軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2.総括執事と領地執事

「影響力を持つにしても、それなりに金の力は偉大だという事さ」

ですよねぇ。

だと思っていました。

「でも、旦那様は今、産出量は多くないって言ってませんでした? それで炭鉱夫雇っても利益出るんでしょうか?」

「多くないというのは語弊だったな。実際は、あるにはあるが、深いんだ。一応地質学者に調べてもらったが、全員同じ事を言っていた」

「それは、危険ですね……」

「表層上ならばいいが、地下深くとなると、かなり危険だ。崩落、有害ガスなど、リスクが増す。それを考えると、廃坑にしたほうが良いだろう。人の命には代えられない」

旦那様の言っていることは尤もな事だ。

でも、それを分かろうとしない一派がどこにでもいる。

それが、今騒動を起こしている人たちという事なんだろう。

「あの辺一帯の管理をしている相手とロックデルが繋がっていた。すでに首にして、今は新しいトップをすえているが……流石に抑えがきかないようだ」

炭鉱夫たちも一枚噛んでいるのかどうかは分からないけど、もし噛んでいたとしてもおそらく一部の人間だけだと思う。

大多数の人間が、何も知らずにずっと雇われて危険な仕事に従事させられていると考える方が普通だ。

炭鉱夫で働いていた人間にいきなり別の仕事に就けと言ったところで苦労するのは当然だし、できるなら慣れた仕事に戻りたいと思うだろう。

しかも掘れば掘るだけお金になるのなら。

そこをロックデルと、その一帯を管理していた人間に利用された。

「ところで、前から思っていたのですが、お義父様時代の人って、ロックデルみたいな人ばかりなんですか?」

なにせ優秀な人材は中央に引き抜かれるくらいには人手不足の時代だ。

領地に残っているのは――まあ、期待できないような人が多そう。

「流石にそこまで祖父も馬鹿じゃない。ある程度は残されているが……適性があるだろう? 人には」

つまり執事になるべき適性がほとんどない人ばかりだったんですね。

なんか本当に運がない。

「ロックデルは余計な野心さえなければ、祖父も安心して父を任せたんだろうが……」

旦那様、大変だったんですねぇ。

同情はしませんけど。

「ちなみに、領地執事はラグナートの後輩だ。そして、教え子でもあるらしい。それをいうならロックデルも後輩であり教え子ということで間違いないが」

「……はい?」

え? ラグナートの教え子……とは?

良く分かっていないわたしに、旦那様が呆れたように言った。

「なんだ、知らなかったのか? ラグナートはベルディゴ伯爵家の分家筋の家臣だが、実際にベルディゴ伯爵家で働く前は、教員をしていたんだぞ」

「そういえば、そんなことを昔聞いた気も……」

「まだ、父親が生きていた時代の話だそうだ。優秀な人間を育てるのも、仕事の内だとか。私も知らなかったが、ラグナートに教えを受けた人間は相当いるらしい。他家の事に詳しくもなるな」

いやぁ、うちの執事すっごい優秀! とか思っていたけど、本当に何者なんでしょうね?

割と本気で謎だ。

「総括執事がラグナートに決まったと聞いた瞬間、蒼褪めていたらしいぞ。今回どんな顔してラグナートと会うのかと想像すると面白いな」

くくっと楽し気に笑う旦那様。

領地執事とは、総括執事の次席執事で、基本的には皇都に留まり不在がちになる当主と総括執事の代わりに領地に目を光らせる人物だ。

総括執事は当主のために動く存在で、社交性などの多くの技能が必要になるが、領地執事は領地の事を管理するので実務的な事が多く要求される。

ちなみに、ベルディゴ伯爵家にもいる。

私が結婚する際に、隠居すると言ったまだ三十歳の若手が。

現在は誰がやっているかは分からない。ラグナートあたりに聞けば分かるかも知れないけど、知ろうとは思わない。

そんな、領地を管理する領地執事には当然のように領主並の先見が要求される。

なにせ、何かあった時にいの一番に判断して動かなければならない。

もちろん、大事の場合即座に領主に知らせる必要があるけど、自分の裁量でできる限りの事はしなければならない。

つまり、切れ者であることが多い。

総括執事にも当然同様の能力が求められるけど、そもそも当主と常に共にある人間が無知である筈もない。

「当然ロックデルとは相性最悪だったが、領地に関しては私以上に良く知っている。中央に取られる前に、祖父がさっさと婚約させてたな。今は婿入りという形で、分家を継いでいる。祖父は、ロックデルを領地に残すよりも外に出した方がましだと思ったんだろうな」

婿入りだと、家を守るために中央には行けませんって言い訳使えるわけだ。

なるほど、勉強になります。

「私の代になった時、かなり大きく人事を動かしはしたが、重要な場所は多かれ少なかれ厄介な人物も多くてな……最近は戦争もないせいで団結していた家臣も野心を覚えている。押さえるのが大変だ」

目が鋭く、黒い気配を漂わせながら旦那様が口角を上げた。

なぜでしょうね……旦那様に目を付けられている方……ご愁傷さまとしか言えないんですが。

というか、旦那様。

今回の帰郷で一気に全部片づける気ですね。

体制が整ったという事でしょうか?

「ところで、リーシャ。余計なトラブルを呼び込まないためには私と夫婦仲は良好だと思わせておいた方がいいからな」

「……ちなみに聞いておきますけど、どの辺まで?」

片眉をあげながら楽しそうに口元に弧を描き、こっちを見ている旦那様。

その瞳に何やら嫌な予感。

すっと手を伸ばしてきて、肩に流している髪を一房手に取り、旦那様はそのまま口づける。

その仕草はあまりにも様になりすぎていて、わたしの頬が赤くなった。

何せ、女子なら誰もが認めるような美貌の持ち主。

そんな旦那様は口づけたまま上目使いで――

「キスぐらいはして見せるか?」

と言った。

私は即座に叫んでいた。

「絶対無理です!」

「それは、残念。では、二人きりの時で我慢しよう」

それも、無理です!

真っ赤になったまま睨むと、旦那様は意地悪そうな目をしたまま、肩をすくめた。

その時やっと気づいた。

からかわれた!

と。