軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87.不穏の始まり

ファンクラブの騒ぎがあった数日後、俺たちは学園ではなく野外で集まっていた。

その日は学期末試験であるダンジョン攻略戦の日だったからだ。

6人グループごとに分け、アルト、フレイ、ヴェイン……ウルク、セシリアがいた。

「あれ……? フレイ、レア王女殿下も入っていたと思うんだけど」

「あぁ……レア王女殿下が入る予定だったんだけど、流石に学年が違いすぎるし……どうやら国王陛下に学園でのやり過ぎを注意されたらしい」

「うぇ!? 国王陛下から!?」

た、確かに、最近はファンクラブを作ったりして好き放題していたとは思うけど……。

俺とフレイたちはファンクラブについて、極力触れないようにしようという暗黙の了解があった。

「まぁ、当然の結果だな。そもそも、レアは学年も違うんだ」

「ウルク……俺たちだって、歳で見れば学年は一つ下だよ」

「むっ……そういえばそうか」

俺たちが期末試験に参加することが認められたのは、冒険者としての実績があるからだ。

他の貴族と違い、魔物との戦いや戦闘技術は学園の生徒よりは上だ。

ウルクが認められたのも、イスフィール家の実力を学園も知っているということだろう。

セシリアが不安そうな面持ちで言う。

「でも、6人が原則……ですよね?」

「そうだよ。だから、先生たちに相談したらね……」

そこで聞き慣れた声がした。

「やっ、困っているようだね」

「レイン!」

「一人、足りないんでしょ。連れて来たよ」

そういって、レインの後ろからウェンティが現れる。

冒険者装備をしており、少し気恥ずかしそうに顔を俯けていた。

「ウェンティが参加してくれるの?」

「うん、丁度いいでしょ。せっかく錬金術も勉強して、いくつか道具も作らせたし試させないと」

ウェンティが頑張っていたことは知っている。レインが大丈夫だというなら大丈夫だ。

俺はぜひ参加して欲しい……! と思うも、ウルクたちはどう思うのか心配になった。

フレイが言う。

「俺たちは構わないよ。だろ、ヴェイン」

「もちろん、ウェンティさんとアルトくんは和解したんだし」

快く二人は受け入れてくれた。ウルクは無言だったが、静かに頷いてくれる。

「わ、私も構いません! ウェンティさんとはお話したことありませんけど!」

人見知りの激しいセシリアも納得してくれた。

良かった……。

「あんたらが良いって言うなら入るけど……足手まといになっても文句言わないでよね」

「俺がカバーするよ、ウェンティ」

「そう……」と気恥ずかしそうにつぶやく。

「じゃ、頼んだよ」

「そういえば、レインは何かするの?」

すっかり俺は、監督官として一緒に付いて来たりするのだと思っていた。

ダンジョン攻略といっても、それほど難しい課題ではないと聞いている。命の危険とかはないけど、何があるかは分からない。

「離れて観察してるよ。特別冒険者として呼ばれてるし、何かあったら向かう」

少し不安な胸の中にあった。

「アルトさん、緊張しないで大丈夫だと思います! 怪我はするかもしれませんけど、ダンジョンは魔道具で作った疑似ですから!」

「魔道具で……?」

そんな魔道具が本当にあるのか? 初めて聞いた。

ここは王国でも指折りの学園だ。公表できない秘密の魔道具を持っていてもおかしくはないか。

考え込んでいると、視界にフレイが入る。

「アルト、新しい剣はどうだい?」

「これ? 前と感覚は変わらないけど、使いやすいよ」

「羨ましいよなぁ、魔剣なんて」

「そうかな……? もっと魔剣らしい剣もあると思うよ」

炎や氷を出す魔剣の方がよっぽど魔剣らしいと思う。

もちろん、派手さが全てではないとライクさんも言っていたけれど。

フレイは魔剣の次にウルクを見ている。

「なんだ、フレイ兄上」

「いや、なんでもないよ。我が妹が可愛いと思ってね! はははっ」

いつも通りのフレイだが、どこか違和感を覚えた。

仕切り直すように、俺たちは目の前のダンジョンを目にする。

自然にできた洞窟などではなく、石造りの門があり複雑な模様が入っていた。

ヴェインは知識があるようで、その正体を教えてくれる。

「アルト、この門自体が魔道具なんだ」

「ず、随分とデカいね……これは初めてみるかも」

「名前は……【写し鏡のダンジョン】」

【写し鏡のダンジョン】のダンジョンか。

どういう意味なんだろう。

また思考に耽ってしまいそうになるが、先頭を切ったフレイが言う。

「とりあえず、入って考えよう。試験内容は中に入るまで秘密だしね!」

学園でもトップ1のフレイとヴェインがいる。二人が合格できないようなダンジョンであれば、学園の生徒は誰もクリアできない。

難易度は高くないと思うけど……やはり、どこか不安になっている自分がいる。

思わず顔に出ていたのか、ウルクが気付く。

「先ほどから一人で考え込んでいるが、大丈夫か?」

「ウルク……俺、なんか不安でさ」

「アルトが不安になるなんて珍しいな……油断はせずに行こう」

「そうだね」

気のせいだと良いけど……。

