軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

②②

* * *

目を覚ますと心地よい冷たさは消えていた。

ただいつもよりもぐっすりと眠れたことだけは確かだ。

(あら……もう行ってしまわれたのね)

皇帝の前で爆睡してしまったが、それも仕方ないことだろう。

サイドテーブルには食事が置かれている。

どうやらルイかロイが作ってくれたようだ。

二人は暗闇の中、微動だにせずに立ち尽くしていた。

「あなたたちは?」

「もういただきました」

「十分です」

「……そう。それはよかったわ」

シャルレーヌは腕を伸ばしつつ、スープをスプーンですくう。

冷めきったスープを少しずつ飲み込んでいく。

「これだけは面倒なのよね……」

面倒な食事を終えると、窓から爪で引っ掻く音。

何枚にも重なった真っ黒な布を外すと、蝙蝠たちが羽をばたつかせているのが見えた。

シャルレーヌは慌てて窓を開けた。入り込んでくる夜風が冷たくて気持ちいい。

くるりと辺りを見回すと遠くには銀色の玉を咥えたカラスたちの姿が見えた。

シャルレーヌは彼らに手を振りつつ、お礼を伝える。

(こりないのねぇ……失態を取り戻そうと必死なのかしら)

どうやらエマニュエルが再び仕掛けているようだ。

魔力がなければ気づかれることはないと、そう思われているのだろう。

「ふふ、いい報告そうね」

慌てる蝙蝠たちを部屋に招き入れる。

部屋で話を聞いてみると、どうやらアナベルとエマニュエルの怒りがすさまじいそうだ。

(あらあら、皇帝陛下の前での失態が余程許せなかったのね)

それを煽ったのはシャルレーヌだが、元々は彼女たちから仕掛けてきたことだ。

「やるのならやられる覚悟を持たなければ、フェアじゃありませんもの……そう思わない?」

これから楽しそうだと思っていたが、妃の仕事など今のところほとんどない。

正妃にまったく興味はないが、彼の持つ闇魔法には興味津々だ。

(正妃が決まるまでは楽しめそうだわ。そろそろ動き出してもいいかしら)

シャルレーヌが期待していたことが次々と起こるとは知らずに、蝙蝠たちの頭を撫でていた。

(こればかりはお父様に感謝しないといけませんわね)

この同盟にはシャルレーヌが絡んだ約束事があるのかもしれない。

胸をときめかせながら蝙蝠と話し込んでいた。

数日後の朝──。

シャルレーヌはとにかく体を休めなければと暗い部屋にこもっていた。

連続で日光に晒された代償は大きい。

夜になれば蝙蝠とカラスから情報を収集して、再び眠りにつく。

蝙蝠たちは不満そうだったが、少しの辛抱だと説得していた。

ナリニーユ帝国のことを知るにはまだまだ時間が足りないと、そう思ったからだ。

(魔法、関係性……大体、把握してきたけれど情報量が多くて大変だわ)

聞けば聞くほどにシャルレーヌから笑顔が消えていく。

(わたくし、お父様が魔法を毛嫌いしている理由がわかりましたわ)

便利な魔法や魔導具を使うことで皆が堕落しているように見えたからだ。

己を鍛えることもなく、すべての作業に魔法が関わっていた。

恐らく火の付け方すら誰も知らないのだろう。

(魔法はとても便利だけれど、もし魔法が使えなくなればすぐに滅びそうですわね。なんて脆弱なのかしら)

サンドラクト王国では生活と自分を鍛えることに追われていて、とにかく時間がなかった。

かろうじて貴族もいるが、簡単に言えば強い順だ。

目の前の壁を越えなければ命すら危うい。

強い者こそすべてだった場所から、権力と魔法がすべての場所へ。

(ナリニーユ帝国からみれば、サンドラクト王国はさぞ滑稽なのでしょうね)

魔法やマナーを学ぶ以外は社交やお茶、パーティーと贅の限りを尽くして己の権力をアピールしている。

力より魔法。魔法が弱いものは役立たずだ。

(フェランお兄様のように頭を使って成り上がる方もいらっしゃるだろうけど……)

挨拶の際にやりすぎてしまったのか、ここ数日はアナベルもエマニュエルも大人しいままだ。

たまにナタリーがシャルレーヌの部屋の前に立っているとルイから報告を受けていた。

ロミとナタリーは黙ったまま見つめ合うだけ。

ベアトリスは建前上のお見舞いの品をロミに渡したそうだ。

そのカゴにはメモで注意書きのように、己の身の振り方を考えるようにと書き込まれていた。

優しさというよりはこれ以上引っ掻き回すのはやめてくれという牽制のようなものだろう。

(アナベル様もエマニュエル様もわたくしが動かないから接触できないだけなのでしょうけど)

あとは定期的に医師がやってきては『日の光を浴びましょう』『食事をきちんととりましょう』と促してくることくらいだ。

ヴィクトールとも顔を合わせていない。

動物と意思疎通できる魔法の力を持つモルガンは、小鳥やネズミを使役しようと頑張っている。

情報収集の大半を彼やカラスたちが担っていたのだろう。

だからこそヴィクトールも簡単には動けなくなってしまったというわけだ。

そしてもう一人の側近、オノレは筋トレをしつつ己の仕事をこなしていた。

彼を見ていると安心するのはサンドラクト王国出身だからだろうか。

今ならばモルガンが情報収集ができていない。

(つまり……動くなら今しかないということですわよねぇ?)

それにもうすぐ煩わしい診察の時間になってしまう。

(食事に日光浴を勧められるのはもうたくさんですわ)

シャルレーヌがため息を吐いて、今日は彼らにどう対策するのかを考えていた。

すると遠くから響く慌ただしい複数の足音。明らかに医師たちではなさそうだ。

(なんだか楽しそうなことが起こりそう……ウフフ)

シャルレーヌはわくわくしつつ、扉の外でロミが動き出そうとするのを合図を送って制する。

ルイも暗闇の中で頷いていた。