軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-24

最後の試合の前に凸凹になった床が修復される。

直したのは機械を持った職員と呼び出されて手伝うことになったケイ。

地形操作で防衛陣地を作るケイはこんなところでも役に立つようだ。

そんなわけで最終戦となったマリケス対ザイス。

相手はデイデアラが「ヤバイ」と表現したほどの手練れなので、簡単に勝てるはずもなく、むしろマリケスには荷が重い可能性の方が高い。

対峙する二人を見るにそれぞれの武器は槍と無手。

筋肉ムキムキのスキンヘッドの修行僧は格闘家だろうか?

「いや、ファンタジーならモンクかな?」と魔法的な何かがあると予想する。

名称はさておき、相手が超インファイトの戦闘スタイルであることは見て取れる。

ならば槍の間合いを維持できるのであれば、マリケスにも十分勝機があるはずだ。

素人考えだが間違ってはいないだろう。

俺がそこまで考えたところで試合開始。

直後に間合いを詰められたマリケスだが、あれはどうしようもない。

真っ先に頭に浮かんだ「縮地」という単語。

初動から最高速度という瞬間移動でもしたかのように見える移動術だったと記憶しているが、漫画の話で多分詳細は違っている。

まずは様子見と慎重姿勢を選択したところ、あの速度で距離を詰められたのだからマリケスも驚愕したことだろう。

早速先手を取られて一撃もらうが、これを利用して距離を取っているので恐らく意図的に食らったものと思われる。

後ろに飛んでいたことを加味すると拳打による衝撃もしっかり殺しているようだ。

そこから始まる攻防を一言で言えば「目まぐるしい」であり。

間合いを取ろうとするマリケスと槍の最大の強みを殺しにかかるザイス。

互いに位置を入れ替えながらもフィールドを猛スピードで駆け抜けている。

両者の技量がものを言う展開に持ち込まれ、マリケスは終始厳しそうな表情を浮かべている。

状況はほぼほぼザイスが攻勢に回っていることからも不利。

隙を見て槍を振るってはいるものの、その全てを拳で逸らしており、未だに一撃すら入れることができていない。

「これはダメか」と思ったが、マリケスは石突による振り上げを片手で受けたザイスを槍を蹴り上げることで宙に浮かせる。

僅かな浮遊、されどその身動きは大きく制限される。

その瞬間を待っていたとばかりに繰り出される神速の突き。

これを両腕と拳を使って軌道を反らし、肩口を切り裂かれるだけに止めたザイス。

間髪入れずに放たれた蹴りはカウンターとなってマリケスを襲う。

これをマリケスは左腕で受け止め、弾かれるように体勢を崩すが、相手も着地を通して仕切り直しとなる。

するとザイスは右手を前に出し「かかってこい」とばかりに指を曲げて挑発する。

「舐めやがって」とマリケスの声が聞こえ、攻守が入れ替わるも防御に回ったザイスを崩すことができずに有効打が得られない。

しばらくその状態が続いたが、甘い攻撃をしたことでカウンターの一撃がマリケスの顔面を直撃。

滑るようにのけ反って距離が開いたが追撃はなし。

親指で片方の鼻を塞ぎ、勢いよく血を出したマリケスが油断なく構える。

それを待っていたかのように再び距離を詰めるザイスと迎え撃つマリケス。

神速の槍がザイスの目の前で止まる。

(フェイント! あのハゲ、この場面で絶妙なブレーキをかけやがった!)

思わず感心してしまう攻防である。

伸びきった腕に打ち上げるような掌底が打ち込まれ、マリケスの顔が一瞬苦痛に歪む。

同時に地面を踏み鳴らすような重い踏み込みが床を崩す。

両者の足場が崩れ、一瞬の浮遊状態を作り出す。

だが、ザイスは既に動いていた。

マリケスに飛び掛かるザイスは拳を振り上げている。

地に足がついていないマリケスは完全に体勢を崩している。

勝負あった――誰もがそう思ったとき、視界に映る光景に違和感を覚える。

(……槍が短い?)

