軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第332話 大好評

ベルベットさんのサプライズ来客はあったものの、宿のオープン初日は特に大きな問題もなく、無事に終えることができた。

少し心配なのは、食事があまり頼まれないこと。

選択制にしている上、日本の料理を提供する都合上、それなりの値段になってしまうからね。

宿泊してくれた8割ほどのお客さんが、夜ご飯を希望しないとのことで、少し焦りはしたものの……やっぱり朝食を食べさせてほしいという依頼が殺到した。

朝食は夕食に比べて安価というのもあっただろうけど、夕食を食べたお客さんの反応が良かったのが大きいと思う。

大浴場や休憩室、廊下で話を聞いて、この宿の料理を食べてみたいと思ってくれたお客さんが多く、朝食希望者は宿泊客の7割以上。

ここの宿の1番の売りは料理といっても過言ではないし、朝食だけでも希望してもらえて一安心している。

本当はご飯付きでの提供がしたかったんだけど、イベント用で建てたこともあって、選択できるようにしてしまった。

夕食希望が少なかったから後悔していたけど、一夜にして評価がひっくり返ったのは感謝しかない。

とはいえ、朝から急に仕事が増えてしまったため、ノーマンさんのお弟子さん達に声をかけつつ、私も微力ながらお手伝いをする。

そして、食事を取ることができる時間と同時に1人目のお客さんがやってきた。

この時間帯に来るのは老夫婦かと思っていたけど、まさかのベルベットさん。

目の下が若干黒ずんでいるし、休憩室で漫画を読み耽っていたに違いない。

「ベルベットさん、おはようございます。眠そうですが寝ていないんですか?」

「ううん、寝たわよ? ……1時間だけだけど」

「やっぱり寝ていないじゃないですか。せっかく泊まりに来たんですから寝てください」

「漫画を置くのが悪いのよ。気になって読んでいる内に、あっという間に日が明けちゃったんだもん」

ふぁーあと、大きな欠伸をしながら抗議してきたベルベットさん。

確かに気になるかもしれないけど、一応5巻以内に完結する漫画のみを集めたからね。

キリのいいところで止めないほうに問題があると私は思ってしまう。

「短い巻数で終わるものが多いですし、1作品読み終えたらキリがいいと思うんですけど……」

「他にもあるなら読んでしまうのが、読書家の性なのよ。私の他にも、結構な人が夜更かししてたわよ。まぁ、朝まで読んでいたのは流石に私だけだったけど」

ベルベットさん以外にも利用者がいたんだ。

漫画を広めたいという気持ちもあるため、これは嬉しい報告。

「利用者が多いのは嬉しいですね。いずれはベルベットさんの作品もーー」

「絶対に駄目! 佐藤たちにだから見せれたけど、一般の人には見せられないから!」

「絶対に大丈夫です。いずれはベルベットさんの作品を売り出すんですから、ここから広めておいた方がいいですって」

「売り出すことも、まだ許可はしてないから!」

「でも、ベルベットさんの作品を読んで、漫画の文化が広まったら嬉しいって言っていたじゃないですか」

「それは言ったけど……まだ駄目!」

両手でバツを作り、断固拒否してきた。

まだということは、いずれは許可してくれると思うんだけど……いつになるだろうか。

私としては、ローゼさんとの合作を狙っているんだけどね。

「分かりました。許可が出るまでは待ちます」

「いつ出せるか分からないけどね。それより、お腹が空いたわ」

「立ち話をしてしまってすみません。すぐに用意しますね」

ベルベットさんには席で待っていてもらい、私は朝食を持って渡しに向かう。

今日の朝食は白米、目玉焼き、ソーセージ、切り干し大根、お味噌汁。

完全なる和食で、こちらの世界の方には馴染みがないだろうけど、異世界がコンセプトの宿だからね。

食べたらきっと美味しいと思ってくれるだろうし、全面的に和を押し出していくつもり。

「うわー! 朝食も凄く美味しそう!」

「お好みで調味料を使ってください」

ベルベットさんに至っては慣れ切っているし、美味しそうという反応しか見せていない。

それから朝食を食べるベルベットさんを見ていたんだけど、本当に美味しそうに食べてくれる。

私までお腹が空いてきたところで、続々と食堂に人が集まってきた。

決まった献立のため、すぐに準備ができるのは非常にいい。

初めての和食に戸惑いを見せる人が大半だったけど、凄まじく美味しそうに食べているベルベットさんを見て、すぐに不信感もなくなった様子。

朝食の反応も上々であり、いずれはここに納豆も加えるのが私の夢。

今はまだ拒否反応を示されるのが目に見えているけど、やっぱり納豆があってこその和の朝食。

もちろん慣れる慣れない以前に苦手な人も多いだろうし、ご自由に取ってくださいというスタイルにはするけど。

私は一頻り、お客さんが朝食を食べるのを見守ってから、農作業へ向かうことにした。

連泊のお客さんはいなかったため、この宿の初めてのお客さんはこれでチェックアウトとなる。

本音を言うならお見送りまでしたかったけど、私には私のやるべきことがあるし、今後も当たり前に経営していくのであれば、最初のお客さんだからといって特別扱いはしない方がいい。

どんなお客さんにも平等に丁寧に扱うのが、おもてなしをする上での鉄則。

そう自分を無理やり納得させてから、私はせっせと農作業を勤しむのだった。