軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42 アナベルside6

「サンドラクト王国では攻撃してきた相手とは命の駆け引きをいたしますの」

「……っ」

「どんな立場でも関係ありませんわ。強さがすべて……」

シャルレーヌから放たれる威圧感にアナベルは何も言えなくなった。

魔法を使うこともできず、病弱でこんなにもひ弱そうなのに、彼女に圧倒されて何も言葉を返せない。

アナベルは攻撃魔法をまったくといっていいほど使えない。

他の妃たちとは違って戦闘能力はほとんどなかった。

病を治せるだけで、他は何もできないのだ。

魔導具を頼るしか攻撃手段を持っていない。

侍女たちに助けてもらおうと振り向くと、恐怖からか震えて抱き合っているではないか。

「ですが、ここはナリニーユ帝国……残念ですわ」

つまりここがナリニーユ帝国でなければ、間違いなくアナベルたちはこの場で殺されていたといいたいのだろうか。

(な、なによ……! このわたくしを殺そうとするなんて信じられないっ)

今までそれで十分だと思っていた。

アナベルの力は特別なものだ。帝国が守るべき財産でもある。

それを害するものはこの帝国にはいない。

だけどシャルレーヌは関係ないとばかりにアナベルを攻撃しようとした。

先ほどの恐怖は薄れて、今は自分を守ろうと必死だった。

「こ、このことは陛下に報告していただきますから……!」

「あら、報告されて困るのはアナベル様の方ではなくて?」

「そんなわけ……」

「先にわたくしの頬を打ったのはあなたでしょう?」

「……っ!?」

「わたくしに非がありまして?」

シャルレーヌはほんのりと赤くなった頬を押さえる。

アナベルの唇が微かに動く。

このまま彼女にこのことを誰かに伝えられてしまえば、追い詰められるのは間違いなくアナベルの方だ。

アナベルは絶望して膝から崩れ落ちそうになっていた。

「アナベル様の侍女たちも見ておりましたよね?」

シャルレーヌの唇が綺麗に弧を描きつつ、侍女たちに問いかけると彼女たちの体がピクリと動く。

アナベルは引き攣った表情で侍女たちをじっと見てから、首を微かに横に振った。

それは無意識だったが、侍女たちは予想外のことを口にした。

「くっ、暗くてよく見えませんでした」

「私もですっ、アナベル様がそんなことするわけありませんもの……!」

「あなたたち……!」

二人の言葉を聞いて今度はアナベルの唇が弧を描いていく。

ここに〝シャルレーヌをビンタした〟という証人はいなくなった。

シャルレーヌの侍女や侍従、リリーが証言したところで何の証拠にもならない。

ナリニーユ帝国で信頼を勝ち取っているはシャルレーヌではなく、アナベルの方だからだ。

(この子たちはわたくしの味方なのよ……! つまりこの件は表沙汰にならないということね!)

一気に形成逆転。しかもシャルレーヌの不用意な一言で、だ。

「あなたたちに手を出されそうになって、わたくしが手を出した……確かそうですわよね?」

「え、えぇ……」

「はい、アナベル様のおっしゃる通りですわ」

侍女たちは後ろめたいのか視線を逸らしつつも頷いていた。

「まぁ……こんなに堂々と嘘をつくなんて恐ろしいですわね」

こんな状況でも余裕を崩さないシャルレーヌが不気味に思えた。

「陛下がこのことを知ったらどう思うのでしょうね」

「あははっ、何を勘違いなさってるの? あなたが皇帝陛下に愛される未来なんて絶対にないわ」

「ふふっ、そうでしょうね」

「それなのに報告するつもり? 無駄だと思いますけれど。だってここはナリニーユ帝国ですもの……!」

アナベルの声はだんだんと大きくなっていく。

帝国貴族を含めてアナベルの味方は多い。

それに前回の件でもう粗相をするわけにもいかない。

これ以上は教皇に怒られるどころか見放されてしまう。

『お前を押し上げるために、どれだけの金を使ったと思っている。ワシを失望させるなよ!』

シャルレーヌが現れるまで、失態など一度もなかった。

大丈夫だとわかっているのに、この胸騒ぎはなんだろうか。

「あらあら……」

口元を押さえながらシャルレーヌが笑っている。

追い詰められているのは彼女の方なのに、アナベルの焦りはどんどんと増していくような気がした。

「……っ、今のあなたにそれを証明する術はないでしょう!?」

「わたくしを先に叩いたとお認めになるのですか?」

「…………。随分と余裕なのね」

「お認めになるのですか、と聞いているのですが」

「だからっ、あなたにそれを証明することなんてできないでしょう!?」

感情的になりシャルレーヌに手を上げようとするアナベルを侍女たちが引き止めていた。

もう自分を抑えることができなかった。

「アナベル様はそうおっしゃっておりますけれど、どういたしましょうか……皇帝陛下」

まるで何かに問いかけるように暗闇の方を見るシャルレーヌ。

その名前を聞いて、一瞬だけぞわりとした背筋。

彼女の視線の先を凝視するものの、そこには何もない。

ただ暗闇があるだけだ。

「…………は?」