軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1-13

「あなたはもっとドライな人かと思っていました」

散々エリッサに付き合わされた後、ようやく訓練場から出ることができたところでアリスに声を掛けられた。

エリッサはというとそのまま訓練場に残っており、精霊の力をどうにかして使えないものかと試行錯誤するとのことである。

彼女自身の力で戦うことができるのであれば、それに越したことはないので俺は「まあ、頑張れ」とだけ言って出てきたわけだが……こうしてアリスに捕まっている。

てっきりサイドカーの件についての話かと思ったのだが、そうではないようだ。

「彼女に協力する理由は何ですか?」

どうも印象的に俺がエリッサの世話を焼くのが相当意外だったようで、その目的を探っているのだろう。

やましいことは何もないが、このキャラらしい方が良いだろうとそれっぽいことを口にする。

「子供のあいつは言ってしまえば新兵のようなものだ。ならば指導、教導の必要性は言うまでもない。それに……」

本来の力を振るえない、という共通点から「突き放す気になれなかった」と廊下を歩きながら語る。

実際問題、俺の武器の貸出が上手くいけば、単純に火力が増えるのである。

俺自身の評価もプラスとなるのでやってみる価値は十分あると言える。

当然その辺りは口に出さないが、エデンにとっても悪い話ではない。

戦力としか数えることができない英霊を戦場に出すことができるようになるのだ。

ただ信用問題もあってか、今の俺の発言を信じることができないのか、アリスがこちらを見る目は厳しい。

無言で廊下を歩く俺に付いてくるアリス。

「暇なのか?」と思ったが、それは口に出さず黙って歩いているとアリスが後ろから俺に問いかける。

「あなたが戦う理由は何ですか?」

その質問に考えるために立ち止まる。

(質問の意図はまあわかる。「スコール1」という人物像の修正。俺がここでやっていけるか、またはここにいるだけの価値があるかを測っているのだろう。しかし戦う理由か……スコール1が戦うことになった理由はゲーム内でしっかり語られているからそれを答えるべきか?)

だが物語が進むにつれてプレイヤーの分身である彼の戦う理由は大きく変わる。

戦う理由が守るためから侵略者への憎悪となった時、皮肉にもスコール1になり替わった彼はかつて自分が目指した「人類の希望」となっていた。

ここで俺はあることに気が付いた。

(もしかして俺はまだ新兵だった頃のスコール1だった?)

だとしたら俺は初手から間違えていたことになる。

クリア後も続くサバイバルモードの新記録チャレンジ中ではなく、ニューゲームの状態であったならば、戦闘を終えるごとに武器が解放されていくことにも納得がいく。

「答えてはくれませんか……」

黙って立ち尽くす俺の答えを拒否と捉えたのか、アリスの残念そうな声が聞こえてくる。

「……守るためだった」

俺は覚悟を決めてスコール1となったキャラを演じることを選択し、重々しく口を開く。

「家族を、友人を……地球を守る、なんて大それた名分ではなく、故郷くらいはついでに守ってやると、そう思っていたんだがな……」

プレイヤーに最初に与えられるコールサインは「ホープ3」だった。

志願して訓練課程を終えただけの新人に与えるには「希望」は少し大きすぎると思うのだが、あちら側の地球の事情を鑑みると仕方ない部分もある。

(まあ、ゲームの話なんでそれくらいは必要なんだろうけどな)

しかもチーム結成から信頼が出来つつあるタイミングで、チームメイトが全滅する絶望を味わうのだから皮肉が効いている。

その後、他のチームに移籍することはなく、数々の戦場を他の部隊が全滅する中で一人生存し続けた結果、スコールチームへと移り人類の希望の象徴となる。

絶望から一転する展開は中々熱いものはあるが、その後はただただ地獄が続くとか「開発に人の心はないのだろうか?」と散々言われていたことを思い出し苦笑する。

(あのチートキャラの隊長……スコール1が死亡からの部隊壊滅で一人生き残るんだから覚悟もガンギマリするわな)

思い出すのは死亡した隊長のドッグタグを引きちぎり、泣きながら自分のものと交換するムービーシーン。

人類の希望となった者たちをこれ以上失えば、地球軍は崩壊しかねないと判断した主人公は独断でスコール1になり替わることを決意する。

そしてそこからがまた地獄。

(ストーリーはいいんだよ。ストーリーは、な)

公式チートキャラになり替われ、という無茶振りである。

「ゲーム難易度狂ってんぞ」と修正が入ると見越していたプレイヤーのあてが外れて当時のSNSは阿鼻叫喚。

「地球軍VS宇宙人」の評価が割れたのも、ストーリーを重視するあまり難易度調整が上手くいかなかったことが、最も大きな要因だったと俺は思っている。

とまあ、色々と思い起こしてみたものの、現状これ以上話すことは何もない。

去り行くスコール1は背中で語る、とアリスを置いて自室に戻る。

この時の俺は「これでいい」ときちんとロールプレイができていたことにそこそこ満足していた。

問題があったとすれば、この会話を聞いていたのがアリス一人ではなかったことである。

結果、俺の人物像は修正不可となり、最後までロールプレイを続けなくてはならなくなった。

良いか悪いか、で言うならば悪い。

俺が「もうやりきるしかない」と悟るのはもう少し後の話となるが……「魔法」に何ができるのか?

