軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 王都

シーラさんと目標を決めた日から五日が経過した。

収穫した後も新しい種を植えなかったことで、今は畑には何も植えられていない状態であり、これでいつでも王都に行ける準備が整った。

月に一度、王都から食材を届けに馬車が来てくれるため、それに乗って王都に戻ることも考えたのだが……。

畑を空にした状態にして、数日待つというのは愚策ということで、歩いて王都に向かうことに決めた。

距離は約20キロということで、多少大変ではあるけれど、決して行けない距離ではない。

シーラさんに至っては、走ったとしても準備運動にもならない距離だろうし、私が足を引っ張らないように頑張らないといけない。

「佐藤さん、準備はできましたか?」

「はい。しっかりと戸締まりもしましたし、準備万端です」

「それじゃ王都に向かいましょうか」

「あっ、ちょっとだけ待ってもらっていいですか? ライムに挨拶したいので」

「もちろんです。大丈夫だとは思うのですが、ライムだけは少し心配ですね」

「そうですね。ご飯となるゴミもありますし、ここで大人しくしていてくれればいいのですが……」

「まぁ走れば片道40分くらいの距離ですし、私が様子を見に来ます」

「ありがとうございます。もし、長期滞在せざるを得なくなったときはお願いします」

「はい。任せてください」

シーラさんに深々と頭を下げた後、私は外にいるライムの下に向かった。

いつものようにポヨンポヨンと跳ねて遊んでいるライムに、私は王都に行くことを伝えた。

「数日間、王都に行ってきますのでお留守番よろしくお願いします。何かありましたらシーラさんが戻りますので」

言葉が理解できていないと思うけど、念のためそう伝えてから、優しくライムの体を撫でた。

軽く伸びたり丸くなったりしており、嬉しそうにしてくれているライムと別れ、私はシーラさんと共に王都を目指して歩みを進めた。

別荘を出発してから約3時間。

出発前の不安に反し、かなり余裕を持って王都に辿り着くことができた。

就職してから碌に運動をしていなかったため、絶対に道中でへばってしまうかと思っていたのだけど……。

転移してから農作業や山遊びをしていたお陰で、知らぬ間にかなり体力がついていたようだ。

「佐藤さん、お疲れ様です。王都が見えてきましたよ」

「録に観光もしませんでしたし、1ヶ月ぶりですので初めて訪れたと思えるぐらい新鮮な気持ちです」

「実はなのですが、私もかなり新鮮な気持ちです。王都には良い思い出がなかったので、清々しい気持ちで王都に入るのは初めてです」

「それは良い感情と思っていいんですかね?」

「もちろんですよ。そうでなきゃ、別荘に残るなんて選択はしていません。佐藤さんには……本当に感謝しています」

少し照れくさそうに感謝の気持ちを伝えてきたシーラさん。

これから王都に入るというのに、私の方まで顔が赤くなりそうだ。

「私の方こそシーラさんには感謝してます。……な、なんだか改めますと照れくさいですね」

「ふふ、確かにそうですね」

「そ、それでここからの動きはどんな感じでしょうか? 身分証とか持っていないのですが、街の中に入れますかね?」

私は恥ずかしさを誤魔化すように、どうしたらいいのかを尋ねた。

前の人達の動きを見る限り、荷物検査と身分確認を行っているようだが……私は身分を証明できるものを持っていない。

「私は特別な身分証を王様からお預かりしていますので、その点の心配はしなくて大丈夫ですよ。ほぼ素通りできると思います」

「そうなんですね。安心しました。別荘をお貸しして頂いた時点で分かってはいましたが、やはり私はかなりの好待遇を受けているんですね」

「もちろんですよ。佐藤さんは巻き込まれた被害者なのですから。もう少し横柄な態度を取ってもいいぐらいです」

「いやいや。これだけ良くしてもらっていますので、横柄な態度なんか取れませんよ」

そんな会話をしつつ、シーラさんについていくような形で私は身体検査を受けた。

内心ヒヤヒヤしていたのだが、シーラさんが言っていたように、ほぼ何もされることなく通してもらうことができ、私は無事に王都に入ることができた。

王都から出た時は馬車の中に入ったまま、周囲の景色を見ることもなかったため、王都を歩くのは実質初めて。

本当にゲームの世界に迷い込んだと思うほどの街並みで、何かあったとかではないんだけどワクワクが止まらない。

「佐藤さん、随分と楽しそうですね。田舎が好きという認識でしたので、てっきり人の多い場所は苦手なのかと思っていました」

「人の多い場所よりかは少ない場所の方が好きですが、王都の街並みは物語の世界にいるかのようで楽しいんです」

