軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

89.フレイのリベンジ

イスフィール家の庭園という、ダンジョンによって用意された仮想の舞台でフレイは剣を振る。

「【氷結】」

剣に氷を纏わせ、触れると同時に偽アルトを凍らせようとする。

「 あ(・) の(・) 時(・) は(・) 魔法を禁止してたけど……今回は違うしね!」

偽アルトの足元を凍らせ、動きを止める。

その背後をヴェインが突く。

「取ったっ!」

一閃、ヴェインが剣を振り下ろした。

単独の戦闘ではなく、即座にチームによる戦闘へ切り替えたフレイの判断は正しい。

それに二人のコンビネーションは完璧だ。それは傍から見ていたウルクでさえ感じていた。

だが────。

『居合』

「やばっ! ヴェイン下がれ!」

思わずフレイが叫ぶ。

「うるさい! 分かって────」

攻撃を中断し、咄嗟に後ろへ飛び移るも神速の如き斬撃に、ヴェインは距離を見誤った。

「居合はこんなにも早いのか……!」

アルトの居合を刀身で受け止め、ヴェインの剣が折れる。

「ヴェイン!」

「僕は大丈夫だ!」

アルトを詳しく知っているからこそ、卓越した一つの剣術でさえ自分たちには命取りになる。

それを再確認させられた。

「せいっ!」

二人に意識が向いていると思い、ウルクが大剣で攻撃する。

しかし、アルトは後方へ大きく飛んで避けた。

「くっ……やはり当たらないか」

「ウルク、やるなら連携だよ」

「分かっている」

(本当はフレイ兄上だって、一人で戦いたいはずだ。自分がどこまでアルトに通用するか……私も試したい。いつも手合わせをしても手加減されているしな)

態勢を立て直し、ヴェインは少し悩んだ素振りを見せた。

「あの偽アルト、自分から仕掛けては来ないんだね」

「元々、アルトくんは攻撃よりもカウンターが得意だからじゃないかな」

「フレイ兄上の言う通りだろう。わざわざ自分から突っ込むより、カウンターを狙った方が有利と理解しているのだろうな」

つまり……と三人の意見が一致する。

「こりゃあ……参ったね。勝てないな」

フレイが思う。

(セシリアさんとウェンティさんは戦闘なんてできない。ウルクを前に出させて怪我もさせたくないし……)

フレイが深く思い耽る。

(ヴェインの剣は折れたから、戦闘に参加するのは難しいな……)

実質的に戦えるのは、自分ひとり……。

覚悟を決めた眼差しで、フレイは自身の剣を握り直す。

「一人で戦ってみてどうなるか……か」

フレイは自ら負けを選ぶような人ではない、とウルクは知っていた。

だからこそ、一人で戦いたいという言葉に疑問を抱いた。

「ウェンティさん、君、何か知ってるんだろう?」

少し離れた場所でセシリアと一緒にいたウェンティは、眉を顰めてフレイを睨む。

「知ってるからなによ」

「教えてくれないかな」

本当に幼い頃からずっとに居たウェンティは、アルトの秘密を知っていた。

渋った様子だったが、仕方ないと口にする。

「……はぁ、簡単なことよ。アルトは私たちに手を出さない」

ヴェインが目を見開く。

「……僕たちには居合を放って、ウルクとは距離を取った理由はそれか!」

「偽物とはいえ、仮にもアルトさんですからね。優しいですから……根本は変わらないんだと思います」

ウルクやウェンティには攻撃をしない。

決定的な弱点を見つけた。

でも……とウルクは思う。

「私たちではアルトに決定打は与えられない……」

「そうね、氷の令嬢に賛成だわ。私たちじゃ……」

「いや、出来るはずだ」

フレイが断言する。

「なんのために、俺たちは努力してきたんだい?」

「っ!」

ウェンティは自分が努力しようと思った理由を探し……アルトの力になるためと確認する。

ウルクは誰よりもアルトの傍に居たいと願い、超えたいと願った。

((守られるだけの存在は嫌だ))

偶然にも、ウルクとウェンティは考えが一致する。

二人の顔つきが変わる。

それを見たフレイはいつも通り鮮やかに笑った。

「ヴェイン、作戦を頼む。どうせ剣が折れて暇だろ?」

「むっ……皮肉屋だな。僕よりも剣術は上だからって、酷いぞ」

「作戦指揮においては、ヴェインの方が上じゃないか」

フレイは剣を握り直し、誰よりも前に……前線に立つ。

「チャンスは俺が作るよ、一人でね」

この絶望的な戦場で、フレイだけが笑っていた。

フレイがアルトの前に立つ。

イスフィール家の庭園は、フレイには良い思い出だった。

「懐かしいね。初めてアルトくんと手合わせした時を思い出すよ。負けたけど」

「……」

返事はない。

フレイが剣を抜く。

もう一度、この時を待っていた。

「二度も負けるなんて、イスフィール家の次期当主として絶対に許さない」

だから……と言葉を続ける。

「今度は勝たせてもらうよ」

フレイの瞼が鋭くなる。

「はぁ……」と吐いた息が、白く凍りついた。

『……?』

偽アルトは、自身の持つ手が震えていることに気付く。

急激な温度の低下、さらに目の前の敵……フレイの雰囲気が一変していることに違和感を抱いていた。

「へぇ……やっぱり本物に近い形で作られてるんだね、体温を感じるなんて。良かった……実は俺、氷魔法があんまり得意じゃなくてね。ぶっちゃけ、 器(・) 用(・) なだけでイスフィール家の中でも才能が無い方なんだ。逆にイスフィール家の中には氷の魔法が強すぎて魔法を封印する場合もあったりするけど……」

