軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80.剣の価値

俺たちがライクの前に立つと、その体格差が顕著になる。

筋骨隆々で、目元の傷のせいで凄く怖い。

ライクが唸ったような声音で言う。

「剣が欲しいのか?」

「はい」

俺がそういうと、ライクは訝しんだ視線を向けてくる。

まるでお前のような子どもが剣を握れるのか、と言われているようだ。

「セシリア、お前の友達だよな」

「い、一応はそ、そうです……」

はっきりと友達というのが恥ずかしいのだろう。

セシリアは怯えた様子で言う。

「一応とはなんだ……全く。私たちは優秀な鍛治師がいるとセシリアに教えてもらってきたんだ。私はウルク、こっちはアルトだ」

「アルトです」

ライクは俺のことを知っているようで「ほぉ、お前が噂の」と呟いた。

「……ライクだ。悪いが、剣が欲しいのならお前の実力を試させてもらう」

じ、実力……もしかして、やはり戦えなんて言われるんじゃないよね。

ライクさんに対して、俺はフレイやマルコスさんのように好戦的なイメージを強く抱いていた。

ウルクは、俺の実力を試すと聞いてからなぜか笑っている。

それから俺たちは店の裏手へ連れられて、開けた場所に立つ。

目の前には数体の試し切り用の人形があり、実際に誰かが斬りつけていた跡があった。

「俺に剣の才能はない。でも、武器を作る才能はある。武器は持ち主を選んで、その真価を発揮すると言われているんだ。お前にその資格があるか見させてもらう」

武器は持ち主を選んで、その真価を発揮しているって……初めて聞いたな。

ライクは鍛治師だ。自分なりのポリシーがあるのだろう。

自分の腰に据えてある剣に目をやる。

これは名も知れぬ鍛治師が作った剣だ。

「どれ、俺にその剣を見せてみろ」

「は、はい……どうぞ」

ライクに剣を手渡す。ライクは俺の剣を物色して、天に掲げる。

太陽の光で反射する刃を見て、静かに剣を下ろした。

「……おい、アルト。この剣を使ってそこの的を斬ってみろ」

「は、はぁ……」

俺は言われた通り、的の前に立つ。

剣の柄を握る。

(やっぱりこの剣は、俺の手によく馴染む)

いつも通り……と集中してアルトは息を吐いた。

離れて見ていたウルクが、怪訝そうな視線をライクに向けていた。

「おい、アルトを試すような真似をするのはなぜだ。アルトの実力は王国中に知れ渡っているはずだろう」

アルトが試されていることに、多少腹を立てているらしい。

誰よりもアルトを信じているウルクならばこそ、当然の反応であった。

「……貴族様、俺だって噂くらいは聞いている。平民から成り上がった一代貴族だろう……平民の間じゃ希望の星さ」

「ならなぜ……」

真っ直ぐと、ライクはアルトを見つめていた。

その瞳に嘘はない。

「俺が見ているのは噂じゃない、剣だ。どれだけ善人であろうと、悪人であろうと剣だけはすべてを語ってくれる」

鍛冶師特有の考え方があるのだろう。

ウルクはそれが理解できず、首を傾げる。

アルトが腰を低くする。

鞘から剣を引き抜き、的に向かって一閃を放つ。

「────居合」

迷いなき一筋に、空気が揺れた。

キィィィン……と、金属音が響く。

ウルクが目を見開いた。

「っ!? アルトの剣が、途中で止まった……?」

人型の的に向かって放ったアルトの一撃は、両断できずに途中で止まっていた。

「……これは」

アルトが冷静に分析する。

(俺の居合が通用しなかったことは、これまでも多くあった。だから、珍しくはないけど……)

