軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第395話 変則的

片膝をついたアールジャックさんは、鼻だけでなく口からも出血しており、そこそこのダメージを負っているように見える。

膨張で手を離させ、意識外から叩き込んだ一撃だったこともあって、かなり効いたようだ。

「今の膨張も、回転しながらの攻撃も私が教えた技。ちゃんと使えるようにしていたのは流石ね」

「ベルベットさんが教えたというより、漫画で見た技ですよね?」

「そうだけど、教えたのは私だから」

ライムを育てたのは私と言いたげに、ベルベットさんはドヤ顔で胸を張っている。

実戦に生きたアイデアを生んだ作者さんがまず凄いのだが、今は議論している場合ではない。

ライム優勢とはいえ、アールジャックさんはまだ諦めていない。

むしろ不利だからこそ、無茶な攻めに打って出る可能性が高いと思う。

「ライムにどう対応するんでしょうか? まだ諦めていない雰囲気がありますよね!?」

「私にはさっぱりです。打開策が一つも思いつきません」

アールジャックさん側に立って考えてみても、ライムへの対抗策は浮かばない。

武器があれば話は変わるだろうけど、この試合も無手で臨んでいる。

注目が集まる中、アールジャックさんが取った行動は――腰を落として拳を構える、という原始的なもの。

ただ、攻撃は最大の防御とも言える。

受け止めもガードも薄いと分かった以上、逃げ場の少ないコロッセウムでは攻撃に活路を見いだすしかない。

ただ、近づいた瞬間にライムはぶっ飛んでくる。

残された選択肢は、その場で構えること。

正直、負けている状況でアールジャックさんが動かないなら、ライムも動かなければ時間切れで勝てる。

けど、ライムはそういうタイプではない。

そもそも優勝より、強い相手と戦いたい思いで参加しているのだ。

そんな思いに呼応するように、ライムは体を小さく震わせ――全速力で突っ込んでいった。

真正面からの突進に対し、アールジャックさんは捻った体を引き戻すように、溜めた拳を放つ。

ライムの突進とアールジャックさんの右ストレートが衝突する――かに見えたが、ライムは拳とぶつかる直前で空中へ回避。

思い切り振り下ろした拳が空を切り、体勢を崩した瞬間、ライムはその隙を狙って上から落下。

正面から殴り合うと思っていたが、逃げなかっただけであって、変則はライムの十八番。

そこからは一方的なライムの攻めが続き、倒れこそしなかったものの、試合はアールジャックさんの完敗で幕を閉じた。

「しょ、勝者は……ら、ライム!」

審判も気まずそうにコールし、会場はやや白けた空気に。

アールジャックさんを圧倒したことでライムのファンもついたようではあるけど、絶対王者でも魔物には敵わないのか……という空気が流れてしまっている。

「ライムが強すぎましたね。よくて引き分けかと思っていたので、圧勝には驚いています」

「戦法が多彩ですもん! 強いスライムって、かっこいいですね!」

強すぎて忘れそうになるが、世間的には最弱とされるスライム。

分身・分裂・目くらましが使えない状況で勝ち上がるのは難しいと思っていたが、ライムは私の想像に収まる器ではなかったということ。

「模擬戦大会の時より明らかに動きが良くなっている。修行の旅で随分と成長したみたいだな」

ルーアさんの独り言に、マッシュは激しくうなずく。

弾丸のような突進、回転体当たり、膨張――体の使い方を修行で磨き切ってきたんだと思う。

「これで決勝はガロさん対ライム。知り合い対決は応援が難しいですね」

「ライム全力応援!――と言いたいけど、相手がガロさんでは厳しいですよね! せめていい試合になりますように!」

絶対に盛り上がるとされていた中で、ここまでの空気は冷め気味。

このうえ決勝までライムが圧勝したら……想像するだけで怖い。

私もジョエル君と同じく好勝負を祈ったんだけど、私の願いを裏切るような展開だった。

流れは準決勝と同じく、ライムが体を引き伸ばし突進――だが、とにかくガロさんに攻撃が当たらない。

正確には触れてはいる。

だけど、力を受け流され続けるのだ。

変則も交え幾度となく仕掛けるも、ガロさんは動きを完全に読む。

すべてに対応されてしまう。

一方で、ガロさんもライムに決定打を通す手立てがなく、決勝にして世紀の大凡戦。

延長に次ぐ延長の末、受けたダメージはわずかにライムが上――そんな曖昧な判定で、ガロさんが十数年ぶりの復帰優勝を果たした。

“絶対に盛り上がる”はずの記念大会でこの結果。

支配人さんは終始頭を抱えていたし、来年以降、魔物の参加は認められないだろうなぁ。