作品タイトル不明
第309話 方針
翌日からは、レティシアさんに実際に働いてもらうことにした。
候補は4つあり、農作業の手伝い、宿の手伝い、果樹園の手伝い、建築関連の手伝いである。
ダークエルフの時と同じように、希望するところで働いてもらうのがいいかとも思ったが、育ってきた環境が分からないからね。
全員一緒に働かせた方がいいとか、考える作業よりも力仕事の方がいいとか、詳しく知るレティシアさんに決めてもらう方がいいはずだ。
「ふぅー……。これで4つの仕事体験は終わり、いうことやろか?」
「はい。受け入れるに当たり、いずれかの仕事についてもらおうと考えています。レティシアさんはどう思われますか?」
「うちとしてはなぁ……女の人は農作業、男の人は建築関係で働いてもらうんがええ思いましたわ。獣人やいうだけで嫌がる人がおるんも事実やさかい、まず宿のお手伝いはあかんえ。男の獣人は力強い人が多いし、これまで重労働やらされてきた人もぎょうさんおるし、建築関係が一番合うんちゃうかなって。女の獣人は果樹園やと背ぇが足らん人も多いし、結果的に農作業が一番やと思いましたわ」
なるほど。
的確かつ、それぞれの特徴に合った選出だと思う。
色々な建物を造っていることからも建築関連の手伝いは常に人手を求めているし、農作業に関してはいくらいてもいい人材だ。
レティシアさんの考えに丸ごと乗っかって良さそうだ。
「それでは、そのような配置で働いてもらうことにします。……それで本題なのですが、視察の結果はどうなのでしょうか? ここは受け入れ先として合格ですかね?」
「そりゃ、もちろん合格やね。ルダークに戻って報告したら、すぐこっちに来はると思います。佐藤さん、どうぞよろしゅうお願いします」
「合格と聞けて安心しました。やって来るのを心待ちにしています」
お互いに頭を下げ合い、これにてレティシアさんの視察は終了。
今日までは泊まってもらい、翌朝にレティシアさんはルダークへと帰っていった。
お土産に箱詰めした、いなり寿司を渡したため、きっと帰りの道中も楽しんでくれているはず。
あとは私たちにできるのは、やって来るであろう元奴隷の方々を受け入れる準備を整えること。
新たな仲間が来るのを楽しみにしつつ、準備を進めたのだった。
レティシアさんがルダークに戻ってからわずか4日後の朝。
王都方面から歩いてくる集団が見えた。
あの集団は確実に元奴隷の獣人たちだ。
何より先頭を歩いているのがレティシアさんで、ウキウキした笑顔が非常に可愛らしい。
ただ、やって来るのは早くても秋に入ってからだと思っていただけに、こちらの準備が整っていない。
ルダークに戻って報告をしたらすぐに来るとは言っていたけど、距離の関係から考えても、こんなに早いとは思わなかったな。
「レティシアさん、随分と早かったですね。クリスさんから許可は頂けたんですか?」
「はいな。クリスティーナ様は今ルダークやなくて、別のとこにいてはったんで、早う来れたんです。……来るん早すぎたとか、ありましたやろか?」
「歓迎の会の準備ができていないんですが、今日からでも全然大丈夫です」
「歓迎会なんていりまへん。うちらは受け入れてもらう側やさかいな。今日からどうぞよろしゅうお願いします」
レティシアさんはそんな言葉と共に深々と頭を下げ、後ろにいる獣人族の方々も追随するように頭を下げてきた。
なんというか、レティシアさんの口ぶりが、彼女自身も一緒にお世話になるようなニュアンスなのが気になる。
代表してそう宣言しているだけの可能性もあるけど、一応聞いておいた方がいいかもしれない。
「こちらこそよろしくお願いします。……それで1つ気になったのですが、もしかしてレティシアさんも一緒に移住するのですか?」
「うちはそのつもりで来とるんよ? もうクリスティーナ様からも許可もろてまして、あとは佐藤さんのご返答次第なんやけど……もしかしてあかんかったんやろか?」
「いえいえ。駄目なんてことはありませんよ。ここは来るもの拒まずがモットーですから。ただ、視察という大きなお仕事を任されていましたし、クリスさんにご迷惑がかかるのではないかと思ってしまっただけです」
引き抜きとなったら、一気に関係値が悪くなってしまうからね。
ここはしっかりと確認しておきたかった。
「クリスティーナ様は、うちがおってもおらんでも変わりまへん。うちも6年前にクリスティーナ様に助けてもろた元奴隷でしてな、行くとこなかったさかい、温情で近くで働かせてもろてただけなんよ。うちとしてはクリスティーナ様のお力になりたい思てますけど、いつまでも甘えてばっかりはいられまへん」
「そうだったんですか……。クリスさんって本当に凄い人ですね」
「ええ、うちらにとっては英雄そのものどす」
私はまだこの世界の奴隷がどういう存在なのか分かっていない。
けれど、地球の歴史にあった奴隷と同じ扱いだったのであれば、そこから救ってくれたクリスさんは過言ではなく英雄に思えるはずだ。
そんな凄い人から人材を引き抜いてしまった感じがして、私は結構怖いと思ってしまっている。
けれど、レティシアさんが大丈夫というのなら大丈夫……なのかな?
視察に来ていた4日間だけでも、レティシアさんが凄まじく能力の高い方だというのは分かったぐらいだ。
まぁこの件については、クリスさんと直接会った時に話すとして、今は来てくれた方たちを歓迎するとしよう。