軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

でも

「花祭りのお礼と言ってはなんですが、作ってみたんです。まだまだ下手ですけれど、受け取っていただけますか?」

「…………俺に?」

「はい。フィルの為に作ってきました」

刺繍が得意なジェイミーが作ったものなんかに比べれば、わたしの刺繍など子供が作ったようなレベルだ。それでも、前回よりは大分見られるようになったと思う。

フィリップ様はしばらく、戸惑うような表情を浮かべ、テーブルの上に置かれた栞を見つめていたけれど。

「好きだ」

「えっ?」

「好きすぎて死ぬかもしれない」

やがて突然、真剣な表情を浮かべ、そんなことを言った。

「本当に、それしか出てこないんだ」

そう言うとフィリップ様はそっと栞を手に取り、改めてそれをじっと見つめて。まるで子供みたいに笑った。

わたしといえば「好き」の連続攻撃と、彼の眩しすぎる笑顔に、心臓が痛いほど早くなっていくのを感じていた。

「とても綺麗な魚、だと思う」

「ありがとうございます。猫です」

先日釣りをしに行った時に見かけた、フィリップ様に似た猫をモチーフに作ってみたのだ。相変わらず伝わってはいないけれど、ミミズに比べれば大成長だろう。

「ヴィオラ、本当にありがとう。どう礼をしていいのかわからない。君は何を贈ったら喜んでくれるだろうか」

「これ自体が先日のお礼のつもりなので、いりませんよ」

「それでは割にあっていないと思う」

「あの、それはこちらのセリフです」

あれだけの花やアクセサリーとこんなもの、比べるまでもない。こんなにも喜んでくれるのは、世界中を探してもきっとフィリップ様くらいだ。

とにかく、喜んでくれてよかった。ほっとすると同時に、つい口元が緩んでしまうわたしに向かって、やっぱりフィリップ様は「かわいい」「好きだ」なんて言うのだ。

それに対して、ひどく真っ赤になっているであろうわたしは、こくりと小さく頷くことしかできなかった。

それから小一時間ほどお茶をした後、帰宅する前にほんの少しでいいからインコに会わせてくれないかとお願いした。

フィリップ様は困ったような様子を見せていたけど、本当に一瞬でいいと言えば最終的に頷いてくれて。既にヴィオちゃんはフィリップ様の部屋の中にいるらしく、彼にはドアの外で待っていてもらい、慌てて彼女の元へと歩み寄った。

一言だけ、お礼を言いたかった。彼女のお蔭で、わたしは重要なことに気が付けたのだから。

「ヴィオちゃん、さっきはごめんね」

「ヴィオラ、スキダ!」

「ふふ、ありがとう。ヴィオちゃんのお蔭で、助かったわ」

開口一番、そんなことを言うヴィオちゃんに思わず笑みがこぼれる。彼女自身に言われているわけではないのに、なんとなくそう返してしまう。とても可愛い。

そうして小さな頭を一撫ですると、改めてお礼を言い、わたしはすぐに背を向けて歩きだしたのだけれど。

「デモオレハ、キラワレテイルカラ」

「…………えっ?」

そんな言葉が、背中越しに聞こえてきて。心なしか悲しげなその声に、思わず足を止める。

けれどすぐにドア越しに、急かすようなフィリップ様の声が聞こえ、わたしは「今度はおやつをもってくるね」と彼女に声をかけると、足早に部屋を後にしたのだった。

◇◇◇

「え、本当に? フィリップがお前のことを好きだって、ようやく気が付いたんだ。なんで?」

少年のように瞳を輝かせ、そう尋ねてくるレックスと向かい合っているわたしは、切り分けたケーキを口に運んだ。今日は珍しく、レックスと二人で食事に来ている。

この人気店を随分前から予約していたお父様は、急に予定が入り行けなくなったらしく、たまたま我が家に来ていたレックスと二人で行っておいでと言われてしまったのだ。流石にレックス相手なら、フィリップ様も気にしないだろう。

そうしてヴィオちゃんの話をすれば、彼はもう耐えられないと、周りの客がドン引くくらい笑っていた。

「あー、フィリップが愛おしすぎて死にそう。女だったら俺があいつを幸せにしてやりたかった」

そんな馬鹿なことを言い、切れ長の目元にうっすら滲んだ涙を指で拭うと、レックスはふうと息を吐いて。ティーカップに口をつけると、わたしへと視線を戻した。

「それで、お前はどうなの?」

「わたし?」

「そ。フィリップのことどう思ってんの?」

「……わたし、は」

フィリップ様のことを、どう思っているか。それはわたし自身が聞きたいくらいだった。

彼のことは嫌いではない。苦手でもなくなってきた、けれど。実際のところ、戸惑いが大きすぎてよくわからない。

「好き好き言われているうちに、わたしも好きになっちゃった、とかないわけ?」

「……好き、ってどんな感じなんだろう」

「触れたいとか、触れられたいとか、キスしたいとか」

「あ、それなら違うと思う」

はっきりとそう言えば、彼はまた声をたてて笑った。

正直、フィリップ様に好きだと言われて嬉しくなかった訳ではない。ドキドキもしてしまう。けれどレックスの言うそれが好きだという感情なら、わたしはそこに至っていない。

「お前、それフィリップの前で言うなよ。死ぬから」

「う、うん」

「じゃあ今でも、婚約破棄したいと思ってる?」

「……そこまでは思ってない」

「へえ、それはそれは」

わたしのその言葉に、レックスは楽しそうに「ほお」とか「なるほど」なんて言い続けている。

「記憶喪失のフリ、続けてみなよ。結局、今までの態度の原因もわかってないんだろ? それに今お前の記憶が戻ったと言えば、フィリップは死ぬと思う。良くて引きこもり」

「えっ」

「俺も可愛いフィリップがそんなことになるのは嫌だな」

「よ、よくて引きこもり……」

「うん。だから騙されたと思って今のヴィオラのまま、今のフィリップを見てあげて欲しい」

きっと、レックスの言うことは正しいのだろう。やがてわたしが「分かった」と言えば、彼は満足そうに笑った。