軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

102.友人の結婚式

「──綺麗よ。おめでとうサーシャ」

「ありがとうレーナ」

目の前にいるのは幸福に包まれている新婦。手にはブーケを両手で持っている。ブーケには薔薇はもちろんのこと芍薬や鈴蘭が使われ、白で纏められていた。

「挨拶に来たのは私が最後かしら」

「そうね。エリナ達はさっき来てくれたし、もうすぐ呼ばれるだろうから……」

そうアレクサンドラが言った次の瞬間、閉じられていた扉が軽くノックされた。

「──アレクサンドラお嬢様、そろそろお時間です」

「分かったわ。あー緊張してきた」

アレクサンドラは胸に手を当てて深呼吸をした。

今日は彼女にとって一生に一度の日。

これから向かう先には彼女の夫になるアルフレッドと式の参列者が待っているのだ。緊張しないはずがない。

「ねえ変なところないかしら? 顔は? ウェディングドレスは似合ってる?」

「大丈夫、とっても綺麗よ。今日の主役はサーシャなのだから胸を張ってね」

この日のためにいつもより肌の手入れを彼女がしていたのを知っている。甘いものが好きなはずなのに、制限して体重を落としたことも。

友人の頑張りを見てきたからこそ、お世辞ではなくて、本当に綺麗で、可愛いとエレーナは思った。

「じゃあ私は先に行くわね。堂々と入ってくるのよ? 改めておめでとうサーシャ」

ハグをしたらウェディングドレスが汚れてしまう可能性があるので、エレーナは握手に留めた。

廊下に出ると、一人の女性がアレクサンドラの方に歩いて来ていた。その後ろに子供が二人、女性の影に隠れている。

「エディスお姉様! それにデリクとローズ」

エレーナを見送ろうと扉から顔を出したアレクサンドラ。こちらに来る人たちが誰なのか知って名前を呼んだ。すると隠れていた子供達が彼女に駆け寄ってきた。

女の子の方は新婦と同じ純白の装いで、頭には花冠、手には花びらの入った籐のバスケット。男の子の方は黒のタキシードを着ている。

「アレクサンドラおばさま結婚おめでとう」

「ありがとうローズ」

言いながらアレクサンドラは姪のローズの頭を優しく撫でる。その様子を見たエレーナは、邪魔しないようにそっと場を離れた。

そのままエリナ達と合流し、座席に座る。

「いよいよね。なんだか色んなことがあったわ」

エレーナは新郎のアルフレッドがソワソワとしているのを見ながら呟いた。

「色々ありすぎよ。まさかギャロット一族が皆、あのようなことをしていたなんて……」

声を潜め、隣に座っていたエリナは言う。嫌悪感からかその口調は少し刺々しい。

主犯の辺境伯とその家族以外のギャロット一族に対しては公開裁判が開かれた。と言っても傍聴できたのは貴族だけで、民には彼らの罪も、何故領主が交代したのかも明かされなかった。

エレーナは参加していないが、他の人から聞いた話によると見苦しいものだったらしい。

「私は眠らされただけで済んだけれど、貴女は怪我まで負ったわ。友人が危険にさらされて許せるわけない」

そう言ってエリナはエレーナの右手を取り、少しの間ぎゅっと両手で握られた。

(結局会えていないけれど、リリアンネ様は今頃何をしているのかしら……)

人身売買に対する求刑は軽くて牢屋行き。重くて死罪。リチャード殿下にはぐらかされたが、エレーナはリリアンネが牢屋にいると思っていた。

一部例外を除いて、囚人に会うことは手続きを踏めば制度上可能。リリアンネの口から攫った理由を聞きたかったエレーナは申請した。しかし許可が下りなかった。

そうなるとコネがないエレーナが彼女と会うことなど不可能で、知りたかったことは分からなかった。

ほどなくして周りから拍手の音が聞こえてきた。その音で我に返ったエレーナは、花嫁を迎えるために手を叩いた。

◇◇◇

式は滞りなく終わり、カランド公爵邸に場所を移して披露宴となる。本来ならば嫁ぎ先の邸宅で行うものだが、アレクサンドラによると彼女の父が譲らなかったらしい。

公爵令嬢の結婚ということで、披露宴はとても豪華で参加者も多かった。少し周りを見渡しても、男爵から自分と同じ公爵家の人々までワイン片手に談笑している。

今宵の主役のアレクサンドラとアルフレッドは、披露宴終盤に差し掛かった今も、絶えず挨拶に来る貴族達の相手をしていた。

「レーナ、はぐれてしまうわよ」

「え? あ、ごめんなさい」

気が付けば一緒にいたはずのエリナが奥の方で呼んでいた。慌てて人の間を縫って彼女の方に移動する。

サリアとイヴォナは幼い子供がいるので披露宴の途中で先に帰っていた。そのため今はエリナしかいない。彼女の夫のギルベルトはつい先程慌てた様子で会場の外へ行ってしまった。

「今日はほんとうにぼーっとしているわね。熱でもあるの? それとも眠い?」

「そういう訳じゃないわ。ただ、サーシャが結婚かぁって」

(もう1ヶ月経ったのか)

しみじみとしてしまうのだ。

「ふーん、ならいいけど。レーナは自分のことを心配しなさいよね」

「どうして?」

意味がわからず小首を傾げれば、エリナの眉間に少し皺がよる。

「あんなに婚約するー! って言っていたのに、あれから何もないじゃない」

「それは……その、色々と────」

エレーナの言葉は乱入者によって遮られた。

「エレーナ・ルイス公爵令嬢ちょっとよろしいですか!」

見ればお酒に酔っているのか、足がふらついている。

「なに……か?」

「──貴女のことが好きですっ! 婚約してください!」

子息はエレーナの手を取って跪いた。

大声だったのが悪く働き、周りの者が驚きつつこちらに振り向く。突然すぎてエレーナは状況が把握できない。

「酔いの戯言ですよね? ほら立ち上がってくださいまし」

顔が真っ赤だ。正常な判断ができていないように見受けられた。

「いえ! 酒に酔っても酔わなくても私は本気ですっ!」

手を離してくれない。冷やかすつもりなのか、口笛を吹いて囃し立てる者もいた。