軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第49話 宇宙(そら)の業火と、崩れ落ちる超大国の威信

アメリカ合衆国カリフォルニア州、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地。

コントロールセンターのメインスクリーンに映し出された光景は、もはや「兵器の起動テスト」などという生易しいものではなかった。

それは、宇宙空間に浮かぶ『超新星』の誕生、あるいは巨大な溶鉱炉そのものだった。

『コア温度、十二万度を突破! ジェネレーター隔壁の溶解率、八十パーセント!』

『メインフレーム、完全に沈黙! 通信アレイも熱で溶け落ちました!』

オペレーターたちの悲鳴が、けたたましく鳴り響くレッドアラートのサイレンと交じり合う。

十字型をした『ゼウス・プロトタイプ』の強靭な超電導チタン合金の装甲は、内側から溢れ出すプラズマの超絶的な熱量に耐えきれず、まるで飴細工のようにドロドロに溶け出していた。

本来ならプラズマを封じ込めるはずの 磁場(ケージ) は完全に崩壊し、数万度を超える熱線が機体の内部構造を無差別に焼き尽くしている。

「あ、ああ……我々のゼウスが……何十億ドルもの血税が……」

宇宙軍の強硬派将軍は、先ほどまでの傲慢さを完全に喪失し、床にへたり込んでいた。

彼の胸にあった「極東の企業から宇宙の覇権を取り戻す」という野望は、今や目の前のモニターで赤熱する鉄の塊と共に、跡形もなく溶け落ちようとしている。

「将軍! このままでは、機体が内圧に耐えきれず大爆発を起こします! デブリ(宇宙ゴミ)が広範囲に飛散すれば、他国の衛星や国際宇宙ステーションにまで被害が及びかねません!」

アルバート・スタンフォード博士が、髪を掻きむしりながら涙声で叫んだ。

「自爆コードを! せめて機体を細かく砕いて、大気圏に落とさなければ!!」

「だ、だからシステムがフリーズしてコマンドを受け付けないと言っているだろうが!!」

オペレーターが半狂乱でキーボードを叩き続けるが、ゼウスからの応答は一切ない。

イージス社のパラサイト・ウイルスは、ゼウスの通信プロトコルから自爆装置に至るまで、すべての管理者権限を完全にロックしていた。彼らにできることは、自分たちが創り上げた未完成の悪魔が、自らの熱で爆発するその瞬間をただ黙って見つめることだけだった。

『コア温度、 限界点(クリティカル) を突破――機体内圧、計測不能』

無機質なシステムの音声が、死の宣告のように司令室に響き渡った。

「伏せろぉぉぉッ!!」

誰かが叫んだ。

メインスクリーンの中のゼウスが、一瞬、太陽よりも眩い強烈な光を放った。

そして、音のない真空の宇宙空間で、それは凄絶な大爆発を起こした。

数万度に達するプラズマが一気に解放され、機体そのものを内側から完全に蒸発させる。

宇宙の暗黒を切り裂く青白い業火が広がり、ゼウスの機体を構成していた超硬素材も、電子基板も、すべてが極小の破片となって、放射状に猛スピードで吹き飛んでいった。

ザザザザザァァァァッ……!

コントロールセンターの巨大なメインスクリーンは、すべての信号をロストし、無慈悲な 砂嵐(ノイズ) へと切り替わった。

アラートのサイレンだけが虚しく鳴り響く中、司令室は死に絶えたような、完全な静寂に包まれた。

「……終わった」

アルバート博士が、力なくその場に崩れ落ちた。

彼の科学者としての名誉も、人生を懸けたプロジェクトも、すべてがたった今の爆発で宇宙の塵と消えた。

将軍もまた、虚ろな目で砂嵐の画面を見上げていた。

ペンタゴンの地下会議室や、ホワイトハウスの危機管理センターでこの中継を見ていた大統領や議会の重鎮たちは、今頃、怒り狂って将軍の更迭とプロジェクトの解体を叫んでいることだろう。

アメリカ合衆国が国家の威信を懸け、莫大な予算と頭脳を注ぎ込んだ『神の雷』のプロトタイプは、敵に指一本触れることもなく、自らの未熟さと焦燥によって無惨に爆散したのだった。

* * *

「――アメリカ宇宙軍、ゼウス・プロトタイプの完全な 自壊(メルトダウン) 、およびロストを確認しました」

地球の裏側。東京、六本木ヒルズ。

イージス本社の地下に広がるサイバー・コントロールルームで、橘玲奈が冷徹な、だが確かな歓喜を帯びた声で報告した。

彼女の背後にある壁一面の巨大モニターには、ヴァンデンバーグ基地の絶望に沈む司令室の映像と、我が社の量子レーダーが特等席で捉えた、ゼウスの大爆発の瞬間のリプレイ映像が映し出されている。

