軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第13話 狂気の頭脳と、神の雷の片鱗

同時刻。アメリカ合衆国、バージニア州。

薄暗いアパートの一室で、床には空のバーボンボトルとピザの空き箱が散乱し、デスクの上では数台の大型モニターが青白い光を放っていた。

「クソッ……! どいつもこいつも、私の芸術を理解しやがらない! 『非人道的』だと? 『倫理委員会が承認しない』だと? 科学の進歩に倫理などという安い首輪をつけるから、アメリカの兵器開発は停滞するんだ!!」

金髪をボサボサに伸ばし、無精髭を生やした白人男性が、血走った目でモニターに向かって悪態をついていた。

彼の名は、Dr. クリス・ウォーカー。

アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)の極秘開発部門に所属していた、天才物理学者にしてエンジニア。

彼は極めて優秀だったが、同時に倫理観が完全に欠如していた。

より純粋な破壊、より効率的な殺戮。兵器としての美しさを追求するあまり、周囲との摩擦は絶えなかった。そして今日、彼はついにその常軌を逸したプラズマ兵器の実験構想が問題視され、事実上の追放処分を受けたばかりだった。

「私のプラズマ爆圧理論さえ完成すれば、放射能を撒き散らす核兵器など過去の汚い遺物になるというのに……! だが、あと少し……あと少しなんだ。熱量の暴走を制御する数式だけが、どうしても解けない……ッ」

クリスが自身の無力さに絶望し、頭を掻きむしった、その時だった。

『――君の言っているのは、この程度の初歩的な数式のことか?』

「な、なんだ!?」

突然、クリスの部屋にあるすべてのモニターがブラックアウトしたかと思うと、スピーカーから合成音声のような冷たい声が響いた。

アメリカ軍のトップエリートである彼のPCに、外部から一切の痕跡なく侵入するなど、通常なら絶対にあり得ない。

直後、画面上に凄まじい速度で数式の羅列が展開されていく。

「こ、これは……熱力学の最適化アルゴリズム!? いや、違う、もっと高次元の……プラズマの磁場干渉を完全に相殺している!? なんだこの美しすぎる解答は!!」

クリスはモニターに這いつくばるようにして、画面に表示された数式を貪り読んだ。

彼が十年かけても辿り着けなかった『プラズマ制御理論の絶対的な正解』が、いとも容易く、まるで子供の計算ドリルを解くように提示されていたのだ。

『アメリカの軍産複合体という狭い鳥籠の中で、倫理の壁に泣き言を言っているから、その程度の次元で足踏みをするのだ、Dr. ウォーカー』

「お、お前は誰だ!? どこからハッキングしている!?」

『私が誰かはどうでもいい。重要なのは、君が望む「制約のない絶対的な研究環境」と「無限の資金」を、私の組織――秘密結社『ヴァルハラ』が与えられるということだ』

画面が切り替わり、今度はある兵器の『概略図』が映し出された。

大気圏外から投下される超質量のタングステン合金弾と、完璧に制御されたプラズマ爆圧を掛け合わせた、神をも恐れぬ純粋破壊兵器。

前世で宗一自身が描き出した、『神の 雷(トール・ハンマー) 』の初期構想図だ。

「ああ……」

その神々しいまでの破壊の設計図を見た瞬間、狂気の科学者であるクリスは、床に膝をつき、恍惚とした表情で涙を流した。

彼が追い求めていた『究極の兵器の美しさ』が、そこにあったからだ。

「なんて……なんて美しく、残酷な芸術なんだ……。こんなものを思いつくなんて、あんたは物理学の神か……!」

『私の下へ来い、クリス。道徳も倫理も、国家の枠組みすら存在しないヴァルハラで、私と共にこの「神」を造り上げろ』

「行く……! どこへでも行くとも! ボス、私の全てをあんたの頭脳に捧げる!」

モニターの向こう側――東京・六本木の社長室で、私は暗号化通信の接続を切り、冷たく口角を上げた。

まずは一人。最強で最凶の『矛』を造るための、狂った頭脳を手に入れた。