軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

5.銀髪碧眼の貴族男性

休憩を終え、再び馬車の中。

ミシェルをじろりと睨むと、相手は悪びれもせず肩をすくめた。

「だって、仕方ないじゃないですか。向こうが用意してくれるって言うなら、着ないと!」

「どこがどう仕方ないのよ。完全に楽しんでたでしょう」

「僕の趣味が女装だって、リーシャ様だって知ってるでしょう?」

はぁっと頭を抱えた。

どこの世界に、自分の護衛騎士が女装が趣味だとバラしたい主人がいるのか見てみたい。

別に、もうあきらめてますけどね!?

だけど、文句は言いたいんですよ。

「でも、アンドレ様はすごいですねぇ。僕を見て一目で女装が趣味だって見抜くなんて」

「というか、おふざけ半分で聞いたんじゃないの? だって、ミシェルが食い気味に頷いた時、ちょっと引いてたわよ。そして、わたしに何か言いたげな視線を向けてきたわよ」

見なかったことにしたけど。

「そうですか? でも、準備してくれるって言ったんですから、ここはほら、護衛の立場としてはリーシャ様に貼りついていないと」

あっそう?

ものは言いようだ。

多少その事も考えていただろうけど、あの時のミシェルはわたしの事なんてすっかり忘れているようだったけどね。

「やだなぁ、そんな目で見ないでくださいよ。ねぇ、ロザリモンド様」

「ロザリモンド嬢に助けを求めないでよ」

そんな会話が繰り広げられているうちに、アンドレ様の知り合いのお貴族様の邸宅に到着した。

邸宅というよりも、別荘に近い感じがした。

小さな森の中にぽつんと立っているそこは、世俗から離れた生活をするのにもってこいだ。

普通の邸宅はもっと生活しやすいところに構えるもの。

例えば、街の中とか。

「なぜか胡散臭い気がするのはなぜだと思う?」

「あ、それ聞いちゃいけない奴ですよ。そういう事言うと、面倒事巻き込まれるんですから」

「あら、ここは……」

ロザリモンド嬢が何かに気づいたようにつぶやいた。

「知ってるんですか?」

「いえ、はっきりと知っているわけではないですが、確かかなり昔王族の別荘があったところだったと記憶しています。今はこの地の領主に売られていたはずです」

それを聞いた瞬間に、再び嫌な予感が近づいてきた。

「……ミシェル」

「え、僕のせいじゃないですよ……」

主従で面倒事の匂いを感じ取り、どちらのせいか押し付け合う。

なんでだろう。

ここ最近、運が悪いと言うか、結婚してから余計な気苦労が増えたというか……。

あ、うん!

そうだ、絶対旦那様のせいだ。

そうだ、そう言う事にしよう。

なにせ、ほとんど旦那様に帰属する出来事ばかりだしね。

前回の実家の件は違うけど。

「リーシャ様、今全部クロード様のせいにしませんでした?」

してないよ。

失礼な。

前回の事は、自分の実家のことだしね。

「ああ、こっちだよ」

馬車を下りると、アンドレ様が声をかけてきた。

邸宅の玄関扉の前には、旦那様ほどの若い貴族男性と執事服を着た壮年の男性が立っていた。

貴族男性は、銀髪にわたしと似たような色合いの碧眼で、旦那様より少し背が低い。

装いは軽やかで、気軽に友達を迎えるようないで立ちだ。

若い貴族男性は、アンドレ様と親し気に挨拶を交わしている。

なぜかその姿に少しだけ違和感があった。

なんとなく、アンドレ様だったらもっと馴れ馴れしく肩をたたくくらいはしそうなのに、握手を交わしただけにとどまった。

「ちょっと、こっちに」

アンドレ様に手招きされて、わたしは若い貴族男性を紹介された。

「ローデシー侯爵、こちらは私の息子のお嫁さんで義理の娘のリーシャだ。リーシャ、こちらはクリス・ローデシー侯爵だよ。この国に来た時は、いつも彼の家にお世話になってるんだ」

遊び友達って事かな?

どんな遊び友達かは聞かないけど。

わたしは、作法に則って頭を下げた。

「はじめまして、リーシャ・リンドベルドと申します」

どちらが上か、それはアンドレ様の紹介の仕方で分かった。

少なくともアンドレ様の中では、ローデシー侯爵の方がわたしよりも上の立場だ。

義理の娘だから下にしたとも考えられなくはないが、一応わたしの方から挨拶をする。

頭を下げると、その後頭部にものすごい視線を感じた。見られている。しかもただ見ているだけでなく、なんか値踏みされているような感じにも思えた。

「顔上げて」

その言い方に、命令し慣れている様子が窺える。

侯爵だから部下や家臣もたくさんいるだろうが、一応隣国の公爵夫人であるわたしに対しての言い方ではない。

普通は、もっと顔上げてください、とか言葉に気を付ける。

ただ、ここで指摘しても仕方がないので、何事もなかったように顔を上げた。

やはり値踏みされている。

全身上から下まで。

「美人だね、クロードがうらやましい限りだ」

「だん――いえ、クロード様とはお知り合いなんですか?」

「クロードと? まあ、知り合いと言えば知り合いだな。年も近いし」

煮え切らない答えに、ますます違和感というか、嫌な予感。

「これほどの美人なら、私が結婚したかったなぁ」

「ご冗談を……」

一応褒められていると信じて、ほほほっと口に手を当てて笑う。

「そうでしょう? クロードは面食いなんだ」

本当のところ、旦那様は面食いではない。

なにせ、初めて会った時のわたしは散々な姿だったのだから。

ただ、皇女殿下との結婚を避けるために選ばれたに過ぎない。

今は、まあ……少しは夫婦らしく過ごしてる――と思わなくもないか……?

ほら、名前で呼び合う様にもなったしね!

「クリスだ、よろしく。リンドベルド公爵夫人。気軽にリーシャと呼んでも?」

「公式の場でなければ、ご随意に」

「私の事もクリスでいいよ」

「いえ、ローデシー侯爵様と呼ばせていただきます」

微笑みで拒否し、家門の名で呼ぶ事にした。

堅苦しい呼び方だが、公的にはこれが正しい。

アンドレ様のご友人で、旦那様の知り合いだとしてもわたしの友人ではないので。

ローデシー侯爵様は肩をすくめ、残念と呟く。

そして、全員邸宅の中に案内されて、それぞれの部屋の中に入った。

すでに夕暮れ時で晩餐の時間までそう時間はない。

これはゆっくり休んでいられないなとため息をつき、できればお湯ぐらいは使って身体を休めたい、そんな事を考えながら、わたしは着替えのために侍女を呼んだ。

ふと、そういえばミシェルはどうやって着替えるんだろうと、どうでもいい事が気になった。