなるどころかギアが上がってきているため、大ダメージも負っている蓮さんは厳しい。

私に限らず、観客の誰しもがそう思っていたはずなんだけど――腕の回転力が上がっているアールジャックさんの攻撃に、蓮さんは初めて攻撃を合わせた。

クリーンヒットこそしなかったものの、タイミングは完璧であり、終始笑っていたアールジャックさんも驚きの表情へと変化した。

客観的に見ても、蓮さんに何か変化したところはない。

むしろ頬の腫れが酷くなっているのに、タイミングが合い始めているのだ。

アールジャックさんの10発の攻撃に対し、1発しか返せていないものの、その1発のカウンターが鋭く、速く、重くなっている。

そして、とうとう蓮さんの木剣がアールジャックさんの胸部を捉えた。

ボロボロな体で押され続けていた蓮さんが一歩リードしたことにより、観客のボルテージは今日一番にまで上がる。

対するアールジャックさんは理解できないといった表情を浮かべながらも、攻撃の手は止めずに前進を開始した。

ただ、ここで蓮さんの足が光り輝き、凄まじい速度で前進したアールジャックさんと入れ替わるように背後へと回り込んだ。

背後からの一撃で試合終了――と思ったが、絶対王者として闘技大会で戦っていた者の勘か、振り返りながら勢いをつけて振り下ろした拳が蓮さんの顔を捉えた。

これでクリーンヒット数は2-2となり、勝負はまた分からなくなり、私の胸も煮えたぎってきたところで――。

「試合終了! クリーンヒット数3-2で蓮の勝利!」

頭の中に疑問符が浮かんだけど、この位置から見えていなかっただけで、差し違えるように蓮さんの木剣がアールジャックさんを捉えていたらしい。

蓮さんは高々と拳を上げたものの、最後の一撃をまともに食らってしまったからか、倒れてしまった。

「救護班、すぐに来てくれ。……ナイスファイト」

アールジャックさんは迅速に救護班を呼び、担架に乗せられて運ばれていった蓮さんに声をかけた。

アールジャックさんが与えたダメージの方が上回っているのは明白なものの、勝者は蓮さん。

結果に納得がいっていなかったら申し訳ないな。

「アールジャックさん、お疲れ様でした。凄まじい激戦でしたね」

「佐藤さん、ありがとう。まさかの3回戦での敗戦に体が震えている。負けるとしたらライムかガロさんだと思っていたからな」

本当にアールジャックさんの手はブルブルと震えていた。

ただ、凄く穏やかなように見えるし、怒りで震えているというよりは感情過多で震えている感じだと思う。

「でも、闘技大会のルールではアールジャックさんの勝ちですよね? ダメージで見ても、アールジャックさんはまだまだ戦えそうですし、納得がいっていなかったら申し訳ありません」

「納得がいっていないことなんかない。蓮の方が明らかに俺を上回っていた。それに、木剣ではなく真剣だったのなら、死んでいてもおかしくないからな」

男らしいというか、誠実というか、何というか……。

強面に加えてとんでもない肉体をしているから怖く見えてしまいがちだけど、アールジャックさんは凄く良い方だ。

「そう言ってもらえて安心しています。また来年も開催しますので、ぜひ参加してもらえたら嬉しいです。またこの後も大会は続きますので、最後まで見ていただけたら幸いです」

「俺はギナワノスの闘士だから、参加の確約まではできないが……タイミングが合えば必ず参加させてもらう。大会についてはもちろん見させてもらうつもりだ」

アールジャックさんはそう言うと、手を上げて医療テントへと向かっていった。

ギナワノス組のお陰で、今年は更にグッとレベルが上がったからね。

来年の参加も楽しみに待つとして、模擬戦大会の続きも非常に楽しみだ。

蓮さんはだいぶ厳しい状況になってしまったと思うけど、戦える状態なのであれば、アールジャックさんの分まで頑張ってもらいたいな。