作品タイトル不明
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今日は帝国貴族たちよりも魔法の恩恵をそこまで受けていない商人や資産家たちが集まっていると聞いていた。
ヴィクトールの隣で微笑みつつ、サポートしていく。
特に魔法を使えない人たちに歩み寄るのは簡単だった。
何故ならシャルレーヌも魔法が使えないからだ。
ヴィクトールを横目にシャルレーヌたちの苦労話は弾んでいく。
最初はシャルレーヌやサンドラクト王国に否定的だった人たちにも、すっかりと受け入れられていた気がした。
窓からは夕陽が望む。もうすぐで夜になるというところでシャルレーヌは咳き込んでしまう。
「……コホッ」
「大丈夫か……?」
「ありがとうございます。陛下」
心配するヴィクトールを見て、わざとらしく頬を赤らめてお礼をいうシャルレーヌに会場が騒めく。
ヴィクトールだけはシャルレーヌを冷めた瞳で見ていた。
ここで無碍にすることもできないのか、水を持ってくるように指示を出す。
わざとらしくフラリとよろめいてヴィクトールに寄りかかった。
腕に絡みつくようにして触れると、ますます彼の顔が険しくなっていく。
「ああ……心配してくださっているのですね」
「…………」
「さすが陛下ですわ。お優しいのですねぇ?」
この台詞から二人は仲睦まじいように見えるはずだ。
シャルレーヌがヴィクトールで遊んでいると、ウェイターがグラスを運んでくる。
彼の表情は暗く、グラスが載るシルバートレイがカタカタと揺れていた。
そのすぐ後ろの柱にはプラチナシルバーの髪がチラリと見えた。
(ああ、そういうことですのね……)
彼女によって何かが仕込まれている。直感でそう思った。
(ここで大人しくできていたら未来が変わったのに……お望み通り、ここに引きずり出してあげますわ)
彼女の思い通りになるように、ヴィクトールと同じ瞳の色の濃い紫色の液体を見つつ目を細めた。
彼は水を頼んだはずだと抗議するために口を開こうとするのを人差し指でそっと塞ぐ。
「陛下、ここはわたくしにお任せを」
「…………」
シャルレーヌは怪しく揺れる紫色の液体が入ったグラスを手に取り、口内に流し込む。
ゴクリと喉が動くと、柱の後ろで人影が動いた。
ヴィクトールは黙って見つめていたが、我慢できなかったテネブルがシャルレーヌの腕を引くように絡みついてグラスを取り上げた。
(あらあら、わたくしは大丈夫ですわ。テネブル、陛下の影へ)
テネブルに思いが伝わったのか、すぐに影に身を潜めた。
代わりにヴィクトールがグラスを手に取った。
そしてシャルレーヌは唇についた液体を舐め取る。
「んふふ……やっぱり毒ですわね」
「……毒、だと?」
ヴィクトールが目を見開く。
やっぱり、という台詞からシャルレーヌが毒だと理解しながらも飲んだと理解したのだろう。
「何故……」
「なんて甘ったるい毒なのかしら。このくらいでは指先が痺れる程度で、残念ながらわたくしは殺せはしませんわね」
「何を平然と言っているんだ……!」
「素人が用意したものかしら。それとも手加減を?」
毒が仕込まれた飲み物を飲んだシャルレーヌを心配してか、彼の表情には焦りが滲む。
会場は騒めいていた。
シャルレーヌの平然としている様子を見て、本当に毒なのかを疑う者もいた。
しかしすぐに毒かどうか魔法で調べることができる調査員が現れた。
会場に置かれている食べものはすべて彼のチェックを受けるそうだ。
調査員のおかげかすぐに毒だと判明した。
「すぐに医師を……っ」
「このくらいの毒、どうとでもありませんわ」
焦るヴィクトールを見てシャルレーヌは感心していた。
帝国民が仕込んだ毒でシャルレーヌが死んだとなれば、ナリニーユ帝国の立場が悪くなってしまう。
そのための演技なのかもしれない。
「……だが、体に障るぞ」
「あら、お話いたしましたわよね? 弟のグレゴリーは毒に詳しいと。よく飲み物に混ぜられて実験体にされたものですわ」
「…………」
「一般に出回っている毒は、わたくしには効きませんわ」
ヴィクトールは怪訝な顔をしたが、今はシャルレーヌの話をじっくりと聞いている場合ではないのだろう。
「このグラスを持ってきた奴を捕えろ」
するとすぐに騎士たちがやってきて、先ほど飲み物を運んできたウェイターを捕らえる。
彼は涙を流しながら会場に響く声で叫んだ。
「僕は何も知らないんです! 本当ですっ、妹の病気を治してほしければこれを黙って運べと言われて……!」
治すという言葉で、ある人物が思い浮かぶ。
「まさか、アナベルか……?」
「は、はい! そうです。アナベル様が……」
男性が何度も頷いて肯定する。
(ことごとく裏切られてしまうのね……)
やはり会場に潜んでいたのはアナベルだったようだ。
男性は彼女に指示を受けて、飲み物をシャルレーヌの元に運んでいたことが明かされた。
『アナベル様もここまで落ちたのか』
『やはり噂は本当だったんだな。こんなことをするなんて』
『女神のようなシャルレーヌ様になんてことを……』
アナベルに失望する声が次々、耳に届く。
ヴィクトールがアナベルを捕らえるように指示を出していた時だ。