軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-24

この救いようのない話を聞いて何もできない無力さを感じつつも「こんな世界に生まれなくてよかった」と安堵する自分がいる。

同時にスコール1とマリケスが迎えた結末が、自分の死後に世界が滅んだ可能性が高いという共通点を知った。

(マリケスが俺に対してあんなに英雄という言葉に拘った理由がこれか)

俺がそうでなければ「自分の戦いは何だったのか?」と疑問を持ってしまう。

それを否定するための言動であったと不満はあるが一応納得はした。

その視線を受けてかマリケスは語る。

「もしもまだ俺の世界が続いているのなら、ここで戦うことは無意味じゃねぇ。ここで諦めれば、俺が繋いだ世界が嘘になる」

まだ可能性はあると信じなければ、ここで戦うことなどできない。

その勝算を少しでも上げるためにお荷物はとっとと元居た世界に帰れ、ということだろうか?

言いたいことはわかるが、生憎と俺はただのゲーマーであって、物語の中の人物ではないのだ。

察しがいいわけでもなく、能力も平凡の域を出ない。

(なのに何なんだこいつらは?)

察しは良くて強くて顔も良い。

「こいつら全員創作物の人物というオチだったりしないかなぁ」とやや現実逃避をし始めたところでエリッサが俺を見ていることを気が付いた。

わかった振りをして頷く俺の格好悪さよ。

「ごめんね、やっぱり僕戦えそうにない」

もう一度涙目で「ごめんね」と謝るエリッサ。

かける言葉が見つからず、再び顔を伏せる彼女に何か言わなければと必死に考える。

「後は任せろ」

こんなことしか言えない自分に腹が立つ。

だが、今回は言い切れた。

その成長だけは自分で褒めよう。

何もできないまま、何も言えないままただ傍で立つ、

それだけしかできず、そうして時間だけが過ぎ、別れの時はやって来た。

大きな輪っかのような召喚装置の前に立ち、後ろの背景がはっきりと見えるほどに透き通った姿のエリッサが背を向けて見上げている。

アリスがそろそろ時間です、と装置の起動時間が間もなくであると告げた。

この装置が起動すれば彼女は送還される。

最後に何か言うべきか?

そう思ってはみたものの、何も言葉が思い浮かばない。

装置が起動準備に入って音を立て始めるとエリッサが振り返って俺を見る。

そして俺の両手を取ると、彼女の胸の前で祈るようにその手で包み込む。

「太陽と大地と精霊……は止めといたほうがいいね」

何かのおまじないだろう。

だが「精霊」という言葉を使うことを止め、苦笑したエリッサは言い直す。

「太陽と大地と、僕の加護がありますように」

最後の最後でエリッサは笑った。

それが精一杯の作り笑顔であることくらいは俺でもわかった。

「スコール1、君の名前を教えてほしいな」

エリッサの体が徐々に光の粒子となっていく。

僅かな逡巡、だが俺は手短に名前だけを口する。

「――だ」

とても小さな呟きだった。

それが聞こえたかどうかはわからない。

だが彼女の最後の声はしっかりと聞こえた。

「バイバイ、――」

聞こえなかった俺の名前。

その前にエリッサは消え去っていた。

後に残った粒子がゆっくりと装置の中心へと吸い込まれるように消えていく。

それを見送った俺は何も言わずにこの部屋から立ち去ろうとする。

途中まだ装置を見上げるマリケスとすれ違うと後ろから声が聞こえて立ち止まる。

「謝る気はねぇ。あいつが戦い続けるなら、待っていたのは食われて死ぬ未来だ」

生きながら食われるってのは存外きついんだよ、とまるでそうやって自分が死んだかのように語るマリケス。

戦場で死んだ記憶がない者は多いと聞いているが、マリケスはそうではないようだ。

死んだ英霊は時間が経てば光の粒子となって消え去る。

だが、戦場で死んだ英霊はその前にデペスに食われるのだそうだ。

恐らく、英霊を構成するものを取り込み解析しているというのがエデンの見方であり、これが理由で戦力にならない者は戦場から遠ざけようとしているのだろう。

弱ければ最悪生きたまま食われる。

もしかしたら、これを知ったからこそマリケスはこんな強引な手段に出たのかもしれない。

「損な役回りだな、英雄」

歩き出した俺の皮肉に「お前もだろうが」と呟くマリケスが苦笑する。

ここから先は結果で示すだけである。

問題はそれが一番難しいことだ。

(未だ最高がTier7という低スペックで、どこまで戦えるか……)