的の中に埋め込まれていた金属を見つける。

「オリハルコン、ですね」

ライクは表情を変えないまま、「そうだ」と呟いた。

確か、女王バッタとの戦い。かなり前にレア王女殿下がオリハルコン製の剣と防具を持っていた。

国宝級とも言われるオリハルコンが、まさか的の中心部に埋め込まれているとは……。

ウルクが少し怒った様子で言う。

「なっ! オリハルコンだと!? おい……貴様、最初からアルトに剣を渡す気などなかったのではないか?」

オリハルコンといえば、傷を付けることはほぼ不可能と言われている。

レインであっても、容易く傷を付けることは難しいだろう。両断なんてもっと難しいはずだ。

「あわわ……! お、落ち着いてくださいウルク様!」

咄嗟にセシリアが宥めに入る。

「さぁな……だが、オリハルコンに僅かな傷をつけている時点でアルトが普通じゃないことは確かだ。アルト、もう一度、居合とやらをやってみろ」

もう一度、と言われて俺は剣を握り直す。

さっきの居合は本気だった。

反動で腕が震えてたし……次も本気でやると────この剣は折れる。

ライクさんはどういうつもりで俺に居合をさせるのか。

……分からない。

分からないけど、自分なりの答えを見せるしかなさそうだ。

ライクさんは鍛冶師だ。

鍛冶師の審美眼があるのなら、もう一度同じ威力で居合をすれば剣が折れることはお見通しだろう。

「……ふぅ」

俺は息を吐いて、剣を握り直す。

そのまま、剣を抜いた。

「────居合」

だが今度は、金属の音は響かなかった。

威力を最小限抑え、オリハルコンの部分で刃は止まっていた。

アルトは剣を折らないよう、威力を調整していた。

「……そうしたか」

ライクが静かに呟く。

アルトが言う。

「すみません……この剣は折りたくないので。確かに、無名の鍛冶師が作った剣かもしれませんけど、俺にとっては特別な剣なんです」

名前もないただの剣であっても、これまで紡いできた冒険がこの剣にはある。

女王バッタやエクスウッズとの戦いでも、この剣がなければ勝てなかっただろう。

「……合格だ」

「えっ」

絶対にダメだと思っていたからこそ、俺は驚いた。

「お前は斬ることよりも、残すことを選んだ」

「そ、それはどういう……」

やはり、合格の基準があまりよく分からない……。

「捨てることは簡単だ。お前は無名な剣を、捨てるのではなく残すことを選んだ」

なぜかライクは目を輝かせて、清々しい表情をしていた。

俺とウルクは首を傾げる。

その反応を見たセシリアが解説してくれる。

「あっ! えぇっと、ライクは傷ついた仲間や怪我人を冒険している時に見捨てるのは簡単だけど……守り残すことは難しいって言いたいんだと思います!」

「セシリア……補足しすぎじゃないか? 剣を例えにそれをするのか……」

ウルクが呆れた様子を見せるが、俺は頷く。

あぁ……なるほど。

ようやくそこで俺は納得した。

俺が剣を折る選択をしていたら、きっと不合格だっただろう。

確かに、的を斬れという課題に対して、普通ならなんとしてでも斬ろうとするだろう。

俺はそれを諦めて、剣を選んだ。

ライクが言う。

「冷静な判断力と成し遂げる技量、思いやりのある選択。お前になら、剣を作ってやっても良い」

セシリアが胸をほっとなでおろす。

「良かったぁ……連れてきてダメって言われたら二人に合わせる顔がなかった……」

ふとセシリアが(あれ、変な妄想したりしてもう既に合わせる顔ないのでは?)と思うも黙る。

「あ、ありがとうございます。ライクさん」

「良い剣士に巡り合えた幸運に感謝だ。その剣も、お前がご主人で喜んでいるだろうさ」

「そうだと嬉しいです」

良かった。

とりあえず、剣は作ってもらえそうだ。

視線を的に向ける。

でも、オリハルコンを手に入れるなんて普通じゃ無理だ。

一体どんな手段を使ったんだろう……。

「任せろ。お前の剣は……このオリハルコンで作ってやる」