軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第28話 進化

一人黙々と農作業をし始めて約三時間ほどが経ったタイミングで、王都に行っていたシーラさんが戻ってきた。

あの距離を往復で、しかも美香さんのことを報告してきたはずなのに、この時間で戻って来られるって本当に凄いな。

その上、息の一つも切れていないシーラさんに感心しつつ、私は話を聞くことにした。

「シーラさん、おかえりなさい。わざわざ王都まで足を運ばせてしまってすみませんでした」

「いえいえ、気にしないで大丈夫ですよ。それでですが、勇者様のお一人に美香さんのことを伝えてきました」

「なんて言っていましたか?」

「少し時間を置いてから迎えに来るとのことです。酷く心配していた様子でしたから、もし尋ねてきたらお話はした方がいいと思います」

「それは私も同意見ですね。戻るにしても戻らないにしても、話はしっかりとしてください」

「……分かった」

少し前までライムと楽しそうに戯れていた美香さんだったが、分かりやすいようにテンションが落ちている。

会いたくないというよりも、気まずいという感情が勝っているのだろう。

「とりあえず美香さん達のことは、他の方が尋ねてくるまで置いておくとして……シーラさん、一つ聞きたいことがあります」

「え、私にですか? 聞きたいこととはなんでしょうか」

「美香さんが魔力塊をたくさん与えたらライムの体色が変わってしまったのですが、何か分かることはないですか?」

「体色が変わった……? 確かに黒くなっていて、核も少し変形していますね」

そう言いながら、美香さんの隣にいるライムに近づいていったシーラさん。

何か分かることがあればいいんだけどな。

「うーん……なるほど。恐らくですけど、スライムではなくなっていますね」

「スライムではなくなっている? それはどういうことでしょうか」

「そのままの意味なのですが、恐らくダークスライムに進化しています。魔力塊を与えたことで種族進化したのだと思います。私も魔物が進化することは知らなかったのですが……間違いなくライムでありながら、体色や核の形を見てもスライムではなくダークスライムになっていますからね」

ダークスライムへの種族進化。何だかワクワクする響きだ。

多分だけど、美香さんが魔力塊を与えたことで強くなったという認識でいいはず。

「ダークスライムはスライムよりも強い魔物なんですか?」

「一般的にはそう言われていますね。ただ、私的にはそこまで能力に差があるとは思えません。洞窟や暗い場所に生息していて、暗さに溶け込むから厄介ってだけな感じはありますけど」

「なるほど。能力的に見たら微増って感じなんですね。でも、進化したっていうのは凄いです」

スライムといったら、色んな種類があるイメージがある。

実際に商品欄にもスライムやダークスライムの他に、ヒールスライム、スライムアシュ、ヘルメットスライム、ゴールドスライム等、本当に様々な種類のスライムが売られている。

そのことを考えると……今のライムにまた魔力塊を与えると、また別のスライムに進化したりするのだろうか。

さっきは突然の出来事に不安の感情の方が大きかったけど、今は非常にワクワクしている。

もちろん実験のようなことをするつもりはないけれど。

「へー、ライムは私があげた魔力塊を食べて進化したんだ! これって良いこと……なのかな?」

「進化して悪い――ということはないと思いますよ。ただ、短いスパンで進化し過ぎると、もしかしたら体への負担が大きいかもしれません」

「じゃあ、さっきおじさんが言っていたように、今は魔力塊をあげない方がいいんだね。大好物っぽいけど、今は我慢するんだよ」

そう言いながら、足元のライムを撫で出した美香さん。

ほっこりとする光景なのだが、何故かシーラさんは火がついたかのような目で美香さんを見ている。

「……美香さん。ずっと言おうか迷っていたのですが、私が我慢ならないので言わせて頂きます。佐藤さんのことを“おじさん”と呼ぶのは止めてください。ちゃんと佐藤さんとお呼びください」

「――あ、ごめんなさい。名前知らなかったから、おじさんって呼んじゃってた」

「いえいえ、別に気にしないで大丈夫ですよ。実際に私はおじさんですから」

「いいえ、絶対に駄目です! ここにいる以上は佐藤さんは佐藤さん。私のことはシーラと呼んでください。――ベルベット様にもそう仰ってましたよね?」

今度は私にキッと視線を向けてきたシーラさん。

確かに、ベルベットさんにはそう言いつけていた。

私と同じ境遇、しかも年端もいっていない若者、そして何と言ってもいきなり勇者として期待されるプレッシャー。

そういう背景もあったから、無意識のうちに優しくなり過ぎていたのかもしれない。

いやまぁ、本当に呼ばれ方はおじさんのままでいいんだけども。

「確かにそうでしたね。美香さん、シーラさんが仰ったように、私のことは佐藤。シーラさんのことはシーラさんとお呼びください」

「分かった! 二人とも敬称はいらないみたいだし、シーラと佐藤でいい?」

「距離の詰め方が少し気になりはしますが、まぁ良いでしょう。それでは佐藤さん、農作業を行いましょうか。私が離れていたので進んでいませんよね?」

「そうですね。ライムの進化もあって、まだまだ残っています」

「大変なら、私も手伝うよ! 見ていて、ちょっと面白そうだと思ったし」

「本当ですか? ありがとうございます」

こうして戻ってきたシーラさんに加え、手伝いを願い出てくれた美香さんと一緒に農作業を再開した。

勝手が分かっていない美香さんでも、やはり三人での作業は早いと改めて思うな。