それを俺はもっとよく考えるべきだったのは間違いない。

一人残されたアリスは先ほどの僅かな会話について考えていた。

「守るためだった、か……」

それはつまり「戦う理由が最早そうではない」と言っている。

(彼は自分を「兵士」だと言っていた)

守るために志願して兵士となり、戦いの中で戦う目的が変わった。

(だとすれば、彼が戦う目的など一つしかない)

復讐――敵に対する憎悪こそが彼の戦う理由。

ならば、ここで戦うだけの理由を彼は持ち得ない。

その当然の帰結に溜息が出る。

「お悩みのようね」

そんなアリスに声をかける人物が一人。

「レイメルさんですか……」

彼女の特性から話を聞かれていたことを察したアリスはさらに溜息を吐く。

すると「失礼ね」と盗み聞きしていたわけではないとレイメルはクスリと笑う。

「目が見えない分よく聞こえるの。仕方ないでしょう?」

しばしの沈黙。

アリスには彼女に聞きたいことはあるが、果たしてそれは聞くべきか否か?

僅かな逡巡はあれどアリスは尋ねることに決めた。

「彼の言葉に嘘は……」

「なかったわ」と言葉を遮って断言するレイメルだが、それが本当かどうかはアリスにはわからない。

信頼よりも真実を求めた結果だが、ここでもその問題は付きまとう。

それがわかっているからアリスは問うことを戸惑っていた。

当然その葛藤もレイメルはわかっている。

それ故に即答したのだ。

(嘘の反応はなかった。でも彼は見えない。それが何を意味するかはまだわかっていない)

気配を探ることはできるので、その存在を感知できないわけではない。

だがその情報を明かす理由はないと彼女は考えている。

レイメルもまた、エデンからは「戦力として不十分」と認識されており、既にその扱いに影響が出ていることを感じている。

それはこの場所に対して不信感を持つには十分な理由である。

それ故に、同じ境遇となるであろうスコール1とエリッサとは協力関係になることを考えていた。

だからこそのこの邂逅なのだが、当然それをアリスに話す理由もレイメルにはなかった。

同じ情報を得た二人は別々の結論を出す。

(彼の敵はここにいない。戦う理由のない英霊が辿る道は一つ。なら、そうなる前に……)

アリスは彼を送還するべきであると考える。

戦う理由を失った英霊は遠からず消え去る兆候が見られるようになる。

故にアリスはスコール1を手遅れになる前に帰すべきだと結論付けた。

(戦う理由など幾らでも作り出せる。人はそうやって争い続けてきたことは歴史が証明している)

レイメルは戦う理由がないならば、作ってしまえばよいと考える。

彼女にとって重要なのは彼が戦うことではなく、自分がこの世界にとどまること。

世界が一つにまとまれば戦争はなくなる――かつて親友が放ったこの言葉に彼女は今も囚われている。

祖国は戦争の勝者となり、彼女は何も変わらなかった世界を見届け生涯に幕を閉じた。

「あの戦いは何だったのか?」

何度も自問した言葉がレイメルの頭に蘇る。

結局、人は再び争いを始めた。

他でもない親友が戦争を始めたのだ。

「まだ人類はまとまっていない」と王は新たな敵を作り出した。

レイメルは理解する。

「人は敵がいなければまとまらない」

人が争う理由など幾らでも作り出せるのだと戦火の広がる世界を見て悟った。

そしてこの世界は一つの敵によってまとまっている。

ならばこの敵が、デペスがいなくなればどうなるのか?

あの日、自らの手を血に染めたことが正しかったのか?

彼女はそれが知りたかった。

だからこそ、この場所で戦力外となることは都合が悪く、同じ条件のエリッサがスコール1と接触して解決策を見出した時には出遅れたとも思った。

だがまだ手遅れではないと彼女は思う。

理由がなければ作ればいい。

(それに、彼でなくても構わない。彼である必要もない)

現状は最も都合が良いから、というだけの話である。

この世界に彼女が信じる神はいない。

それ以前に神の気配を感じていない。

レイメルはこのエデンで自分ができることを探したが、求められているのはデペスと戦うことだけだとわかった。

ならばやることは一つ、力を欲するだけである。

問題はその手段があまりに少なく現実的ではなかったことだ。

この世界を見届ける――それはきっと彼女が思うよりもずっと難しい。