最初は槍を短く持ち直しただけかと思った。

だが明らかに短い。

飛び掛かったザイスがマリケスに重なるように上を取った。

拳が繰り出されるより早く、マリケスの槍が付き出される。

その速度はザイスの想定を大きく上回り、反射的に攻撃を中断して回避を優先させるほどに鋭かった。

その伸縮を生かした一撃は確かにザイスの顔を削り取った。

左目の僅かに横……寸でのところで回避したことで致命傷を避けたザイスはマリケスを蹴り飛ばす。

こちらに吹き飛んできたマリケスが立ち上がろうとするも、横っ腹にまともに蹴りを受けた影響か、体勢を立て直そうとするも血を吐いて後に膝が崩れる。

槍を支えに立ち上がるも、そこに迫るはザイスの拳。

マリケスの防御をすり抜け、顔の前に突き付けられた拳が勝敗を決定づける。

拳圧で揺れた髪が戻り、マリケスが口惜しそうに「俺の負けだ」と敗北を認める。

「惜しかったわね。あとニイニルずれていたら、逆になっていたでしょうに」

そう言って左目のすぐ横から耳ががっつりと削り取られた顔を見せ、ザイスは「本当に危なかったわ」と最後の一撃を称賛する。

健闘を称えるザイスの言葉に俺は自分の耳を疑う。

「次は勝つ」

悔しそうな表情のマリケスが立ち上がるが、最後の一撃が響いているのか腹部を抑えている。

「あなたの名前、ちゃんと覚えたわよマリケス。次はもっといい勝負をしましょう」

「けどその前にあなたとやりたいわね」とデイデアラを指差すザイス。

それに対して「俺様をご指名かい」とデイデアラは楽しそうに笑っている。

やっぱり聞こえ間違いではないし、耳がおかしくなったわけでもない。

だが、周りが全く気にも留めずに話が進んでいる。

(翻訳がバグってるのか? それとも俺がおかしいのか? いや、実は女性という可能性もあるか?)

どう見ても男にしか見えないスキンヘッドのムキムキマッチョが?

そう困惑しながらもポーカーフェイスで乗り切ろうとする俺の前で治療を受ける二人。

そこへやってくる第七期の面々。

「こちらの三勝。我々の勝ちだな」

そう言ったのは先頭にいるボロボロだったスーツが新品同様になっているイザリア。

誰もザイスの口調について何も言わない、ということは平常運転であるらしく、俺は諦めて何も言わずに黙っていることにする。

「お、負けた大将さん。お疲れ様!」

負けていようがお構いなしに煽りに行くスタイルのデイデアラ。

相手にするだけ無駄だとわかったのかイザリアはおっさんを無視して話を続ける。

「今後は合同で出撃するときは私の指揮下に入ってもらう……」

と言いたいんだがなぁと続けてがっくりと肩を落とすイザリア。

「お前ら気づいていたなら教えろよ」

俺とリオレスを睨むイザリアだが、何のことかさっぱりだ。

「私に一体何を教えるつもりなのか興味があった」

「ああ、そうだな。お前には教えられることなんてほとんどない」

教える、というキーワードでようやく俺は何を言っているのか少しわかった。

俺の場合は「魔力の感知ができない」という欠点を教えるための実地指導。

「では他の者はどうなのか?」と考えるもさっぱりわからない。

リオレスを見ると目が合ったので「説明の続きを頼む」と頷く。

「そもそもこの茶番の目的は何だ? デペスを相手にするならば、対人技能を鍛えることは明らかにおかしい」

疑ってくれと言わんばかりだ、と今回の一件のおかしな点を一つ一つ上げていくリオレスは「杜撰すぎる」とボロカスに言ってのける。

それに対してダメージを受けたかのように「そこまで言わなくてもよくない?」という視線を向けてくるイザリア。

「こっち見んな」と言いたいが、どうやら俺も全部わかってる枠に入れられているようなのでロールプレイを継続する。

(というか、俺が求めたのは説明なんだけど?)

どう考えてもリオレスは思いっきり煽っている。

以心伝心ならず――こうなってはもう黙って事の成り行きを見守ることしか俺にはできない。

一頻り粗探しと酷評が終わったところで、エルメシアも「私もわかってましたけど?」みたいな空気を出しているが、全員から嘘だと速攻で見破られる。

「それで、第七期の先輩方は、私たちに何を求めているのかしら?」

誤魔化すようなエルメシアの言葉にイザリアが俺たち第八期を見渡す。

少しへこんだ様子から回復には至っていないが、イザリアは重々しく口を開いた。

「一番の目的は足りていないものを後輩に実戦形式で教えるというもの。今後のデペスとの戦いでは避けて通れないものがある」

「それがどう対人戦闘に繋が……おいおいおい、マジか?」

口を挟んだデイデアラだが、その途中で自分が出した結論でも信じられないのかイザリアに確認する。

「お察しの通り、デペスには『人型』が存在する。その中でも『特型』に分類される中に、我々英霊を模したと思われるデペスも確認されている」

「これはデータベースには存在しない、通過儀礼でのみ語られる事実だ」と付け加え、イザリアは大きな溜息を一つ吐いた。