軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

50

図星だったのだろうか。

アナベルは明らかに動揺しているように瞳を左右に動かしている。

(アナベル様はわたくしを治療したかった……なるほどですわね)

もし仮にヴィクトールの言う通りになっていたとしたら、まずシャルレーヌが毒で苦しむ。

隠れて参加していたアナベルが登場して、みんなの前でシャルレーヌを治療して助けた。

病弱なシャルレーヌを救った命の恩人となれば、シャルレーヌはアナベルを許さざるを得ないだろう。

むしろこの立場は一転して聖女として感謝されるはずだ。

それにシャルレーヌは病弱ということになっており、常に咳き込んでいた。

すこしの毒でも致命的だと思ったのかもしれない。

初めの朝食時に毒を恐れて食材にまったく手をつけなかったため死なない程度の毒にした。

死んで取り返しのつかないことになるのは困ると考えたのかもしれない。

けれど、シャルレーヌには弱い毒は効かなかった。

シャルレーヌが毒に慣れていることが予想外だったことだろう。

(アナベル様の魔法では人を生き返らせることはできませんものね)

つまりこの一件はアナベルの自作自演というわけだ。

協力者に名前を暴露されているあたり、随分と脇は甘いようだが。

ヴィクトールにこのことを指摘されるとは夢にも思いもしなかったはずだ。

二人の関係がどのくらいかは知らないが、彼女の本性を知っているからこそだろう。

泣き落としで流せればよかったが、そうはいかなかった。

「で、でも……陛下に一番相応しいのはわたくしだから」

「なぜ毒殺しようとしたと聞いてるんだ。彼女を失えば、サンドラクト国王はどう動く?」

「毒殺なんてとんでもない! わたくしはただ……それにもし毒でもわたくしは治すことができる特別な力を持っていますからっ」

「捕えろ」

「嫌……っ、いやよ……わたくしは絶対に認めない!」

涙を流すアナベルと目が合った。

騎士たちに捕らえられた彼女は体をよじり抜け出すと、ヴィクトールの元へ手を伸ばす。

「陛下を闇から救い出せるのは、わたくしの聖魔法しかありません!」

「……早く会場の外へ」

テネブルはアナベルに敵意をむき出しにしていた。

「わたくしが証拠を見せますわ! わたくしだって闇魔法に……っ」

アナベルはテネブルの触手を抱きしめるようにして影に触れた。

腕が半分ほどが飲み込まれただろうか。

──ドサリッ

アナベルの全身から力が抜けて床に倒れ込んでしまった。

影が彼女から引くと、目を開けたままピクリとも動かなくなってしまった。

ヴィクトールは今まで見たことがないほどに冷たい表情でアナベルを見下していた。

誰一人、一歩も動けない。それは彼と闇魔法に対する畏怖からだ。

テネブルに触れた瞬間、アナベルは人形のようになってしまったのだ。

このままでは死んでいるのか生きているのか、それすらもわからない。

皆が恐怖で震える中、シャルレーヌはゆったりとした口調で話し出す。

「あらあら、テネブルはわたくしを守ってくれるなんて、いい子ね」

シャルレーヌはテネブルを慈しむように撫でて擦り寄った。

当然のようにシャルレーヌがテネブルに触れることで、周囲はざわめいている。

「魔法を使える方が悪意を持って触れたら、この子の意思とは関係なくこうしてしまうのよね?」

「…………!」

「可哀想に……怖かったでしょう?」

テネブルを撫でると彼は甘えるようにしてシャルレーヌに絡みついた。

そのことで誤解は解けたようだ。

アナベルのように闇魔法に触れてみようとする挑戦者はいないようだが、シャルレーヌのおかげか会場の空気は少しだけ和らいだ。

アナベルは騎士たちによって運ばれていった。

意識はないがどうやら生きているらしい。

シャルレーヌの機転が利いた対応のおかげで必要以上に混乱することも、ヴィクトールに非難が集まることもなかった。

それからウェイターが騎士たちに挟まれて連れていかれた。

アナベルを信じたウェイターがあまりにも可哀想だったため、ヴィクトールに相談すると、いい答えが返ってきたため一安心していた時だった。

「お前は一体……」

「お前ではなく、シャルレーヌですわ」

「シャルレーヌ、今回は助かった」

「ウフフ、貸し一つですわよ?」

「…………わかっている」

ぽつりと呟くようなヴィクトールの言葉はシャルレーヌにしか届いていなかった。

彼女がいなくなり、パーティーは再開された。

ヴィクトールとダンスをしている時のことだ。

「なんとなくだがお前のことがわかってきた気がする」

「あら、もう惚れましたか?」

「どうだろうな」

ヴィクトールはシャルレーヌのことをわかったというが、こちらはまだまだ彼のことがよくわからない。

だが、それが心地いいのかもしれない。

「わたくしは大好きですわ」

「は…………?」

ヴィクトールの足が止まる。

シャルレーヌは彼の右肩の上らへんを見つつ微笑んだ。

「テネブルのことですわよ? ねぇ、テネブル」

テネブルは嬉しそうに触手による影を振っている。

「…………はぁ」

ヴィクトールのため息と共に足を進めていく。

「悪い女だな」

「あら、また悪女だと言いたいのですか?」

「そこまで言っていない。ただ今まで国がなくなった理由がわかっただけだ」

ヴィクトールの言葉にシャルレーヌはわざと足を踏んで答える。

(さて、次はどんなことが起こるのかしら……?)

会場の端、エマニュエルが腕を組んでこちらを睨みつける姿が一瞬だけ視界に映った。

end