「物語の世界ですか……。私にとっては当たり前の光景ですが、佐藤さんから見るとそんな感じなのですね。私は佐藤さんが住んでいた所に行ってみたいです」

「まるで別の世界ですので、シーラさんはきっと驚くと思いますよ」

「料理だけであれだけ違うんですもんね。そう言われたら……ますます行ってみたくなりました」

いつかシーラさんを案内したいが、向こうの世界からこちらの世界に戻ってくる術はないため、現実的な話ではないだろうな。

私は仕事で心が折られてはしまったが、決して悪い世界ではない。

娯楽に溢れているし、24時間やっているコンビニのご飯でも驚くほどに美味しいしな。

せっかくならシーラさんに、もっと日本を好きになってもらいたい。

そんなことを考えながら王都を歩いていると、あっという間に王城に辿り着いた。

さて観光気分はここまでで、ここからは交渉を行わなくてはならない。

頬を叩いて気合いを入れてから、私はシーラさんと共に王城の中に入った。

街の中に入った時と同じように、王城にもあっさりと入れてもらうことができ、そのままの足で玉座の間へと向かう。

シーラさんが話を進めてくれるお陰で、ここまで非常にスムーズ。

シーラさんと一緒に誰もいない玉座の間で待っていると、奥からやってきたのは王様――ではなく、非常に綺麗な若い女性。

ティアラのようなものを身につけていることから……王妃だろうか。

「……佐藤さん、王女様です」

私が首を捻っていると、シーラさんが即座に耳打ちして教えてくれた。

ここまでの案内といい、本当に仕事ができる人だ。

「王女様。わざわざお越しくださりありがとうございます」

「堅苦しい挨拶はいらないわよ。今日は何の用でやってきたの? 田舎暮らしには飽きた――とか言わないわよね?」

美しい王女様という見た目に反し、口調が少しだけ雑。

言い回しにも若干刺があるように感じるし、金銭をねだりに来たと思われているのだろうか。

「いえ、決してそんなことはありません。王様のお計らいのお陰で楽しく過ごさせてもらっています」

「ふーん、そう。なら、何でやってきたの?」

「王様に少しご相談がしたいことがあって訪ねてきました。今、王様はどこにいるのでしょうか?」

「いいから、まずは私に言いなさい。内容次第でお父様に話を通してあげるから」

私は確認も兼ねてチラッとシーラさんを見ると、小さく頷いてくれた。

話しても大丈夫という合図と捉え、私は王女様にここにきた目的を伝えた。

「――ということをしてもいいかの許可を貰いに来たのです」

「…………ふーん」

「それで、王様にお話は通してもらえますか?」

「お父様は王都にいないから無理ね。転生してきた勇者達と一緒にラテールの街に行ってるの」

「え、えーっと、何日後くらいに帰ってくるのでしょうか?」

「さあ? 二週間前くらいに行ったから、そろそろ帰ってくるんじゃないかしら」

そうとだけ言い残すと、王女様は立ち上がって部屋から出ていってしまった。

思わず『はぁ!?』という声を上げそうになったが、ギリギリのところで言葉を呑み込む。

「…………行ってしまいましたね。一体何だったのでしょうか?」

「王女様はいつもあんな感じなので気になさらなくて大丈夫です。嫌われると非常に面倒ですので、佐藤さんの対応は大正解でしたよ」

「そうだったんですか。すぐ行ってしまいましたが、私は嫌われた訳じゃないんですね」

「はい。楽しそうにしておられましたし、どちらかといえば気に入られたと思います」

そう……なのか?

私には終始ムスッとしていたように見えたし、去り際も結構酷かったように見えた。

でも、シーラさんは長い間王女様を見てきた訳だからな。

嫌われてはいないと思っていい……はず。

「それなら安心しました。それで、ここからどうしたらいいのでしょうか?」

「数日は待ってみて良いかと思います。それで王様が帰ってこないようであれば、別荘に戻りましょう」

「分かりました。数日は王都に滞在しようと思います」

「せっかくですので、ぜひ王都を楽しんでください。私が王都を案内致します」

「ありがとうございます。楽しませて頂きます」

こうして、私たちは王様が戻ってくるのを王都で待つことにした。

手持ちが一切ないことだけが気掛かりではあったものの、王城を出る際に王女様からということで、金貨五枚を執事さんから頂いた。

私はこの世界の通貨は分からなかったが、シーラさんによれば数日間の滞在費用としては十分すぎる額らしい。

お金を頂けた嬉しさと、本当に嫌われていなかったということが分かり、私は胸を撫で下ろしつつも……何かしら王女様にお返しをしなくては行けないということに気づき、また頭を悩ませたのだった。