軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-4

「まるで我々がここに召喚された結果に疑問点があった」

そのようにしか聞こえなかったが、とリオレスはローガンに対して圧を強める。

アリスも状況を把握できていないらしく、視線が二人を行ったり来たりしている。

どうやらアリスも知らない情報をローガンは持っているようだ。

そんな状況でも「まあ、主任だしな」と他人事のようにただ立っているだけの俺。

「そして、私が規定外領域とやらに到達していることを知ってその疑問が氷解した。答えろ、お前は何を隠している?」

手にしたブレードをローガンに向けたリオレスが睨む。

その本気度を察したのか大きな溜息を吐くローガン。

「……他の者には言わないでくれよ?」

「内容次第だ」

リオレスの言葉にローガンは静かに語り始める。

英霊召喚には法則がある。

一見するとこの法則から外れた今回の召喚結果に「誰かが実力を隠している」ことをローガンは確信していたと言う。

それが俺である可能性を考えたローガンはアリスに俺を探らせることにした。

当然違う可能性もあるので他の英霊も別の職員が探っている。

(最低値を叩き出した俺をアリスが妙に気をかけていたのはこういう理由か)

戦場の記憶を見るように仕向けたのもこの主任であり、その結果はよく知る通りである。

「てっきり君だけが規定を超える者だと思っていたのだが……」

そう言って俺を見るローガン。

「最低一人はいることが保証されているわけか」

「召喚ガチャ」に「最低保障」というワードが俺の脳裏に浮かんで思わず呟いてしまい、動悸の乱れを隠すように大きな溜息を吐く。

「あまり察しが良すぎるのも、組織では自らを生き辛くするだけだよ、スコール1」

その溜息をどう解釈したのか、主任が嫌味にも聞こえるアドバイスを俺に送るとローガンは話を再開させる。

英霊召喚にある法則――それは召喚の目的が「デペスの殲滅」にある以上、それを成し遂げる力を持つ者を呼び出すことが求められる。

その基準こそが「規定外領域」である。

「人間の限界という定めを超えるが故の規定外。デペスという災厄の想定すら上回るが故に規定外。その領域へと足を踏み入れた者だけが、このエデンの希望となれるのだ」

「それじゃ……」と言葉に詰まるアリスと面白くなさそうなリオレス。

頼む、俺にもわかるような会話をしてくれ。

「先ほど彼が言った通り。最低でも一人は必ずいる。一人だけだと思っていたがね。ではそれ以外の英霊は何故いるのか? 希望となる者を生かすため、デペスを倒すための兵士として、彼らもまた必要な存在だ」

英霊にはアタリとハズレが設定されていることを明言したローガン。

強者をまとめるのは彼らよりもさらに強い者こそが適任であり、それを補助するためにも大きなインパクトを与える必要があった。

規定外領域への到達に必要な数値は三千――その数字が与える印象をその他に刻み付けることこそが、あの測定器の本当の役目であるとローガンは語った。

「あの柱はただの選別用だったのですか? なら、あの記録は騙すための作り物だと言うんですか?」

問い詰めるアリスにローガンは冷ややかな目で答える。

「当然だ。三千という数値に到達できる者など規定外領域にいる者だけだ。用意されている最高記録は、それ以外の英霊が超えることができず、それでいて迫ることができる現実的な数値でなくてはならない」

アリスの言葉を補足した上で肯定するローガン。

「その話を聞いた上でまだ協力が得られると?」

「君の目的は聞いている。我々はそれに最大限の協力を約束しよう」

その言葉にリオレスが突き付けていたブレードを僅かに下げた。

「具体的に何ができる?」

「エデンにはデペスの次元移動を封じた手段がある。君がアレと遭遇した場合、我々は次元移動を封じることに尽力しよう。だが、この手段がどこまで通じるかはわからない。アレが君の前に現れるということは、通常出力では止められないことを意味する。恐らくはできて妨害。それ以上のことは確約できない」

ローガンの言葉を聞いてリオレスはしばし考え、軽く息を吐いた後「十分だ」とだけ言って腕を下ろした。

「こんな手段で……」

アリスは拳を握りしめて震えている。

それに構わずローガンは語る。

「理想と現実をしっかりと分けるんだアリス。それに、我々はエデンの希望となる英霊には隠し事はしてこなかったつもりだ。勿論、デペスを殲滅するために英霊の力が必要なのはわかっている。だからこそ、彼らにも可能な限り便宜をはかっている」

「だからと言って! 彼らの力が……!」

「通じない。通じないのだ」

アリスの言葉を遮り、そう言って頭を振るローガン。

「我々の目的はデペスの殲滅。そのためにはデペスを生産するものを倒さなければならない」

「生産」という単語が出てくることの違和感。

記憶が確かならばデペスは無機物・有機物問わず寄生し、増殖しているはずだ。

その疑問を察してかローガンは続けた。

「千年に及ぶ戦いで得た結論だ。とは言え確証はない。だがそう考えねば辻褄の合わない事実がある。君も知っているはずだ、アリス。かつて我々は幾度もデペスを相手に攻勢に回った。その記録は必須項目としてエデンの職員全てが目を通すことになる」