僕っ子の加護が発動して奇跡でも起きないものかと召喚部屋から出た。

するとばったりと出くわす第八期の英霊たち。

全員ではないが結構な人数が集まっている。

「嬢ちゃんはちゃんと帰ったか?」

デイデアラの言葉に俺は「ああ」とだけ返す。

思いの外エリッサは好かれていたらしく、結構な割合でその別れを惜しまれていた。

少しばかり目頭が熱くなるのを感じたが、次の一言で全てが台無しになる。

「良い脱ぎっぷりだったからな、帰すにゃ惜しい嬢ちゃんだった!」

同意を求めるように俺に向かってうんうんと頷くデイデアラ。

俺でもわかるこの空気の変化。

さあ英霊たちよ、ちょっと俺と一緒にこいつをぶん殴ろうか?

エリッサが送還されてから早十日――あっという間に訪れる次の出撃。

その間に本当に色々なことがあった。

俺の戦場の記憶上映会は別の部屋でも見られていたらしく、結構な数の英霊がそれを見ていたとのことである。

結果、俺はエデンから最高戦力の一人となることを期待され、同期からも一目置かれるようになった。

ここまではいい。

問題はいなくなったエリッサのポジションに収まろうとするレイメルと「スコール1を利用されるのが何か気に障る」というマリケスの二人が険悪なムードを醸し出していることである。

勝手に俺を仲間認定した挙句、ライバル的なポジションにぶち込んできたこいつは何かと絡んでくるようになった。

男のストーカーとか本当に勘弁願いたい。

そんな中、俺に話しかけてきたのがレイメルである。

元々彼女とは交流があったし、本来の力を発揮できない勢として協力関係を結んだこともあった。

なので「これからも仲良くしていこう」的なことを言われたのだが、そこに介入してきたのがこのストーカーである。

こちらとしては美人と仲良くすることに否はなかったのだが、そんなことはお構いなしにバチバチにやり合う二人。

周りは面白がって見ているだけで解決には一切寄与しない。

期待している未来の最高戦力が困っているのに助けてくれないアリス。

「これくらいどうにでもなりますよね?」的な笑顔を向けられて何も言えない俺も悪いのはわかっている。

「助けてくれ」の一言が言えないロールプレイが全部悪い。

そんな中で今回の出撃である。

「これで強い武器を引けなかったらどうしよう?」と俺の胃は限界を迎えようとしている。

勘違いされまくった結果の期待が、ストレスとなって俺の胃を襲う。

作戦室に集まり、ブリーフィングが終わると同時にそこから逃げるようにゲートに向かった。

バイクに乗って戦闘区域へと一足先に到着し、他の連中が来るまで待つ。

(神様仏様、何なら僕っ子の加護でもいい、我に力を与えたまえ!)

祈り届かず、新たに解放される武器はなし。

今回も今ある手札で戦う外なく、どうにかして増えた武器スロットを有効活用できないものかと今更必死に考える。

今までずっと考えていたんだが、有用な使い道を思いつかなかったので、完全な悪あがきである。

そうこうしているうちに味方が続々と到着。

今回は先輩方も出撃しているので送迎はなし。

後から到着したレイメルから「乗せて行ってくれても良かったのに」と愚痴られた。

帰りは乗せる約束をさせられたが、視界に映り出した敵の群れがそんな些細なことを吹き飛ばす。

「今回は敵の数が多く、これまでとは違う敵が来る。気を付けろ」

「ま、俺様に獲物を取られないように気を付けな」

「さっさと力を取り戻せ、スコール1」

「余裕があれば、こちらも手伝ってくださいね」

散開する前に声をかけてくる同期の視線が辛い。

今回は今まで戦ったことのないタイプも混ざっているとの事前情報があり、そいつが遠距離攻撃ができるとあって余裕のある者が少ない。

つまり援護は期待できない、ということである。

「ああ、もう畜生! やってやらぁ!」と心の中で吐き捨て覚悟を決める。

でもやることはスナイパーライフルの最大射程からチクチク削りからとなる。

攻撃できるからね、仕方ないね。