軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4-2

両者の様子見が終わったところ――これがマリケスの見立てである。

陣地をより強固なものへと絶えず更新しているケイ。

それを許す悠然と歩くデイデアラ。

「とっとと全力で来い」

まるでそう言っているかのように不敵な笑みを浮かべて肩に斧を担ぐデイデアラ。

どれだけ強固に固めようとそれを正面から撃ち破ることで、実力差を明らかにしたいのかもしれないが……流石にそれは相手を舐めすぎなのではなかろうか?

二人の距離が徐々に縮まり、ケイの防衛陣地にデイデアラが足を踏み入れる。

その瞬間、無数の柱が四方八方からデイデアラに襲い掛かるが、これを斧の一振りで薙ぎ払う。

驚愕の表情を見せるケイと笑うデイデアラ。

一気に距離を詰めるも無数の壁が行く手を阻み、デイデアラは壁に包囲される。

しかしこれをデイデアラは即座に破壊するが、再び迫る無数の柱がその隙を見逃さない。

ケイの陣地内を走り回り、着実に距離を詰めていくことを選択したデイデアラだが、攻撃の手がぬるいとでも言いたいのか、こっちにまで笑い声が僅かだが聞こえてきている。

「子供相手に大人気ないわねぇ」

やれやれと言った様子のエルメシアの声に反応したマリケスが「手加減できる相手でもないだろ」と冷静に返す。

二人の戦いを見ると状況は変わらず、デイデアラが陣地内を走り回り、ケイの防御と攻撃を粉砕して回っている。

攻めあぐねているのか?

それとも何か作戦があってのことか?

判断がつかない俺はただ黙って戦いを見るしかない。

するとこの戦い方で何かを察したのか、アーシダがぼそり呟く。

「デイデアラの奴め、わざと長引かせるつもりだな」

となるとデイデアラは消耗戦を選択したということか?

(消耗戦なぁ……あのケイを相手に?)

何時間と集中砲火を浴びせられても陣地を余裕で維持できる相手に消耗戦か、とデイデアラの選択ミスではないかと考えるが、ケイの防御は強力な攻撃にはめっぽう弱い。

「持久戦に持ち込んで格の違いをわからせるつもりでしょうか……」

本当に大人気ない、と溜息を吐くレイメルに同意する女性陣。

そう言えばデイデアラはアーシダ相手に持久戦をやって「二度とやるか!」と言っていたらしい。

それをケイ相手に再現してやろうということか?

俺が腕を組み、ポーカーフェイスのまま戦闘を眺めていると後ろから声が聞こえてくる。

「恐らく正解だ。先ほどからケイの誘いにデイデアラは全く乗っていない」

後ろを見ると顔面偏差値が高い同期の中でも一際高い弓使いの男――服装と相まって、見た目がエルフの男みたいな「フィッツア」が戦場を睨みながら解説してくれる。

「今もケイの誘いを無視して陣地の破壊を優先した。デイデアラの狙いはケイを集中力が切れるまで状況を維持するつもりだ」

長くなるぞ、と二人の戦いを身を乗り出して睨むフィッツア。

会う度にピザを食いたくなるが、それを誤魔化すように俺は彼の言葉に同意するように頷く。

「あのおっさんは相変わらずか……」

マリケスが溜息を吐いている。

こちらは英雄マニアの評価が減点と言ったところか?

「とは言え、どんな手札があるかわからない今の状況では、正解の一つであることも事実ですわ」

忌々しいですけれども、とアネストレイヤが指先に水球を作り出し、それを上品に口へと運ぶ。

それを見た俺は飲み物を持ってくるべきだった、と後悔する。

長丁場になりそうなこの戦い、最後まで見るかどうか悩むところである。

(というかコーラとポップコーンが欲しくなるな)

