軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-23

レイメルと別れてから自室に戻った俺は本当に何気なしに商品を見る。

基本的にエデンでの買い物はこうやって端末で行うので、商品は購入してから手元に来るまでに時間がかかる。

限りある資源を有効活用しているエデンでは注文を受けてから作るのが一般的らしく、実際の商品が店頭に並ぶことはない。

ホログラムで商品を見ることはできても手に取ることはできず、モニターにデータを表示しているだけのものもある。

それがこの世界のショッピングモールだが、それをおかしなことだとはエデンの住人は思っていない。

もっとも、俺は行ったことがないので実際はどうなっているのかはまだ見たことがない。

勿論住民もこうやって商品を買うことができるので、わざわざ店に足を運ぶ理由はないはずなので、やはり人は実際に目で見て物を買いたがる生き物なのだろう。

そんなことを考えながら最近発売したばかりの第八期のフォトカードを眺める。

基本的に全員が三種類前後あり、お値段は物価を考えたらちょっと高い。

趣味に使える金を一般的な住民がどれだけ捻出できるかは知らないが、この閉鎖空間で経済を回すには適正の値段なのかもしれない。

一人一人順番に見ていくと「そう言えばそういう名前だった」と未だに名前を覚えきれていない人物の画面で苦笑する。

あれから全員の名前と顔を覚える機会はあったのだが、何分接点がなさすぎていつの間にか忘れていたりする。

覚えていても名前と顔が一致しないこともあり、ロールプレイの関係上他人と積極的にかかわろうとするのも違うので、ある意味このフォトカードの販売は俺にとって都合が良かったのかもしれない。

そんな訳で確認の意味も込めて全員の顔と名前を一致させる作業をしていたのだが……ここで俺は違和感を覚えた。

(……これで全員か? 誰かいないような?)

少し考えて欠員がいることに気づき、少し間を置いてそれがジャミトスであることがわかった。

あの爺言葉の魔術師は自身の研究が第一のような印象が強い。

なので今回のような件でも研究の邪魔になるから、と事前に拒否をしていたのだろうか?

それとも同期のほとんどから嫌われており、職員からも嫌われたことで除け者にされているのか?

前者はともかく、後者は少々問題である。

エデン側にそんなことをする理由はないが、印象の悪い彼を表に出さないようにする力がどこかではたらいた可能性は捨てきれない。

「今度会ったときにでも確認してみるか」

この時はその程度の認識だった。

それがよもやあそこまでこじれていたなど誰が想像できただろうか?

他者とは一定の距離を保つ――この一件はロールプレイが足枷になった事例として強く俺の中で残ることとなる。

翌朝、なんとなくエデン内部を歩き回っている俺は未だ行ったことのないエリアに足を踏み入れていた。

そこは珍しく陽の光が差し込む空間。

僅かな緑と日光が当たるスペースに置かれたテーブルは小洒落たカフェテリアの一角にも見える。

何か飲み物でも取ってこようかと思ったところで、三つあるテーブルの一つを占拠する人物がジャミトスであることに俺は気づいた。

話しかけるか否か?

判断基準はただ一つ――スコール1ならどうしたか?

(気になることではある。だが、それで踏み込むような人物ではない)

俺は黙ってその場を立ち去る。

とは言え、良い場所を見つけたのは事実だ。

機会があればここでゆっくりするのも良いだろう。

となると何処へ行こうか、と目的もなくエデンの廊下を歩く。

(ここからだと訓練場が近いか?)

折角なので射撃訓練でもしようかとそちらに足を向ける。

道中特に見知った相手と出会うこともなく、精々職員に会釈されるくらいのものだったのだが、その内の何人かに「応援してます」と言われた。

スコール1にとっては迷惑とは言わないまでも、そっとしておいてほしいと思うのが正解。

よって「にわかファンめ」と心の中で厳しいお言葉を授ける。

元同僚曰く「推し活は推しに不快な想いをさせてはならない」という不文律があり、それを守って推し活をするのが、清く正しい道なのだと言う。

言ってる意味はわからんが、多分今の状況に合った話だろう。

それはさておき、訓練場に到着した俺は今、見慣れぬものの前で首を傾げている。

射撃訓練場に新たに設置されたもの――銃があり、正面には恐らく的が映るのではないか、と予想される巨大なモニター。

利用にはポイントが必要であり、俺はこれが射撃訓練のできるゲームと予想する。

早速プレイしてみることにした俺はまずは銃の隣にあるモニターを操作。

説明を表示させると予想通りこれはゲームのようなものであることがわかった。

(出現する的を撃ち抜くだけのシンプルなゲーム。弾は出ないが、設置された銃の引き金を引くと銃口の向きと位置で着弾地点を決め、命中か否かを判定する。うん、ゲームだわ)

難易度を最高にしていざプレイ。

手にした銃は初期装備のような重量で取り回しは悪くない。

これならいきなり満点取れるのでは?