フレイの背後に複数の氷剣が精製されていく。

偽アルトが駆け出す。

「って、余計な話は聞かないか。時間稼ぎは意味ないってことね……」

遠距離からの攻撃に対し、距離を保った戦闘は不利だと考えたのだろう。

「流石、良い判断するねアルトくん…… 凍(・) れ(・) 」

三本の大きな氷の剣が偽アルトの頭上に現れる。

『いあ……』

「遅いよ」

足を軸にして使う居合を封じるため、フレイは頭上に意識を向けさせていた。

『っ!!』

いつの間にか足元を凍らされ、偽アルトは居合を放つことができない。

フレイが地面を蹴る。

フレイの氷に巻き込まれないよう、少し離れて見ていたヴェインが言う。

「頭上からの氷剣による攻撃と、フレイ自身の突進か……また腕を上げたな」

「あぁ、並みの相手なら、兄上の相手にすらならないだろうな……」

誰もが納得する実力、だが、アルトはさらにその上を行くことを皆が知っている。

偽アルトが呟く。

『【 付与魔法(エンチャント) 】身体強化』

「……っ!!」

一気に緊張が走る。

当然、使って来るであろうことも察していた。

フレイがそのまま踏み込んでしまえば、一閃でやられると全員が思う。

ヴェインが止めに入ろうとする。

「やっぱりフレイ一人じゃ……!」

「待て。フレイ兄上を信じろ」

ウルクは安心した表情をしていた。

「知っているだろう。兄上は、いつも飄々としているが影では努力していると」

(あれほど楽しそうに笑うフレイ兄上は、久々だな)

「そんな兄上だから、私は好きなんだ」

でも、と続ける。

「偽とはいえ、アルトが兄上に負ける所は見たくないな」

ウェンティが半眼でウルクを見た。

「あんたのお兄ちゃんでしょ……ちゃんと応援しなさいよ」

「それとこれとは別だ」

『【 付与魔法(エンチャント) 】身体強化』

フレイが叫ぶ。

「その全力の君と戦いたかった!」

疾走し、フレイが剣を構える。

偽アルトは足元の氷を素手で砕き、フレイを待ち構えた。

完全に居合の筋を見せている。

偽アルトは頭上の氷剣は囮であると判断し、フレイごと両断する構えを取る。

フレイは柄を強く握り直し、鋭く偽アルトを睨んだ。

冷たく冷徹な声が響く。

「氷剣よ、堕ちろ」

偽アルトの足が止まり、構える。

だが、氷剣が偽アルトに命中することはなかった。

『……?』

氷剣は偽アルトの三方向を囲むようにして、落下する。

さらに冷たく、空気が凍える。

フレイの口角が上がった。

「アルトくんなら、俺を警戒して足が止まると思ったよ!」

あぁ……何度、この瞬間を想像しただろうか。

アルトくんならどう対処するだろうか、アルトくんならどう対策するだろうか。傍で観察し、考えてずっと想像してきた。

なぁ、アルトくん……俺は頭を悩ませて、ずっと考えてきた魔法があるんだ。

オリジナル魔法……いや、固有魔法と呼ぶべきかな。

君なら受け取ってくれるだろう?

偽アルトの周りに堕ちた氷剣が光り出す。

「悪いけど、凍ってもらうよ────【 氷柱封印(アイシクル・バースト) 】」

偽アルトは巨大な氷柱に埋められ、完全に凍りつく。

全てがフェイント、全てがこの魔法の為の準備であった。

そして、偽アルトに勝つ唯一の方法だと思った。

フレイの額から汗が流れ落ちる。

だが、パキッ……という音と共に、巨大な氷塊が割れた。

『はぁ……はぁ……』

「そこだっ!」

キィィィンと金属がこだまする。

「やっぱり、一筋縄じゃ行かないか」

偽アルトが距離を取る。

『……』

「アルトくんの身体強化は、確かに強力だけど極端な体力の消耗がある。急激な温度の変化と、【氷柱封印】を脱出するのに体力はほぼ使ったんじゃないかい? もう二度目の身体強化は無理……だろ?」

しかし、体力の限界に近いのはフレイも同じことであった。

「そうだと言って欲しい……ね……はぁ…はぁ…」

剣を杖にし、その場に膝を突く。

「もう無理……お兄ちゃん限界だ」

「あぁ、十分やった。フレイ兄上」

「頑張ったんだから、お兄ちゃんって呼んで欲しいな……ウルク」

フレイの前にウルクとウェンティが立つ。

「本当にこの投げ道具、ちゃんと使えるんだろうな。ルーベド・ウェンティ」

「誰に口を聞いてるのよ。ちょっとは信じなさいよ……氷の令嬢」