完全に観客気分の俺は状況に変化がない今のうちに飲み物を取ってこようと席を立つ。

折角なので「水が欲しい人」と聞いてみたところ、ほぼ全員から頼まれた。

誰か一人くらい手伝えよ、と言いたくなったが、全員がこの戦いを見ることに集中している。

仕方なしに俺は一人で給水機の場所まで移動。

ミサイルランチャーを取り出し、その平坦な面に水を入れたカップを乗せていく。

「……何をしているんだ、お前は?」

その姿を丁度やってきた第七期の連中に見られた。

声を出したのはイザリアだけだが、他の面々も「ええ……」と若干引き気味である。

「……長引きそうだ。飲み物を持っていくことを推奨する」

水を乗せたミサイルランチャーを両手で持ち上げ、俺はカップの水が零れないように席へと戻る。

ポーカーフェイスは崩さない。

後ろから何か聞こえてくるが、今は水が零れないように集中である。

段差があるので注意しながら歩き、戻ってきた俺は距離が近い女性陣から水を配る。

「ちょっと、それこっち向けないで頂戴」

水を運んでやってたというのにエルメシアが文句を言ってくる。

ミサイルランチャーの発射口から見える弾頭を大袈裟に避けるエルメシア。

それを無視してカップを手配りし、残りを持って男性陣の方へ移動する。

一言礼を言ってから受け取る男たちに配り終え、俺は自分の分のカップを手にエルメシアをじっと見る。

「礼を言ってないのお前だけな」という視線をしばらく送ってみたところ、エルメシアは諦めたように大きな溜息を吐く。

「はいはい、ありがとう」

よろしい、とばかりに頷く俺に周りから苦笑が漏れる。

そこに「何でお前は毎度毎度給仕の真似事をしているんだ?」とイザリアが現れたことで場の空気が変わる。

「ついてきたのか」

俺の言葉にイザリアが反対方面の観客席を顎でしゃくる。

そこを見るとエデンで最も会いたくない人物が正に席に着こうとしている姿を目撃する。

俺はただ一言「ああ」と全て理解した、とばかりに頷き空いている席へとご案内。

「戦況は?」

イザリアの質問に答える役を誰かに譲ろうとしたところ、丁度マリケスと目が合ったので黙って頷く。

「……見ての通り、デイデアラがケイに消耗戦を仕掛けた。ケイがどこまで手札を温存できるか……それとも、消耗戦がブラフでデイデアラが先に仕掛けるか」

どちらにせよ、主導権を完全にデイデアラが握っているとマリケスが戦況をイザリアに教える。

勿論俺も教えてもらったことで「そういうことだ」とばかりに大様に頷く。

第七期が席に着いたことで、俺はカップ片手に観戦モードへと移行する。

状況は俺が席を立った時とほぼ変わっておらず、ケイの周囲を回りながらデイデアラが陣地を破壊している。

一緒にケイからの攻撃も壊して回っており、如何に低燃費な彼女でもこれだけ能力を使わされれば消耗は馬鹿にならないだろう。

どこかで仕掛けなければならなくなるのは俺でもわかった。

問題はケイの手札である。

ケイは防御特化の英霊と思われていたが、一対一の戦いも十分にこなせる実力も持っていた。

そんな彼女が持つ手札とは一体どんなものなのか?

興味があるからこそ、第七期のメンバーもこの戦いを見に来ているのだろう。

(しかしそうなると時間通りに来ていないのはどういうことだ?)

何かあったのだろうか、とイザリアを見る。

するとイザリアが俺の視線に気づいたのかこちらを見た。

しばし見つめ合ったところでイザリアが大きな溜息を吐いた。

「二人の会話が聞けるような魔術でも使ってほしいのか?」

「……やはりできるのか」

俺はこれ幸いとばかりに乗っかることにした。

「流石『万能』の二つ名は伊達ではないな」と褒めることを忘れない。

ところがこれに待ったをかける人物が現れる。

「それは止めた方が……」

そう言って語尾を濁したのはレイメルである。

目が見えない彼女には二人の会話が聞こえているらしく、中々聞くに堪えないものとなっているようだ。

「それはそれで興味があるな」

しかしイザリアはレイメルの制止を無視して魔術を行使。

直後、聞こえてきた声はある意味では予想通りのものだった。

『ヘイヘイヘーイ! いい加減何かしないと勝てないでちゅよー? それともーやっぱりーできることが何もないのかなー?』

『髭、うっさい!』

『ほらほらほらー、守ってばっかじゃ戦いには勝てませーん。あ、今のもしかして攻撃したつもりだったのかな?』

「俺様強くってごめんねー」とウザイ声を垂れ流しているデイデアラに対し「ふざけんな」「うっさい」「死ね」とお口が悪いケイが語彙少な目で罵り合っている。

八期の一同が黙る中、七期のベルクシオの「陛下……」という声がはっきりと聞こえてくる。

まるで子供の喧嘩みたいだな、と遠い目をしていたところ、ついにケイがキレた。

『もういい、死ね』

その瞬間、戦闘領域がドームに覆われた。

はっきりと見えた光景は――闘技場の床が沈み、結界をなぞるように包み込んだ質量の暴力。

恐らくはケイが出せる最大の攻撃だろう。

所謂全画面攻撃に当たる闘技場全域を飲み込む攻撃だが、そこからさらに収縮という形で止めを刺しに行くケイ。

流石にこれは止めないとまずいのではないか?

そんな考えが頭を過った時、小さくなっていく球体からケイが現れたかと思えば、それを追いかけるようにデイデアラがそれを破壊して現れる。

驚愕の表情を見せるケイが能力を使わず、自らの足で床を蹴って後ろに飛ぶ。

直後に二人を分断するように反り立つ壁が出現し、デイデアラへと襲い掛かるが斧による一撃で粉砕される。

だが、壁は即座に現れては向かっていく。

その全てを破壊し、前へと進むデイデアラ。

そして、距離を詰めるデイデアラが壁を壊し、ケイの前に現れる。

斧の間合い――勝負がついたと誰もが思った。

振りかぶられた斧が下ろされた時が決着だろうと俺も思った。

だが、それらを全てぶち壊す声が響く。

『びやぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああぁぁぁ!』

ケイ、まさかのギャン泣きである。

これには観客席にいる者たちまで固まった。

デイデアラも動きを止めており、状況を把握したことで「勝ったな」と笑みを浮かべ――ブスリと尻に棒が刺さった。

止まっているのをいいことに地形操作でデイデアラを攻撃したケイが「勝ったな」という笑みをやり返す。

『このクソガキぃぃぃっ!』

怒りで叫ぶデイデアラと舌を出して何かのジェスチャーをしながら飛び退くケイ。

第二ラウンドの始まりかと思ったのだが、突如結界を通り抜けてフィールドに突き刺さる誰かさんの転移剣。

観客席にいた全員が「あ」という声を上げ、この後に起こるであろうことを察する。

俺は黙って席を立ち、それに同期だけではなく第七期も続いた。

戦いに関しては誰よりも厳しい目を持つ者がいる。

恐らくだが、ギャン泣きで勝負アリとなったところに負けた側が不意打ちをしたことで「戦いを穢した」と判定されたと思われる。

またデイデアラもウソ泣き如きで隙を晒すなとおしかりを受けることだろう。

なので我々が取るべき行動は「巻き込まれないようにその場から速やかに離れる」である。

二人の悲鳴が一瞬だけ聞こえたが、イザリアが魔術を解除したのでそれ以降は何も聞こえていない。

折角これだけ人が集まっているのだから皆で食事会とかどうだろうか?