そう思っていたが撃破率は97%で終わった。

敗因は初見殺しと隠しターゲット。

大体わかったのでもうプレイすることはないだろう。

ユーザーレビューには「悪くない」とだけ書いて通常の射撃訓練場へと移動する。

後で知ったのだが、没になった俺の初期装備のモデルガンを有効活用するために作ったものらしい。

道理でよく似ているはずである。

加えて「また無断で何かやってるのか」と思って呆れたが、こちらは純粋に銃の構造を比較するために作られたもので、地球の技術や設計思想を取り入れることで、より強力な兵器を作れないかと試作した際の産物だったと判明。

「疑って悪かった」と心の中で謝罪しておくが、エデンは知らないところでいつも何かをやっている。

一度研究員であるアリスに何をしているのか聞いてみるのもよいだろう。

通常の射撃訓練も終えた俺はかなり早い時間に食堂へ向かう。

何かを食べるためではなく、メニューの確認と飲み物などの持ち出しが可能かどうか調べるためだ。

居住区で見つけた良さそうな場所は結局一度も使うことなく、隠れ家は引き払われ、再び理由なく立ち入ることができなくなった。

そこで見つけたあの場所で食事をしてみようかと思ったのだ。

そんな訳で食堂に入るとそこにいたのはクドニク。

他のメンバーがいないとは珍しい。

向こうもこちらに気づいて軽く会釈をする。

初期は印象が悪い相手だったが、今では普通に会話をするくらいの関係になっている。

そんなクドニクが大きな溜息を吐いている。

しかしそれで声をかけるような俺ではない。

当然向こうもそれを知っているはずなので「知っているか?」と世間話でもするかのように声をかけてくるクドニク。

「またデイデアラが何やら騒いでいるそうだ」

「……またか」

俺が返事をするとクドニクは再び溜息を吐いた。

この見た目若い老将軍は第八期の評判というものをかなり気にしている。

自らがそこに属すると認識しており、その評価が落ちるのを良しとしない。

将軍という地位についていたが故の染みついた価値観なのだろうが、それを俺に言ってどうするのか?

ちなみに今回の件でデイデアラがまた問題を起こすかどうかでレイメルに「賭けをしないか?」と誘われていたが、そもそも賭けが成立しないと言ったところ、彼女は思い直して頷いていた。

だから何かやらかす、と最初からわかっていたので特に動じるようなことない。

人気投票に影響を与えるであろうフォトカード関連で何かあったのだろう。

「詳しい情報は?」

「詳細はまだ不明だが……例の人気投票の件で『俺こんだけぇ!? おかしいだろ!』と大声でわめているのをドータが見たと言っていた」

その姿が目に浮かぶようだ、という表現があるが……まさかここまではっきりと思い浮かべることができるとは思わなかった。

どんなものかと端末を操作してみると第八期の中では下から三番目であり、全体を見ても下から三番目だった。

第八期は知名度が低すぎるようだ。

なお、最下位はあの忍者。

職員でさえ「え、こんな人いたっけ?」というレベルであり、忍んだ結果とは言え、ほとんどの人から認知されていないのだから仕方がないと言うべきか、それとも大したものだと言ったほうがいいのだろうか?

本人はこの結果に喜んでいそうではあるので後者だろう。

フォトに関しても最初期に撮られたと思われる一枚のみであり、こちらを確認すると微動だにせず柱にもたれかかる忍者がいた。

(一位は当然フィオラとして二位がイザリアか……)

俺は現状三位であり、二位とは僅差となっている。

やはり活動の長さは大きなアドバンテージとなるようだ。

そうやって一通り順位を見て、俺はここでもジャミトスの名前がないことに気が付いた。

これはもう本人が何かしたと考えるのが自然だろう。

「何をやったかは知らないが、上手くこの騒動から距離を置いたな」と感心する。

そこへ食堂の扉を開けて登場したのはマリケス。

何やら廊下を気にしている様子だが、恐らく何か情報を持っていそうである。

そんな訳で俺とクドニクでマリケスを呼び、近づいたところで質問する。

「ああ、その件か」

マリケスも何かを知っているらしく、うんざりしたように肩を落としている。

「あの嬢ちゃん……ケイが人気投票の順位でデイデアラを煽った。それであのおっさんがいつも通りに騒いでいる」

お前が焚き付けてんのかよ、と俺とクドニクは揃って天井を見上げる。

第八期の一位は俺である。

二位とは「隔絶してる」と言えるくらい差はあるが……その二位が「おさんぽ要塞」ことケイである。

もう一波乱くらいあるかもしれない。

そう思った俺たち三人の視線が合い、揃って大きな溜息を吐き出した。