軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-21

戦闘が終わっても俺は本部に戻ることはしなかった。

当然と言えば当然だが、戻れば成り代わりが露見する。

俺は物資だけを時間差で受け取ることで戦場に居続ける道を選んだ。

物資と情報だけを受け取り、そこら中にいる敵を倒し続けた。

作戦本部もチームの自分以外が全員死んだと聞かされれば、戦い続けることを選択するスコール1を無理に止めようとは思わなかったのだろう。

与えられる情報と物資。

戦場を転々とする俺を待っていたのは、スコール1という――人類の希望という肩書の重さだった。

戦う度に死にかけた。

その度に「お前はスコール1ではない」と言われた気がした。

だから何だ、と銃を手に取り戦い続けた。

「無様だろうが勝って、勝ち続けて、俺は隊長の存在が地球軍にとってどれほど重要であったかを理解した。絶望的な局面、圧倒的な戦力差、それでも人類は戦い続けた。そこにスコール1という希望が戦っていたからだ」

隊長がいたからこそ、俺は戦い続けることができた。

だが、俺はスコール1ではない。

ただ一度の敗北が、作戦の失敗が、全てを露見させた。

「目が覚めた時は医務室だった。そこで俺は全てを語り『終わった』と思った。それと同時に俺の戦いが終わったとも感じていた。だが待っていたのは処分ではなく、成り代わりの継続命令だった」

たとえ君がスコール1でなくとも、今の君には「スコール1」として戦う責任と義務がある。

そう言われて俺は戦場へと戻った。

人類を騙した責任は取るべきだ、と俺も納得していた。

だが実力の差は如何ともし難い問題だった。

「幾度も死線を乗り越え、少しは隊長に近づけたと思っていたんだがな……」

映し出されるのは新種の敵に対して苦戦をする俺の姿。

巨大な四本腕の人型兵器が放つ弾幕を前に転げまわることしかできずにいたが、友軍の攻撃で標的が変わったことで体勢を立て直し、無事に撃破に成功する。

だが、友軍に死者が出た。

それを責める者は誰もいない。

こんな光景が何度も繰り返された。

「死んだのが隊長ではなく俺だったなら、と何度も思った。だが、何を思ったところで何も変わらない。俺は、戦うことしかできないただの兵士に過ぎなかった」

着実に地球軍が終わりの時を迎えようとしている。

それほどまでに状況が悪化しつつある時、たった一つの朗報が舞い込んだ。

「新兵器の登場と新たな作戦。テンペストとスコール……両チームによる合同作戦。作戦内容は至って単純。テンペストチームが敵を引き付け、俺が新兵器を敵の母艦に叩き込む」

ここにきて、俺は本当の意味で人類の希望を背負うことになり、コールサイン「スコール1」を正式に引き継いだ。

かつてのスコール1が愛用した戦闘バイクに跨り、俺は手薄になった敵陣の真っただ中を駆け抜けた。

壁に映るのは勝ち確定のムービーシーン。

ビルの残骸の壁を走り、敵すらも足場に変えて真っすぐに突き進む。

音速を優に超えるバイクの前面にはバリアが張られ、体に重くのしかかる重力を強化服で無理矢理克服する。

邪魔となる敵を撃破する。

すれ違いざまに両断する。

持ち出した全ての武器を使いこなし、障害を排除して猛進する。

巨大なムカデのような敵の背を駆け抜け、かつては俺を苦しめた巨大な新型すらも薙ぎ払い。

目標地点まであと僅かとなった時、母艦は三度あのレーザーの発射態勢に移行した。

だが、それこそが地球軍が待ち望んでいたものだった。

大型の戦闘バイクに取り付けられていた新兵器が標的を倒すべく展開する。

「対艦用大口径高出力レーザーブラスター――通称『グングニル』。地球軍が開発した神話の神が持つ槍の名を冠する決戦兵器は、敵母艦のシールドを突き破り、本体さえも貫通してみせた」

映像は溜めたエネルギーが誘爆を引き起こし、傾いて高度を落としていく敵母艦の姿を映していた。

「終わった」と誰もがそう思っていた。

この戦いに勝てたという喜びよりも、ようやく終わったという想いの方が強かった。

通信越しに誰もが喜びの声を上げているのが聞こえた。

(そう……通常ならば、ここで終わるんだ。だが、サバイバルモードはここからが本番なんだ)

