軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-30

引き金を引く。

それだけで正面の昆虫型デペスが三体吹き飛んだ。

一体どれだけの敵を倒し、どれだけの時間が過ぎただろう?

それを考えるような無駄は今の俺にはない。

思考が沈む。

ただ敵を倒すためだけに、効率的に殺し、動作一つすら無駄を省くように深く、深く沈んでいく。

記録を塗り替えるため、あるいはただの自己満足のため繰り返し、繰り返し死んで覚えた戦場の記憶が呼び起こされる。

そこに妥協はなく、ただ最善と最良の結果のみを追い求め最適化された動きが、この戦場で俺を生かし続けていた。

バイクはとっくに壊れており、迫るデペスの群れを相手に我が身一つで回避を成立させ続けることはできず、体中に無数の傷が刻まれている。

それでも体は動く。

どう動けば良いかがわかる。

突進してくる昆虫型タイプAを衝撃を流すように受け止めると角が振り上げられ、俺の体が宙を舞う。

形状からしてそうすると思っていた。

欲しかったのは滞空時間。

デペスがひしめく地上ではリロードをする余裕がなくなった。

俺は打ち上げられると同時にセンチュリオンの弾倉を入れ替える。

いつの間にか合流していた飛行タイプの顎をすり抜けるように体を捻り、近接武器を抜き放ち、切断しないようにその刃を胴体の真ん中で止める。

これで僅かではあるが滞空時間をさらに稼ぐことができた。

追加で群がってくる飛行型に対し、近接武器を変更と再選択で左手に戻すと同時に正面の一匹を斬り伏せる。

リロードが完了したセンチュリオンを真下のタイプAに撃ち込み、反動で落下速度を調整して別個体を蹴って飛ぶ。

斬って、撃って、蹴ってを繰り返し、地上に足を付けることなくデペスの群れの中を飛び回り、致命傷を避けながら敵を確実に減らしていく。

飛行型の背に刀を突き刺して、柄を腕で挟んで多数の武器をリロードする機会を作って地上へと降りる。

現状デペスを狩るにはセンチュリオンでまとめて倒すのが最も効率的である。

よって、それ以外の武器は最大火力を出すための補助と割り切る必要があった。

だからこそ、ロケットランチャーの爆風に自らを巻き込み、地雷で打ち上がるデペスを利用し空へと舞い上がった。

当然そんなことすれば肉体の損傷は増える一方であり、この体は着実に限界へと近づいていた。

だが、それを考慮する思考など持ち合わせていない。

如何に効率よく敵を倒すか――それが今考えるべき全てである。

衝撃が俺の腕を伝い全身へと響く。

アサルトライフルで受け止めたはずの突進の一撃が俺を大きく後方へと弾き飛ばした。

ひしゃげた初期武器を投げ捨て、センチュリオンへと切り替えると弾倉の最後の一発となった弾丸が俺を弾き飛ばしたデペスを消し飛ばす。

次――とリロードの時間を稼ぐための武器を取り出すも敵の攻撃がない。

そこで我に返り周囲を見渡す。

「……いない」

遠くにはまだ少し見えるが、俺の周囲にはもうデペスの姿は見えなかった。

俺はゆっくりと各武器のリロードを始める。

戦闘は終わりを迎えつつあるが、まだ終わったわけではない。

援護に向かった方がいいだろうと一歩踏み出したところで膝が崩れ落ちた。

どうにか片膝をついたが、そこでようやく自分の状態に気が付いた。

「中々にボロボロだな」

体中が痛い。

強化服も破れたり焼け焦げていたりでボロボロである。

俺は大きく息を吐いて立ち上がる。

これくらいで倒れるほど戦場で鍛え抜かれた体はやわではない。

自然にそう考えてしまった違和感に俺は乾いた笑いが漏れた。

(いや『戦場で鍛えた』て……)

これまでは自分の状況がよくわかっていなかったが、これではっきりした。

間違いなく浸食されているか、もしくは同化している。

「ある日突然スコール1と入れ替わったりしないだろうな」と考えて冷や汗が流れる。

もしもそうなった場合、自分はどうなるのか?

