作品タイトル不明
第325話 完成した宿
秋の作物を育て始めてから、約1週間が経過した。
全てが順調に来ている中、とうとう宿が建設できたようで、自信満々なシッドさんが顔を見せにやって来た。
「佐藤さん、待たせちまって悪かったな。ようやく宿が完成したぜ」
「全然待っていませんよ。早すぎるくらいですし……急ピッチで建設してくださり、本当にありがとうございます」
私は深々とシッドさんに頭を下げた。
シッドさんは気にしなくていいと言ってくれているけど、シッドさんには助けられてばかりだからね。
最近はお金が回るようになったため、しっかりとこの世界のお金も支払えるようになったけど、最初期はDVDだけで全ての仕事を引き受けてくれていた。
まぁシッドさんにとっては「DVD >>> お金」みたいだし、今もお金はいらないって言ってくれているけど。
「本当に構わねぇって。頼まれて建ててはいるが、俺も好きで建てているからな。毎シーズンごとにイベントを開いてくれているし、娯楽も超豊富で飯も馬鹿みたいに美味い。宿くらいならいくらでも建てるって話だ」
胸をトンと叩いて、かっこいいことを言ってくれたシッドさん。
私はその後も何度も感謝を伝えつつ、完成した宿を見せてもらうことにした。
「客室は全部で50部屋。1部屋あたりは狭いが、その分客室を増やさせてもらった」
「ありがとうございます。全部で5階まであるんですか?」
「ああ。各階11部屋ずつあって、1階だけは6部屋だけ。その代わり、1階には従業員用のフロアをいくつか用意してあって、佐藤さんたっての希望である大浴場も造った」
「全て注文通りですね! ……うっわぁ! フロントから豪華です!」
異世界の宿ということもあり、当初は和風テイストの宿を目指していたんだけど、部屋数を多くしたいということで、今回はビジホ風の宿になっている。
フロントも清潔感が漂っており、参考資料として渡していたビジネスホテルのパンフレットそのままの造り。
さすがに電子ロックやエレベーターはないものの、この世界の宿とは一線を画す素晴らしい造りになっている。
まずはフロントに向かい、フロントに立っているソアラさんから鍵を受け取った。
「本来ならお名前と料金を受け取ってから、鍵を渡す――でいいんだよね?」
「はい、バッチリです。ソアラさん、フロントの感じはいかがですか?」
「凄く使いやすい! 部屋の鍵も分かりやすく配置してくれているし、バックヤードも凄く広いよ!」
「それは良かったです。再来週あたりにはお客さんを入れるつもりですので、今のうちに慣れておいてくださいね」
「うん! これまで働いていなかった分もちゃんと働くから、期待してて!」
私はソアラさんに笑顔で頷いてから、受け取った鍵の部屋に向かった。
通路の感じも完成度が高く、本当に日本に戻ってきた感覚になってしまう。
5階建てという高さも心配していたけど、耐久面でも一切問題ないし、シッドさんの腕の良さがよく分かる。
全てに感動しながら、やってきた101号室。
「鍵も凄いしっかりしていますね」
「知り合いの鍵職人に依頼したからな。安全面はしっかりしたいって話だったし、こだわって作らせてもらった」
二重ロックになっている鍵を解錠してから、私は部屋の中に入った。
入ってすぐ右側にはクローゼットがあり、少し奥の左側にはトイレ兼シャワー。
そして、スライド式の戸の先がリビングとベッドになっている。
部屋の構造もビジネスホテルであり、テレビが置かれていない以外は再現度が凄まじい。
「シッドさん、凄まじいです! よくここまで再現できましたね!」
「1部屋目は確かに苦労したが、全室同じ造りだからな。トータルで見たら楽ではあったぞ」
「左側にベッドで、右側にテーブルと机。狭くはありますが、部屋としてちゃんと機能しています!」
「佐藤さんが喜んでくれたなら良かった。ノウハウは分かったし、2棟目はもっと早く建てられると思うぜ。無駄がなく、かつ建てやすい造りになっているからな。異世界の建築技術を分からされた気分でもある」
シッドさんの頼もしすぎる発言。
客入り次第にはなると思うけど、すぐに2棟目をお願いすることになるかもしれない。
「ここまで再現できるシッドさんが凄いです。本当にありがとうございました」
「お礼はいらねぇって。俺の仕事をやっているまでだからな。んで、他の部屋も見るのか?」
「いえ、同じ造りとのことですし、他の部屋は別のタイミングで見ようと思っています。ここからは鍵を返却して、大浴場と食堂が見たいですね」
「大浴場は見てもらいてぇな。男湯と女湯の2つは造れなかったが、その分広くて良い大浴場になっているからよ」
面積やお湯の問題もあるだろうし、1つしか作れなかったのは仕方がない。
時間帯で区切れば、男性にも女性にも楽しんでもらえるしね。
ということで、シッドさんの自信作である大浴場に行ってみることにした。
大浴場の前にアイスやコーヒー牛乳を売りたいと思っているけど……それはもう少し先の話になると思う。