軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3-19

面白いくらいに綺麗に尻餅をついた俺は立ち上がるなり詳細を尋ねる。

マリケスも詳しいことは知らないらしいが「何があったか程度は聞いている」とアリスから聞いた話を聞かせてくれた。

「なんでも、お前の映画? とやらを見て製作者に『俺のも作れ』と迫ったらしい」

「……その場合、ポイントが必要にならないか?」

大きく頷くマリケスに俺はデイデアラのポイント事情を思い出す。

今はどうか知らないが、一時はマイナスに突入していたと記憶している。

俺の場合は勝手に作られていたが、依頼するのであれば報酬が必要となり、我々英霊が支払うのは功績ポイントである。

「ポイント不足で交渉に熱が入り過ぎたか?」

俺の解答にマリケスは首を横に振る。

他に何があるかと考えていたら時間切れらしく、マリケスが困った顔で正解を教えてくれる。

「題材となる自分の武勇伝を盛りすぎて信じてもらえず騒いだ挙句、居住区まで付いていこうとしたことで治安維持部隊を呼ばれたそうだ」

その答えを聞いた俺は「あー」と納得したような声を上げる。

確かにあのおっさんなら話を盛りそうだ。

そしてエデンには色々な世界、色々な時代の情報がデータとして残されている。

デイデアラのゾンビハザードな世界から来た英霊は他にもおり、調べれば話が事実かどうかある程度わかるのだ。

ちなみに俺の方にも「暇な時、気が向いた時にでいいから地球に関する情報を提供をしてください」と言われているが、残念ながら実際の地球とゲーム内のものでは大きく異なるので未だに何も書いていない。

そんなわけで原因を知った俺はあのおっさんがどうなるかをマリケスと予想する。

「まあ、無難にポイントを支払うで終わりじゃねぇか?」

繰り出される槍をギリギリのところで避け、振るったブレードは最小限の動きで回避される。

「そのポイントがない可能性がある。それに、居住区はエデンにとっても重要な区画だ。本来ならそこに近づくだけでも注意、または警告される」

「しかも理由がアレだぞ?」と付け加えた俺は強引ながらも鍔迫り合いに持ち込む。

一瞬だが苦い表情をしたマリケスを見逃さず、攻め時とばかりに力で押し込むがこれを利用され、再び槍の間合いまで距離を取られる。

強化服を身体強化重視のものにしているお陰で力はこちらがやや上回るのだが、魔法で強化しているマリケスの反応速度にこちらは大きく劣っている。

結局この試合も見せ場なしで終わり、喉元に槍を突き付けられて俺の敗北。

やはり近接特化型英霊の壁は厚い。

「装備に頼る分、反応速度がネックになるか」

俺の自己分析にマリケスも「そうだな」と頷いている。

しかし実戦になると警告が出るので回避に関しては問題なくなるのだから不思議な戦闘スタイルだ。

分析も当たっていたことだし訓練の続きである。

それにしてもあのおっさんはどうなるのやら――その余計な思考が回避を鈍らせ、黒星を最短で増やす。

それを窘められたところで意識を切り替え、訓練に集中していると終わりの時間などあっという間にやってくる。

互いに無言で丁度良い時間だなと頷き合い、訓練を終了して解散という流れになったところでとても嫌な闖入者が現れた。

「話は聞かせてもらった! 余も新作を出してやろうではないか!」

露骨に嫌そうな顔をするマリケスと物凄く面倒臭そうにする俺。

(というか新作て……この全方面露出狂ならば自分の活躍や自伝を映像化してない方がおかしいかもしれないが、だからと言って「新作出します」とはならんだろ)

恐らくは俺を題材にした個人製作の映像がヒットしたので対抗意識でも燃やしているのだろうが、一言言わせてもらえるならば「対抗してどうすんだ?」である。

「首を洗って待っているがよい!」と嵐のように過ぎ去ったフィオラだが、それを指差すマリケスが「あれ、どうすんだ?」と目で語っている。

「……どうするもこうするもないだろう」

げんなりしている俺の背中をマリケスが叩く。

手を貸してくれないか、と頼んでみたが「それだけは勘弁してくれ」と拒絶された。

マリケスはフィオラのことを嫌っているわけではないようだが「物凄く面倒な相手」と認識しており、他の第八期同様に「強さは認めるがかかわると頭が痛くなる」という評価になっている。

俺もアレのことを「価値観がズレたトラブルメーカー」と思っているのでこちらに押し付ける気持ちはわからんでもない。

何せあの変態とまともに戦えるのは第八期の中では俺かリオレスくらいなものだ。

そのリオレスは徹底してフィオラを避けている。

なので相手をできるのが俺しかいないのだ。

律儀に相手をする必要はないと思うだろうが、俺がやらねばエデンがヤバイ。

もう少しメリットが欲しいと思わなくもないが、それを言い出すのはロールプレイ上アウトである。

損な役回りだとは思うが、ここは損をしてでもエデンに貸しを作る。

相手が相手なだけに打てる手が少なすぎるのはどうにかならないものか?