「見事な花火だったな」

私は特注のレザーチェアに深く腰掛けたまま、冷めたコーヒーを口に運び、極低温の笑みをこぼした。

「ええ。ペンタゴンの地下会議室は、現在完全なパニックと怒号に包まれています」

玲奈が傍受した通信ログのデータをスワイプしながら、悪女のような艶やかな笑みを浮かべる。

「議会の重鎮たちは大激怒し、将軍の即時更迭と、ゼウス計画の永久凍結を要求しています。これほどの巨大な失態と予算の無駄遣い……彼らが宇宙での軍事的覇権を取り戻そうとする試みは、これで向こう二十年は完全に絶たれました」

「当然の帰結だ。基礎理論も完成していないまま、政治的な焦燥だけで神の領域に足を踏み入れた報いだ」

私は、モニターの隅で膝を抱えて絶望しているアルバート博士の無様な姿を見下ろし、冷たく吐き捨てた。

彼らは自分たちの頭脳の限界を呪い、永遠に解けない数式の迷路で絶望し続けるだろう。自分たちのシステムが、私が仕込んだウイルスによって意図的に破壊されたことにも気づかないままに。

私が暗号化通信のスイッチを入れると、モニターの分割画面に、南太平洋の要塞ニヴルヘイムで指揮を執るDr.クリス・ウォーカーの顔が映し出された。

『ヒャッハー!! 見たかボス! 最高にマヌケな自爆ショーだったぜ!』

クリスは腹を抱えて大爆笑している。

『磁場制御のアルゴリズムにコンマ数ミリのノイズを混ぜただけで、あんなに見事に吹っ飛ぶとはな! アメリカのエリートどもは、今頃自分たちの無能さを嘆いて首を括る準備でもしてるんじゃねえか!?』

「ああ。これで彼らの『時計』は完全に止まった」

私はクリスの狂喜を冷静に受け止めながら、静かに告げた。

「ボス。爆発によって生じたデブリ(宇宙ゴミ)群の軌道計算、完了しました」

サイバーチームのチーフが、素早くタイピングを行いながら報告する。

「我が社の 衛星網(イージス・リンク) および、軌道上で建造中の『神の雷』の軌道とは完全に干渉しません。デブリの九割は地球の引力に引かれて大気圏で燃え尽き、残りは安全な高度へ逸れていきます。我々に一切の被害はありません」

「完璧だ。ヴィクトル、そっちの状況はどうだ?」

私は、もう一つの分割画面に映るヴィクトル・イワノフへ視線を向けた。

『「神の 目(オーディンズ・アイ) 」による監視を継続中ですが、アメリカ国内の軍事ネットワークはゼウスの爆発処理と責任追及で完全に麻痺しています。……中国やロシアの諜報機関も、アメリカのこの大失態を傍受し、戦慄しているようです』

ヴィクトルの火傷の痕が残る顔に、冷酷な笑みが浮かぶ。

『彼らは、アメリカが極秘裏に宇宙兵器を開発していたことに驚愕すると同時に、それが一瞬で自滅したことに度肝を抜かれています。これで四大勢力は、疑心暗鬼に陥り、互いに牽制し合うことにリソースを割かざるを得なくなるでしょう』

「見事な同士討ちだ。……彼らが地上で足の引っ張り合いをしている間に、我々は遥か上空で絶対的な支配を完成させる」

私はレザーチェアから立ち上がり、コントロールデスクへと歩み寄った。

「クリス。アメリカがガラクタを打ち上げて自爆している間に、こちらの本物の『神の雷』の進捗はどうなっている?」

『完璧だぜ! タングステン弾の極秘装填プロセスは九十九パーセントを完了。プラズマジェネレーターの磁場制御も、ボスの 脳波(デッドマンズ・スイッチ) との同期テストもオールグリーンだ。……いつでも、世界を終わらせる準備はできてるぜ!』

「よし。引き続き建造プロセスを維持しろ。一切の油断は許さんぞ」

『了解だ! 俺の最高傑作が宇宙に完全に君臨する日まで、あと少しだぜ!』

通信が切れ、社長室に再び静寂が戻る。

私は窓ガラスに歩み寄り、眼下に広がる東京の眩い夜景を見下ろした。

愛する家族が眠る、平和な極東の島国。

その空の向こう側、漆黒の宇宙空間では、アメリカの傲慢な兵器が塵となって消え去り、代わりに私が造り上げた巨大な十字型の兵器――本物の『神の 雷(トール・ハンマー) 』が、音もなく軌道を周回している。

「……愚か者どもめ」

私は、自国の兵器の残骸を地上から呆然と見上げているであろう大国のアメリカに向けて、冷酷な宣告を下した。

「 宇宙(そら) は、お前たちのような傲慢な化石どもが足を踏み入れていい場所ではない。……私が神となり、この星のすべての命運を管理する」

極東の悪魔による、宇宙の覇権を懸けた圧倒的な無双劇。

アメリカの自滅により、宇宙空間の支配権は完全に私という唯一絶対の存在のものとなった。

愛する者を護るための、歴史の分岐点に向けた真の『絶対防壁』の完成は、もう目前にまで迫っていた。