少し離れた場所で、ダンジョン内部が監視できる休憩所にレインはいた。

とても貴重でレア度の高い魔道具を使った試験……レインは特別冒険者講師として呼ばれただけでなく、実のところこの魔道具を守る役目もあった。

深めの椅子に腰を落ちつかせて、レインはオレンジジュースを飲む。

既に上機嫌になっていた。

「貴族の学園は良いね。お菓子も美味しいし、ジュースも飲み放題」

「こんな好待遇なかなかない」……とつぶやく。

その隣へ、学園長がやってきた。

「レインさん、お久しぶりです」

「ん、君。学園長になったんだね」

「はい。レインさんが助けてくれたお陰です」

大して気にする様子もなく、レインはジュースを飲み干す。

「君も助けた村の一人に過ぎないよ」

「あはは……あなたならそういうと思っていました。ところで、アルトくんに肩入れしているようですね」

「アルトは優秀だからね」

レインは足をブラブラと揺らす。

「でも、贔屓はいけませんよ」

「【写し鏡のダンジョン】は最も、アルトたちにとって厄介だけど、クリアできると思う」

「クリアはどうでしょうね。 彼(・) ら(・) にとってはあのダンジョンと相性は最悪でしょう。下手をすれば、全員失格もあり得る」

その可能性もゼロではない、と思ったようでレインは否定しなかった。

命の危険はないが、それでも敗北は嫌な記憶になる。

貴族だからと言って、甘やかすような方針はこの学園にはない。

「ただ……今回はアルトくんの魔剣のこともあって、簡単にクリアされてしまうでしょう」

「分かってるね、学園長」

「それでは公平ではない。我が学園の生徒だって、誰も魔剣なんて持っていないのですから。なので、少しばかり助っ人を呼びました」

レインがジュースを飲む手を止める。レインは静かに学園長を見上げた。

もはや、先ほどまでの機嫌はない。

「助っ人って、誰」

「おや、聞いていませんでしたか? もう伝えたと言っていたのですが……『 よ(・) ろ(・) し(・) く(・) 』と」

(そういえば、アルトからそんなこと聞いたっけ……知り合いなんて多くいるから、どうでもいいやって流したけど)

学園長はしばらく悩んだ素振りを見せたのち、レインに告げる。

その時、風が吹いた。

「────様、ですよ」

レインの視線が鋭くなる。

「……アイツ、呼んだの?」

「えぇ、本人もアルトくんに会ってみたいと希望していたので」

(……よろしくって、そういうこと。最悪)

不機嫌になったレインは頬を膨らませ、乱雑に深く椅子に座る。

「これじゃあアルト、クリアできないね」

レインはアルトを弟子のように思っていた。

自分で育てていく、と内心で思っていたからこそ、今回の内容には納得がいかない。

でも、レインが参加をすれば試験をぶち壊すことも理解していた。

すると、足音が聞こえてくる。次第に足音が大きくなり、レインの横をローブを着た人が通り抜けて行った。

レインはローブの中に見える紅い瞳に向かって、敵意を向ける。

「……頑固ババア」

そうレインがつぶやくと、ローブの人物が応えた。

「チビ」

お互いに目元を痙攣させ、苛立った様子を見せる。

「ふんっ、学園長……少し遅れた。ダンジョン内への転移は可能か?」

「はい、可能ですよ」

「ならば頼む。ボス部屋で良い」

そういって、ローブの人物は門をくぐって行った。

学園長とレイン以外の人は、今の人が誰か分からずに首を傾げている。

周りにいた先生たちが聞く。

「あ、あの学園長……今の人は? レインさんも凄く不機嫌になっちゃったみたいですし……」

「あの方は、レインさんの戦友だよ」

「そ、それにしてはめちゃくちゃ仲が悪そうな……」

「ずっと喧嘩してるからね」

戦友となれば、きっとさっきの人もSランク冒険者なんだろう、とみんなが思う。

Sランク冒険者同士の喧嘩……と考え、周囲の人たちが息を飲んだ。

「誰、なんですか?」

学園長はさっき、その名を呼んだ時にレインが不機嫌になったことを思い出す。

先生たちにだけ分かるよう、こっそりと教えた。

「【魔剣使いの焔龍王】────カリン様。レインさんと同じ長寿種の龍族であり、Sランク冒険者だ」

一瞬して、緊張が走る。

冒険者であれば、その名は誰でも聞いたことがある。

レインと並ぶ伝説の冒険者だ。

「い、良いんですか……!? そんな凄い人と生徒を戦わせて!?」

「カリン様も数百年生きてるんだ。流石に怪我をさせないように戦ってくれると思って許可したよ」

学園長は「これも人生にとっていい経験になるはずだ」と頷いていたが、そんな期待をレインが壊す。

「無理だよ、カリンは手加減を知らない」

「えっ……」

「やるなら全力で、徹底的に叩き潰す。全部燃え尽きるまで」

学園長からサッと血の気が引いて行く。

「私、覚えてる。数百年前にお菓子を盗み食いした時、思いっきりカリンにゲンコツされた。痛かった、まだ許してない」

緊張が僅かにほぐれる。

「それ喧嘩っていうか、ただの逆恨みじゃ……」

と口走った先生の口を学園長が押さえた。

「しーっ! 機嫌悪いのにさらに悪くしちゃダメだ」

「そ、そうですね……!」

レインは小さな腕を組んで、頬を膨らませた。