想像して怖くなったので、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸をする。

(考えていても仕方がない。今はこの戦いを終わらせることに集中しよう)

スナイパーライフルのスコープを覗き込み、未だ戦闘中である場所に弾丸を送り込む。

こちらに向かって来る個体がいないことをいいことに次々と狙撃。

功績をかっさらうようで悪いが、こっちは結構限界のようなのでさっさと終わらせたいのだ。

見える範囲で狙撃できる敵がいなくなったのでバイクを出して移動しようとする。

だが、出したバイクが辛うじて原型を留めているレベルで破損していた。

「あー、そうだったな」

後頭部をかいてそうぼやく。

これ直せるのかな、とこのままだった場合の最悪なケースが頭を過る。

初期武器とは言え、こちらも派手に壊れている。

もしもこれらがこのままなのだとしたら、今後の戦術を見直す必要がある。

歩きながら各武器のチェックをしていたところに現れたのはなんとデイデアラ。

よく見ると珍しいことに負傷しているのが見て取れる。

「お前がいんのか?」

「そちらも終わったようだな」

どうやら周囲の敵を殲滅したので外側に向かって走っていたらしい。

ところが敵はいないし味方もいない。

それで少しばかり探してみるか、となったところに俺を発見したのだと言う。

「ははーん、あいつらに出会わなかったということは、そういうことか」

ニヤニヤと笑うデイデアラはどうやら何かを察した模様。

それに対して無言の俺はポーカーフェイスを貫く。

俺を探るだけ無駄と判断したデイデアラは何やら周囲を探している。

そして何かを見つけたのかそちらに向かって走り出す。

当然俺には何も見えない。

本当にあいつの視力はどうなっているのか?

ともあれ、まだ信号弾が上がっていないので戦闘は継続中である。

俺はまだ戦いが続いていそうな反対側へ向かい歩き出す。

バイクがないのが本当に辛い。

「最低ランクの走るだけしかできない乗り物」とか言って本当にすまない気持ちでいっぱいである。

そんなことを考えながらもう一度バイクを出してみたが、破損状態に変わりなし。

(いやほんと、この怪我で歩いて帰れとかきついんだけど?)

しばらく歩いているとエデンの方角から信号弾が上がった。

戦闘が終わったならば、と進行方向をエデンへと変更する。

これからエデンまで徒歩で帰るのか、と考えると気分が暗くなる。

そう思っていたところ、遠くから声が聞こえてきた。

「お、いたいた」

駆けつけてきたのはデイデアラ。

その遥か後ろには武士もどきとその一派の姿があった。

どうやら向こうも無事だったようだ。

おまけに俺と比べて随分と元気そうである。

このおっさんはあいつらを俺にぶつけて何をしようというのか?

恐らくはただ面白がってやっているだけなのだろうが、こっちとしては面倒事を増やしたくない。

(疲れてるし、適当に何か言って終わりにしよう)