頷くアリスにはすぐにそれが何を指すかわかったらしく、先を急かすようにローガンに質問する。

「第一期と二期による都市奪還作戦……失敗に終わったあの作戦に、何かあったのですね?」

自分が知らない情報からその答えを導き出したアリス。

だが、その返答は予想を裏切るものだった。

「何もなかった」

そう言って首を横に振るローガン。

「そう、我々が数多の犠牲を払い、辿り着いた場所には何もなかった。デペスの寄生体を生産するには、そこ以外あり得ないはずなのに……装置も、予想されていた母体となる個体すらいなかった」

「そこには何もなかったのだ」とローガンは繰り返す。

「我々に未だ姿を見せていない何かがいる。それが我々が出した結論であり、その正体不明の敵を倒すためには、また別の敵を倒さなくてはならない」

ローガンはアリスを見つめその答えを出させる。

「特型……」というアリスの呟きを聞き、満足そうにローガンは大きく頷いた。

「そう、我々が『特型』と称する特殊な個体。大きいものがあれば小さいものもある。一つとして同型のいない特殊なタイプ。それらは全て、我々が攻勢に出た際に出現している。そして特型を倒せる英霊は皆トップランカーと称される功績上位者であり、彼らは全員が規定外領域へと到達している」

「もう答えは出たね?」と最後の確認とばかりにアリスに微笑むローガン。

その笑みの中には「これ以上は相手にしない」という圧力があり、アリスはただ黙って俯いた。

「ここでデペスを殲滅できねば、我々は次の世代へ、そのまた次の世代へと負債を押し付けるだけだ。逆に我々がここで滅びれば、どれだけの世界が滅びるか……それを阻止するためならば、どのような非難も受け入れよう。どのような地獄にも突き進もう。それだけの狂気なくして、世界など救えるものか」

俺が感じていたのは熱量ではなく狂気。

所謂覚悟ガンギマリの爺さんを前に、完全に言い負かされたアリスは何も言えずに拳を握り締めている。

「さて、リオレス君は協力してくれる。では君はどうだろうか?」

ガンギマリ爺さんの矛先がこちらに向く。

それに対する俺はいつも通りに無言のポーカーフェイス。

「チキュウ――エデンのデータにはない世界だ。だから我々は君への理解があまりに浅い。君は全く新しい世界からの来訪者。我々にとっては有難くもあり、難しい扱いでもある。そんな君が規定外領域に到達しており、それどころか最高戦力候補にまで入っている」

「運命を感じるな」とローガンはそう言って笑った。

爺さんに運命を感じられても困るのだが、言いたいことは俺でもわかる。

恐らくエデンの実情を知る者たちの一部からは「スコール1」という存在がデペスを倒すために新たに未知の世界から呼び出された、と考える者がいるのだろう。

誰だって絶望的な状況にいれば希望が欲しい。

その俺が「人類の希望」となる物語を見せてしまったのだ。

なので「勘違いするな」と言える立場に俺はない。

「スコール1。君は一体何者だ?」

哲学的な問いだな、とお茶を濁す発言は流石にできない。

それでも言葉は選ばなくてはならない。

「それを俺に聞くか」

スコール1ならばどう答えるか?

プレイヤーの分身であった彼ならば何を思うか?

あの地獄を潜り抜け、人類の希望となり、敵に勝利して最後に絶望に囲まれた彼は自分を何とする?

「何者にもなれなかった俺に」

そう、彼はスコール1になり切れなかった。

絶望を振り払い、人類の希望となった男の背中に追いつきながら、最後の最後で彼が思い描いた「スコール1」になり切れなかった男。

だからだろうか?

あまりにも自然にこんな言葉が出てしまった。

「だからこそ、私は君にこう言うしかないんだ」

そんな俺にローガンは済まなさそうな顔で言う。

「今度こそ、この場所で、君が『スコール1』になるんだ」

その言葉に俺は目を見開く。

「君が思い描いていた世界を救う英雄。だが彼は志半ばで倒れ、君は彼に成り代わった。君がこの場所で戦う理由など本来はない。君が守りたかったもの、救いたかったものはここにはない。それでも、敢えて言わせてくれ。英雄の物語を続けるんだ。かつての君がそうしたように、今度こそ世界を救ってくれ」

まるでこちらの思考を読んだかのような誘い文句である。

(スコール1になり切れなかった者に「スコール1になれ」とは……)

ロールプレイで考えるならば、これ以上はない言葉である。

だが返事はできない。

それをしてしまえば「彼」の像が崩れてしまう。

俺はただ黙ってこの場を立ち去ることを選択する。

この場ではそれが何よりの答えとなることは、残された俺のブレードが証明してくれる。

「こんな卑怯な言葉しか言えない私を恨んでくれ」

背中で受け止めた声にあるのは謝罪と感謝の感情。

もしかしたら、彼はここで殺されることも視野に入れていたのではないだろうか?

恐らく俺を戦わせるためならば、それくらいのことは平然としそうである。

廊下に出るとどうにかこの場を乗り切れたことに安堵する。

これからもこんなことが続くのだろうか、と不安な気持ちになる一方「今度こそ、スコール1となる、か」と先ほど言われた言葉を繰り返す自分がいた。