敵の母艦が墜落し、勝利の喜びを噛みしめている地球軍だっだが、その歓喜の声は絶望へと変わった。

突如訪れた夜のような暗い影――空を見上げれば数えるのも馬鹿らしくなる敵の母艦。

それどころか、それ以上の大きさの船が、多数の母艦を従えやってきた。

今、ここにいる者の中に声を上げるものは誰もいない。

言葉にしなくても全員がわかっている。

これが絶望であることくらい、誰にでもわかる光景だった。

「なんということはない。敵が欲しているのは地球という惑星であって、そこに住む生命体などどうでもよかったんだ。だから適当に処理をしていた。だが、船を落とせるだけの力があれば話は別、ということだったのだろう」

太陽の光すら差し込めぬほどに空を埋め尽くす敵の物量。

そこから放たれた光は瞬く間に地上を焼き払い、映像はそこで途切れることになる。

「……もう、いいだろう」

それだけ言って俺は立ち上がると壁に映っていた光が乱れて消えた。

ノーマルモード、ハードモードは船を落とされたことで侵略者が諦める、で終わるのだが、サバイバルモードでは敵が本気を出して人類を潰しにかかる。

ここからのミッションはどれもラストバトルよりもさらに過酷なものとなり、味方が死んだり重要拠点を破壊されるごとに状況が悪化。

たとえミッションをクリアしたとしても、仲間を犠牲にしたり、守備目標を盾にしたりしていれば、それだけ次の条件が厳しくなる。

これをプレイヤーが死ぬか、味方と自軍拠点がなくなるまで続けるのがサバイバルモードである。

つまり「自分だけ生き残るような戦いをすれば即ゲームオーバー」という大変いやらしい仕様になっており、俺はこれの最長記録を狙っていた。

(おっと、立ち去る前にやることがあった)

俺は思い出したかのように記憶を呼び出す英霊セダルに向き直る。

「もう見ることができないと思っていた顔を見ることができた。感謝する」

そう言って彼に頭を下げるとセダルは「いーよ」と軽く返してきた。

俺は今度こそ立ち去ろうと出口へと向かうが、後ろから声をかけられる。

「スコール1」

顔だけ振り向くとマリケスが俺をじっと見ていた。

そこには先ほどまであった嘲りの色は微塵も見えない。

「訓練場で待っていろ」

俺は返事をすることなく部屋を出た。

おかしな点があった場合、それを指摘されるのを恐れてのことでもあるが、それ以上に今の自分が明らかにおかしいと思えるほどに感情がバグっている。

(苛立ち? いや、違う。それだけじゃなく、色んなものが混ざり合って気持ち悪い)

記憶を頼りに廊下を歩く、見上げた先にあるのは遥か先の天井という人工物。

外から見た時にわかっていたが、内側から見て改めてここが囲い込まれたアーコロジーであることを思い出す。

デペスという細菌のような敵から身を守るにはこうするしかないのだろう。

しかし、だ

「これでどうやって生存領域を広げるつもりだ?」

調べたわけではない。

だが、これまでのエデンの物資不足を鑑みるとできる気がしないのだ。

もしかしたら、このスコール1がいた地球と同じくらい、エデンという場所は詰んでいるのかもしれない。

スコール1が立ち去った後、続くエリッサの記憶を見る前にアリスがマリケスに詰め寄った。

「まだ何かするつもりですか?」

「ああ、安心しろ。用件の内容が変わった。これは避けて通れない問題だ」

決して悪いようにはしない、とマリケスはアリスに己の胸を二度叩く。

その仕草に見覚えのあるエリッサは首を傾げており、それに気づかなかったアリスはなおもマリケスを睨んでいる。

「あれだけのことを成し遂げておきながら、あいつは未だに自分のことを『兵士』だと言った」

呼び出すには十分な理由だ、とマリケスは怒気を強める。

ここでアリスは思い違いをしていたと悟る。

英霊として呼び出される者にはそれ相応の背景がある。

これは恐らくそれにまつわる話であり、彼にとっては決して引くことのできないものなのだと理解した。

だからアリスはただ頷き、彼の言葉を信じることに決めた。

だが、次の言葉は見逃せなかった。

「本来の目的に戻ろう。精霊の愛し子エリッサ・ティンバリー。俺は貴様を知っている」

「ティンバリーは私の部族の名前だね」とエリッサが頷き、マリケスが口にした名前と同一人物であることを認める。

アリスは確信した。

エリッサとマリケスは時代こそ違えど同じ世界から召喚されていることを――そして、彼がこれから発する言葉は、決して彼女に聞かせてはならないものであると。

アリスはマリケスの言葉を止めようとした。

だが、その前にマリケスはこの茶番を終わらせた。

「精霊を現世に顕現させ、帝国を滅ぼし、世界規模の天変地異を引き起こした張本人。『破滅の呼び手』――それが後世、貴様につけられた二つ名だ」