エデンに向かって歩く俺とこちらに向かって来ている集団。

進路を変更するのも不自然なので歩き続けることしばらく、正面に立ちはだかる八人を前に足を止める。

集団の先頭にいるクドニクが俺の姿を見て僅かに口角を上げているのがわかった。

「そちらも無事のようだな、スコール1」

クドニクの言葉に「ああ」とだけ俺は返す。

お前らの分まで倒してやった、とか言っても良かったのだが、今は余計に疲れたくない。

だから俺はこの件をクドニクが仕掛けたものではなく、ただのミスとして片づけることにした。

「作戦が想定通りに進まないなどよくあることだ」

俺の言葉にクドニクから表情が消える。

そう、誰にでも失敗はある。

だから俺はこれを咎めるつもりはない。

「それに、この程度なら何の問題もない」

お前のミスなら俺が帳消しになるくらい働いたから大丈夫。

これでこの件はお終いね、と終わらせたつもりだった。

だが、俺を見るクドニクの目には怒りが宿っている。

「何でそうなる?」と言いたくなる俺の隣で笑いだすデイデアラ。

「仕掛ける相手を間違えたんじゃねぇか」

何があったかを全てわかったつもりで煽りにいくおっさん。

他人事だと思ってやりたい放題である。

明らかに空気が悪い。

そんなところにやってきたのはまさかの送迎用トラック。

「乗りたい奴はさっさと乗ってくれ」

運転手は以前第八期を送ったあの軍人。

俺は連中を避けてトラックに乗り込もうとする。

「走行二輪車はどうした?」

「大破した」

直ればいいんだが、と乗り込むなり座席に腰を下ろす俺。

一息ついたとばかりに大きく息を吐く。

連中も乗ってきたようだが、二階へ行ったようだ。

なお、デイデアラは俺の隣でニヤニヤと笑っている。

このおっさんと話す気はないので運転手に声をかける。

「迎えには来れたんだな?」

「ああ、他の戦域はとっくに終わっているからな。こっちに出せる余裕ができた」

その答えに隣と上が反応したが、これを運転手が宥めるように続ける。

「ま、北は数は多いが小型だけ、南は今回の最大勢力だったが、現役トップが向かってる。西の終了が最後になるのは予想通りだ」

ちなみに敵殲滅を伝える手段がそちら側にはあるらしく、信号弾を打ち上げる必要はないのだと言う。

(期間限定装備の「花火」とかあれば合図が送れるんだがなぁ)

季節ものなのでこれは流石に無理があるだろう。

それから話を聞きながら他の英霊たちを回収してエデンへと帰還する。

デイデアラが負傷していたので予想は出来ていたが、無傷の者がほとんどいない。

無傷かつ明らかに余裕があるのはリオレスとジャミトスの二人。

他は皆疲労や負傷が目についた。

幸いというべきか、死者は一人もおらず重傷者もいない。

力不足の者であっても味方と上手く連携して立ち回ったらしく、魔力切れを起こしかけていたエルメシアも負傷していない。

ただ、疲労困憊であることは見て取れた。

というより後衛組は体力面で今回の戦闘が中々厳しいものであったらしく、ほぼ全員が似たような状態である。

運転手は彼らを労いながら全員が乗ったことを確認して帰路に着く。

エデンに到着すると待っていたのはジェスタとアリス。

「お疲れ様でした」と労いの言葉を貰い、解散となる前に彼らからお知らせがあった。

「今回の戦いで第八期はその実力を示しました。これからの戦いでは先人たちと共に戦うこともあるでしょう」

彼らはここまで戦い続けてきた英雄であり、一癖も二癖もある時にはとても厄介な味方です、と褒めているのか貶しているのかわからい言葉を続けるアリス。

「それでも、あなた方が協力して戦えることを私は信じています」

不安になる物言いに全員が「ええ……」と言葉を失いがちだが、物申すほどに元気がある者は少なく「はよ休ませろや」と目で語る者までいる。

そんな中、ジェスタがアリスに続き俺たちに伝達事項があると言う。

どうも戦闘詳細の報告での集まりが悪いので、今回はここで簡単に戦績上位者を発表するとのことである。

「変則的だが、これが現状計測されている今回の戦果だ」

そう言ってゲートのモニターに映し出される今回の戦績。

それをジェスタが読み上げていく。

一位は誰もが予想したであろうエルメシア。

最も厄介な相手であり、西側最大の脅威を一人であそこまで削ったのだからこれに異を唱える者はいない。

二位はリオレス。

中型を相手に立ち回り、それ以外でも敵を倒して駆け回っており、その安定した強さを見せつけることとなった。

三位はデイデアラ。

やはりと言うべきかこのおっさん、かなり強い。

現状第八期の三強と言えばこの面子なので驚くこともない。

お疲れモードの俺もいい加減「はよ帰らせろ」と強い視線をジェスタに向けるとそれに気づいた奴はニヤリと笑った。

「第四位はスコール1。戦果は62000オーバーだ」

思わずモニターを見てしまった。

「どうやら全盛期の力を取り戻しつつあるという話は本当のようだな」

今後も頼む、と頭を軽く下げるジェスタは最後に五位を発表して解散を告げる。

ポーカーフェイスを崩さぬまま、しばし戦績が表示されたモニターを見上げていると、軽い衝撃が背中に走る。

俺を知る面々が「やるじゃないか」とか「やっと本気を出したか」など一言と共に背中を叩いたりして去って行く。

生前は英雄と呼ばれるだけあって、何だかんだで気のいい連中が多いのだろう。

そうでない者もいるだろうが、彼らには彼らでそうなるだけの背景を持っている。

では、俺はどうか?

ただのゲーマーである。

それも何やらゲームの中の英雄と融合でもしてそうな事案が発生しており、何人かとは中々に険悪な雰囲気になってしまっている。

問題は山積みだ。

だがそれでも、俺はここで、こいつらと何とかやっていけるような気がした。

だから敢えて言おう。

俺たちの戦いはこれからだ。