軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18.暗黒バッタ

屋敷には既にイスフィール家の主要メンバーが居た。

会議の席に座ると、書類や罠の模倣品などが置いてあった。

ウルクの隣に座ると、見かけない人物と目が合った。

「うむ、全員揃ったな。まずは彼だ」

促されるように、レーモンの隣に座っていた男が立ちあがる。

「フィレンツェ街の冒険者ギルドマスター、ぺタスだ。今回はイスフィール家の方々に集まっていただいたことに感謝したい」

四十代後半と言ったくらいだろうか、無精ひげが印象的な男性だ。

俺のことをじっと見て、咳をする。

「その、失礼ながらレーモン殿。ここには部外者をあまり入れたくないと言ったはずなのだが……」

「ほっほっほ、アルトは今回の会議で居なくてはいけない人物じゃぞ?」

レーモンの言葉に、ぺタスが首を傾げた。

イスフィール家の使用人やウルクまでもが苦笑いしている。

「どういうことですか?」

「私からご説明いたします。アルト様は、暗黒バッタを一時的に撃退する方法を存じておるのです」

「な────なに? そ、それは一体……この子が本当に……?」

満場一致で頷いている。

俺はどう反応すればいいか困っていた。

効果があるのはただのレモン水なんだけどなぁ……。

「アルト、説明してやれ」

「そ、そうだね」

ウルクに促され、きちんとぺタスに事情を説明する。

庭で確認できたこと、俺とウルクが捕まえた暗黒バッタで実験したから間違いない。

「どうやら、俺が害虫駆除のために開発した魔法に効果があったみたいで、それで一時的にですが暗黒バッタを退けることができます」

「……ドラッド王国が何十年と苦しんできた暗黒バッタを、そんな簡単に⁉ も、もしかして彼が例の……」

「そうじゃ。例のベッドを作った子じゃ」

ぺタスもあのベッドを味わったらしく、驚いた表情で頭を下げた。

「こ、これは失礼した!! すまない! 君だとは気づかなくて……えっと、アルトくん、だったよな?」

「アルトで構いません。それより、暗黒バッタがフィレンツェ街に来るのは一週間後ですよね?」

「あ、あぁ……元々はパール街に出現した大群で、山岳の方に飛んでいったから問題ないと思ったんだが……」

「急に方向を変えて来たと?」

「そうだ。一度決めたら、暗黒バッタは何があっても向かって来る。大方、山岳に餌がないことを悟ったんだろう」

王都からも近いこの町が襲われれば、次は王都に向かってもおかしくはない。

何としても、ここ食い止める必要がある。

「……数はどのくらいですか?」

「数万匹……それくらいは軽くいるだろう」

ウルクたちが驚く。

「す、数万もか⁉」

レーモンやフレイは冷静に、そして俺も静かに悩んでいた。

数万か……。

「レモン水を使っても、あまり効果はないと思います」

「そ、そうか……やはり難しいか」

「あくまで、効果があるとすれば、二日ほど時間稼ぎできるくらいですかね」

さらっと言うと、その場にいる全員が唖然としていた。

えっ……何か変なこと言っただろうか。

「ふ、二日だと……⁉ 二日も時間稼ぎができるのか……⁉」

「え、ええ……もちろん、冒険者の方か誰かに依頼して、レモン水を撒いてもらう必要がありますけど……」

「いや十分だ!! それだけあれば、住民の避難と他の街からの支援が間に合うかもしれない!!」

ぺタスがガッツポーズを決めた。

でも、それだと根本的な解決にはならない。

俺は自分が考えていたことを、話してみることにした。

「実は今……暗黒バッタを駆除する方法を探しています」

「へっ……? く、駆除? 一時的にではなくて……?」

「はい。幸いなことに、俺は魔法の開発が得意です。今はまだですが、もしかすれば駆除する方法が見つかるかもしれません」

時間がないことは分かっている。

それでも、やってみたいと思っていた。

みんなの力になりたい。

ぺタスはレーモンの方を見て言う。

「……レーモン殿。確かにレーモン殿の言っていた通り、アルトは凄い奴ですな」

「ほっほっほ、そうじゃろう。どうじゃ? 賭けて見る気になったか?」

「えぇ、なりましたよ。こんな凄い子、ぜひうちにくれませんか?」

「これ、ウルクに怒られるだろうが」

俯いたウルクが、「なぜ私の名前を出すんだ……恥ずかしいだろ」と言っていた。

(まずは暗黒バッタの研究を三日で終わらせて、その後魔法の開発に……)

限られた時間の中で、できることをするために構想を練る。

そこに昨日出会ったウェンティが入り込む余地はない。

自分でも驚くほど、昨夜のことは気にしていなかった。

ウルクとレアのお陰だろう。

「アルト。冒険者のギルドマスターを代表して、暗黒バッタの撃退に協力してくれないか?」

「えぇ、ぜひ協力させてください!」

「ありがとう!! 本当に、ありがとう!!」

握手を交わす。

そのまま耳元に口を近づけてきて、

「あと、余裕があったら例の疲れが吹っ飛ぶベッドも作ってくれないか?」

と言われた。

苦笑いで返すと、レーモンが「こら、ぺタス……」と叱る。

「良いじゃないですか! 俺だって暗黒バッタのせいで数日は徹夜が確定してるんですからっ!!」

この人も、色々と苦労してるんだなぁ……。

馬車が走っている。

「レア様……本当に向かわれるのですか?」

「当たり前ですの。ようやく見つけたアルト様を、もう諦めたりは致しません。子どもの頃とは違うのです……イスフィール家だろうと、このレア、絶対にアルト様を手に入れて見せます」

天才王女と呼ばれていた彼女だが、実際はひた向きに努力してきた女性だった。

アルトが魔物から救った時、王女という立場にうんざりしていたレアは変わった。一目惚れによって、努力するようになったのだ。

「アルト様に相応しい女性に……妻として相応しい女性になるための訓練は終わりました。あとは、恋を叶えるだけですから……っ!!」

ドラッド・レアがイスフィール家の屋敷へ向かっていた。荷物に大量の金塊……そして、貴重な魔法書を運んで────。