軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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すると再び闇魔法がシャルレーヌにまとわりつくように影を寄せる。

まるで彼女を心配しているように見えた。

ヴィクトールは額を押さえつつ、ため息を吐いていた。

この様子を見るにこの一度だけではなく、こうなることは何度もあったのかもしれない。

黒く蠢く闇を見ていると背筋がゾッとする。

(よくあんな気色悪いものに触れるわね。わたくしだったら絶対に嫌よ……!)

ヴィクトールのことは端正な顔立ちから好ましく思っているが、この闇魔法だけはどうしても気持ち悪くて好きになれない。

シャルレーヌはまるで犬をかわいがるかのように闇魔法を撫でていた。

ヴィクトールの闇魔法についてはさまざまな噂があった。

すべてよくない噂だ。

別の生き物のように蠢いていることで、意思を持っており、幼いヴィクトールを守り助けていたことがあるそうだ。

だから彼の魔力に関係なく動き続けている。まるで自我があるかのようだ。

そしてもっとも恐ろしいのは触れれば闇に呑まれてしまうということ。

さらにはすべてを奪われて、最終的には消えてしまうという。

(なのにあんなにベタベタ触れて大丈夫なのかしら。闇魔法に接触したら、気が触れるという噂は嘘なの?)

今までそのことを証明したものはいない。

なぜならば闇魔法に触れたら意識が二度と戻らないといわれているからだ。

しかしシャルレーヌに気が触れた様子もなければ、何かを奪われているわけでもない。

(こうやって皇帝陛下にアピールするつもりなのね。なんてこざかしいのかしら……)

シャルレーヌはこうしてパーティーのパートナーに選ばれたのだ。

アナベルもこれからはヴィクトールへのアピール方法を変えていかなければならない。

彼女は間違いなく最弱の妃だ。

まさかシャルレーヌが一歩抜きん出ているとは思いもしなかった。

それも魔法が使えずに知識がないからだろう。

ヴィクトールは闇魔法のことを明かしていない。それが皆が彼を恐れる理由だろうか。

このままシャルレーヌの好きにはさせてはいけない。

そう思ったアナベルはすぐにー動き出す。

「皇帝陛下、わたくしを助けてくださいませっ!」

「…………」

「わたくしはシャルレーヌ様の病を治そうと提案しただけなのです。それなのに急にわたくしに攻撃してきたんですよ!? 怖かった……」

アナベルは顔を両手で覆い、小さく肩を揺らす。

声を漏らせばアナベルが恐怖で泣いていることが伝わるはずだ。

ヴィクトールの様子を見ることができないが、きっとシャルレーヌが治療を断ったことに驚いているに違いない。

(この国で積み上げてきたものが違うのよ……! わたくしが作った功績は揺るがないんだから)

ヴィクトールがシャルレーヌではなくアナベルの手を取ってくれると信じて疑わなかった。

「すべて聞いていた」

「は……?」

「テネブルを通じて聞こえていた。こう言えばわかるか?」

「テネ、ブル?」

アナベルは呆然としていた。

その名前は聞き覚えがある。エマニュエルの手紙に書いてあった男の名前だ。

「テネブルは……シャルレーヌ様の、密会相手ではないのですか?」

シャルレーヌはそれを聞いて、ヴィクトールと目を合わせている。

ヴィクトールは眉を寄せて、シャルレーヌはクスクスと笑いながら影の触手を撫でた。

「ふふっ、確かに密会相手ですわね」

「やっぱり! なんて不埒な……っ」

「テネブルはこの子ですわ。わたくしが名付けたのですよ」

「…………え? 嘘でしょう……?」

(テネブルが密会相手っていうのは嘘だったの?)

エマニュエルによればテネブルは密会している〝男〟だったはずだ。

しかし実際は人間ではなく、ヴィクトールの闇魔法だった。

アナベルはエマニュエルの意地悪な笑顔を思い出す。

(最悪……やられたわっ!)

エマニュエルはテネブルが闇魔法だということを知っていたのかどうか

はわからない。

(知っていようといまいと関係ない……きっとわたくしを貶めるために間違ってたって、この情報を伝えるはずだわ)

シャルレーヌの敗因はエマニュエルと協力関係ではなく敵対していることを忘れていたことだ。

テネブルはヴィクトールの闇魔法のこと。

もし本当に魔法が彼女に懐いていたとしたら、急にヴィクトールと親しくなったこの関係は頷ける。

そして『テネブルを通じて聞こえていた』と、いうことはヴィクトールはアナベルとシャルレーヌの会話を聞いていたことになる。

侍女たちもそのことを理解したのか顔は青ざめていき、現実から逃げるように俯いてしまった。

嘘をついていることまではわかっていないはずだと、そう思おうとしても冷や汗は止まらない。

何故ならヴィクトールが冷たい目でアナベルを見ているからだ。

「アナベル、お前の本心がよくわかった」

「…………え?」

「教皇には改めて話をさせてもらう。それから……」

その先はなんて言っているのかもう耳に入ってくることはなかった。

ただ自分が失敗してしまったのだということだけは理解できた。

(嘘……こんなの、嘘よ…………)

ヴィクトールは嘘をついた侍女たちにも何か言っているではないか。

彼女たちに牙を剥くように闇魔法が尖って攻撃的な形を作った。

侍女たちは恐怖から動けなくなっていた。

「お前は正妃には相応しくない」

「……ぁ」

その言葉を聞いたアナベルは膝から崩れ落ち、頭を押さえると気持ちをぶつけるように声を上げた。

* * *