大きな溜息を吐いた俺を肩をマリケスが叩く。

同情するなら手を貸せよ。

訓練を終えた俺は夕食まで時間があるので、何気なしにデイデアラが収容されている治安課にまで足を運んでみる。

何か考えがあってのことではなく、本当にただ何となくである。

その治安課に足を踏み入れたところ――周囲の視線が一斉にこちらを向いた。

そこから始まるひそひそ声。

「え、マジ? 本物?」という声が聞こえたので、本当に有名になってしまったのだと理解してしまう。

取り敢えず一番近い職員の女性にデイデアラについて尋ねてみる。

「あ、ハイ! ご案内させていただきます!」

大きな声で背筋を伸ばして地球軍の敬礼する女性職員。

エデンの敬礼は右手の拳を胸の前に置くので彼女が視聴済みであることは明白である。

しかし有名人とは言え、いきなり顔パスはどうなのか?

話が早くて助かるが、組織としては問題があるのではなかろうか?

そんなことを考えながら先導する彼女の後ろを歩く俺だが、あることに気が付いた。

(……んー、周りの視線が彼女に集中している)

その意味がわからない俺ではない。

これは案内のお礼にレーションを渡すとかはしない方がいいだろう。

地下に降り、扉を開けた先の留置所にデイデアラはいるそうだが、現在面会している人物がいるらしく、少し待ってもらう必要があると申し訳なさそうに頭を下げる職員の女性。

誰がいるのか容易に想像できた俺は「問題ないから頭を上げてくれ」とこっちが申し訳なくなってしまう。

彼女の計らいで現在面会中の人物から了解を得て、中に入らせてもらうこともできると提案されたので、俺は好意に甘えてただ頷く。

「では、行ってまいります!」ときびきびとした動きで彼女が扉を開けると聞こえてきた声で予想通りの人物が面会していることがわかった。

それから少しして戻ってきた女性職員が扉を開けてくれる。

「出すような真似は決してしない」

そう言って彼女に目礼してから中に入ると聞こえてくるのは予想通りの内容。

「陛下、何度も申し上げますがここは我々の国ではないのです」

「わーかってるよ、そんくらい!」

鬱陶しそうに透明な壁越しにベルクシオを手で払うデイデアラ。

そのデイデアラが俺を見つけるや否や声をかけてくる。

「お、スコール1。俺を出しに来てくれたか!」

「出さんぞ?」

即答で拒否する俺に舌打ちするデイデアラ。

「じゃあ、何しに来たんだよ」とこっちを見るのでレーションを出して差し入れ口に滑り込ませる。

「差し入れ、だな?」

自分でも何をしに来たのかわからない。

「本人の口から聞くよりも誰かから聞いた方が正確な情報が得られる」というのが、このおっさんの信用である。

なので「本人から状況を聞きたかった」という理由があまりにも馬鹿らしく感じる。

そう思うと本当に何しに来たのだろうかと自問する羽目になり、こうしてそれを誤魔化すようにレーションの差し入れをしている。

「あまり陛下を甘やかさないようにお願いします」

「わかっている。だが、今回は偶然が重なって起きたことに起因する。情状酌量の余地はないが、俺も無関係とは言えないからな」

これくらいはいいだろう、と差し入れしたレーションを見ながらベルクシオに言い訳をする。

「そもそも、どうしてこんな馬鹿な真似をした?」

俺の質問に「よくぞ聞いてくれた」とばかりにドヤ顔になるデイデアラ。

聞かない方が良かった、とすぐに察することができたのはベルクシオが大きな溜息を吐いたからでもある。

それからデイデアラが語ってみせたガバガバストーリーには俺も苦笑するしかなかった。

その内容を箇条書きにすると以下のようになる。

・俺様の物語を映像化。

・当然爆発的大ヒット。

・俺様大人気、俺様モテモテ!

という小学生の妄想レベルで酷いものだった。

実際はもっと色々と言っているが、どうせ脚色されまくったものなので割愛している。

「俺だってちやほやされてーんだよ」とこちらを睨んでくるが、この件に関しては俺は一切かかわっておらず、職員の一人が勝手に作ったものが勘違いで公開された結果である。

そのことを伝えても「ずるいずるい俺もモテたいー」と駄々をこね始める髭のおっさん。

駄々のこね方に既視感を覚えた俺はドン引きし、隣にいるベルクシオは声のトーンを落としてガチの説教を開始する。

時折チラチラとこちらを見ているデイデアラだが、残念ながら擁護する気など一切ない。

諦めて最後まで説教を聞いてくれ。