軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7.お昼寝と一時的なお別れ

真面目な話、ここまで聞いてちょっと迷った。交配されて人工的に生み出された獣とは訳が違う。

室内で飼われる動物は多少の気の荒さは個体差であるだろうけど、人を本気で害するような力はないと思う。

しかし、この子は自然界で生きてきた子だ。

どういう経緯でこの国に運ばれてきたのかは分からないけど、野生本能はどの子よりも強い。

今はまだ小さいけど、旦那様が言う通り、本気を出せば十分脅威になるのだ。

「先に言うが、私は反対だ。そのうち人さえ殺せる害獣になり得る可能性がある獣を側で飼うのは危険だ。体長は二メートルを超え、体重だって相当なものだ。そんな獣に襲われたら、ひとたまりもない」

「でも……大人しいですし」

「リーシャ、今は大人しいが将来どうなるかは誰にも分からない。人を害するという事例は聞いたことがないが、聞いたことがないだけで、本当のところは分からない」

分からないことだらけのこの種族。

可愛いからと安易に考えていると、痛い目を見る。

わたしは、じっと膝の子を見る。

何かを感じているのか、じっと見返してくるその青い瞳は、とても不思議な色に輝いていた。

それに、本当は――……。

「出来る事なら――、母親の元に返してやりたいとは思いました」

密輸されてきたのなら、もしかしたら母親は探しているのかも知れない。

これだけ小さければ、まだ親離れするには早すぎる。この子もまだ母親に甘えたい年頃だろうし。

「ただ、無理矢理とはいえ親元を引き離されて、再びこの子を受け入れてくれるかは分かりません」

「自然界で生きている以上、失った我が子をずっと気にして待っていることは出来ないな」

「それでも、可能性があるのなら……」

わたしも子供の頃に母親を亡くしている。

もっと甘えていたかったし、守ってほしかった。

母親から引き離されて、小さな身体でここまでの道のりは大変だっただろうと思うと、胸が痛む。

旦那様がわたしの頭をぽんぽんと子供をあやす様に叩く。

「隣国に行って、彼らの生息域に入ることは難しいが、不可能じゃない。正式にこちらから申し出れば、見学くらいはさせてもらえるだろう。今年は、毛刈りの年だったはずだし、時期も丁度この時期だ。忘れているかもしれないが、こちらは大国の公爵家。たかが小国の王が拒否できまい」

うん、すごいです、旦那様。

わたし、実は少し忘れかけておりました……。

実感ないけど、こういう時影響力がすごいんだなと思う。

自信満々で答える旦那様に、確かにリンドベルド公爵家は小国並みの力を持っているのだと感じる。

しかもその後ろ盾が大国の我が国なのだから、確かに拒否するのは怖い。

今時戦争とか武力衝突は流行らないけど、やろうと思えば小国の一つや二つ消せるくらいには軍事力の差は大きいのだ。

で、そんなリンドベルド公爵家のご当主様、ちょっと確認したいんですけど?

「えっと、まさか武力をちらつかせて、とかは言いませんよね?」

まさかね? そんな事しませんよね?

全員こっち見てますよ。

「まさか、もしやるのなら徹底的にやる。今回は手立てがある」

「手立て……?」

なんか急に怪しげな空気になりましたが、気のせいですかね?

「疑わし気な目だな。私をなんだと思っている。基本的には平和主義者だ。ただし、自分に敵対するのなら容赦はしないと言うだけだ」

「平和主義者って言うのかな……?」

ぽつりと零すミシェルに、ラグナート以外が全員同意。

旦那様はすごい不本意そうだけど、全く平和主義って言葉が似合わないって分かってます?

というか、顔が平和主義って顔してないんですよ。

「ところで、リーシャはいいのか?」

「何がですか?」

「流石に、隣国まで行って昼寝は出来ないぞ」

「分かっていますよ」

とはいっても、お昼食べた後のお昼寝は最高で。

むしろ、最近は普通に眠くなる。たぶん、身体が習慣付いているんだと思う。

そっと旦那様がわたしの頬に触れた。

「まあ、顔色はいいな。会った頃に比べると、格段に状態がいい」

「……生活が改善されましたので」

その生活改善までに相当苦労しましたけどね?

思い返すと、若干旦那様に怒りが……。

「さて、ではリーシャが問題ないと言うのなら、せっかくなので公務を受けよう」

「はい?」

「どうせ隣国に行くのなら、ついでだ。こいつのためならがんばると言うのだから、存分に頑張っていただこう」

えーと?

どういう事?

ミシェルとディエゴはわたしの視線に首をふり、ラグナートがそっと一通の手紙を渡してくる。

すでに、封は開けられていたけど、その封蝋に押されていた 印璽(いんじ) を見て、わたしはゆっくりと旦那様を見上げた。

口元が引きつっていないことを祈る。

「あの……これは?」

「皇帝陛下からの贈り物だ」

「も、もちろんお断りする予定だったんですよね?」

震えそうになる手を気力で押さえて、再び見る蝋に押されたその印。

それは間違いなく、隣国皇室の物だった。

「特別重要な事でもなかったから断ろうとは思っていた。ただ、リーシャがやる気になっているので、受けておこう。まさか、隣国まで旅行気分で行けるとでも思っていたのか?」

思っていましたけど、何か?

たぶん、思いっきり顔に出ていた。

過去、国外に出たことは無かったので、ちょっとした小旅行を思い描いていた。

「リーシャ、言っておくがリンドベルド公爵家の人間がおいそれと国外に出れるとでも思っているのか? 一応国賓扱いになる存在なのに。忘れているかも知れないが、リンドベルド公爵家は皇族に最も近しい親族だぞ? 皇族の 人手(・・) が足りないと、こちらに話が回ってくることもある」

旦那様、今いやに人手不足を強調しませんでした?

「どこかの誰かが、勝手に動いてくれたおかげで、皇族が一人いなくなったのを知っているか?」

あー、それは……

はい、存じ上げていますねぇ。

ちょっと、そこのミシェル君! 何自分関係ないですって顔してるのかな?

「実は皇室からいい加減大々的に披露目の席を設けるようにも言われている。国外の社交場なんていうのは、いい機会だ。こっちが準備しなくても、他国から大勢の人間を呼んでくれるんだからな。良かったな、リーシャ。こちらで主催することなく、楽できるぞ」

それは、楽できるのでしょうか、果たして。

旦那様……初めからこの件がなくても国外外交考えていませんでした?

それに、今楽できるぞって言いましたけど、お披露目の様な席は男性が主催する夜会ですよね?

わたしも多少関わって来るけど、主に決めるのは旦那様のお仕事ですよね!

自分の仕事を減らしたいだけでしょう!?

わたしの昼寝時間を奪い取って、あっさりと自分の仕事を減らしに来る旦那様をわたしはじろりと睨む。きっと、この件がなくてもわたしのお昼寝時間を奪う算段でも考えていたに違いない。

今回は自分からお昼寝を諦めると言ったから仕方ないけど、今絶対一石二鳥だったとか思っていそうだ。

信用構築はまだまだかかりそうですよ、旦那様!