軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

★13

シャンティはギルフォードとは初対面だと思っていたけれど、実はそうではない。

過去にこの二人は、ほんの僅かな時間を過ごしたことがある。しかも2度。

ただ2度目の時、ギルフォードは自分の弱さからシャンティの涙を拭うことができなかった。

それを今でも悔いている。だからギルフォードは今度こそシャンティに手を差し伸べたかった。

実のところ、ギルフォードはエリアスからシャンティが花婿に逃げられたと聞いた時、偽装結婚をするつもりなんてなかった。

でも、確かに衝動的に立ち上がった。そしてエリアスに発破を掛けられて行動したのは事実。だけれどギルフォードは、ただシャンティを花婿に逃げられた憐れな花嫁にしたくないとしか思ってなかった。

そして向かう馬車のなかで必死に考えた。

なにせ急な事。これが前日なら、どんな手を使ってでもシャンティの花婿を探し、式に引きずり出していた。

が、さすがに少佐の地位を使っても、そんな時間はなかった。

ギルフォードがシャンティの逃げた花婿役をするという案もあった。

けれどギルフォードは無駄に高位な軍人の為、面が割れている。それは得策ではない。いやはっきり言って愚策である。

だから一先ず、花婿は火急の仕事で延期というシナリオを考えた。

そして、それを伝えようと、ギルフォードはエリアスと共に、シャンティの元へ向かった。

そんなわけで教会の控え室でのいざこざは、多少驚いたけれど些細なこと。ただ、シャンティがその場にいなかったのが誤算だった。

後のことをエリアスに任せ、ギルフォードはシャンティを探した。そして見つけた。その後ろ姿は、かつて自分が見捨ててしまった時と同じように見えた。

それを見た瞬間ギルフォードは───シャンティを捕獲することに決めた。

説明を端折ってしまったため、ここで「は?」と思うものがいるだろう。

まったくもって意味がわからないと首をひねるものもいるだろうし、思わず「あ゛?」と声に出したものもいるだろう。

もちろん説明を加えるけれど、その前に、大前提としてギルフォードは軍人である。常日頃からそうであるように、咄嗟の時には特にそうなる。

そして軍人は逆境や理不尽なことに襲われた際、こう教えられる。「 理(ことわり) 」を見い出せと。

理とは物事の道筋や辻褄。

そしてどんな不平等な状況だろうと、自身でそれを見い出す力をつけ「全身への意欲」を失わないよう訓練を受ける。

けれど、なんの非も無いシャンティの場合、理を見出したところでどうなる。さらに苦境に落とされるだけだ。

ならその場合はどうするか。

もちろんギルフォードは、上位の軍人だ。その対処も心得ている。それは───その思考ごと奪ってしまうこと。

何がいけなかったんだろう。

どこがいけなかったんだろう。

何か失礼なことをしてしまったのでは。

そんな無意味な思考を持たせないために、ギルフォードはシャンティを 拐(さら) った。

わざと非道な軍人を演じて恐喝し、怒らせ、怯えさえ、シャンティにこの件で悩む時間すら与えないようにしたのだ。

だからギルフォードは行動に移す前に、一旦、親族の控室に戻りモニータにこう願い出た。

『あなたがたの大切なお孫さんを哀れな花嫁にはさせません。ですから少しの時間、彼女を自分に託してください』と。

その短い説明で何かを感じ取ったモニータは、夫には事後報告で許可を出した。

───……というわけで、シャンティは保護者の許可を得てから誘拐をされたのでギルフォードは犯罪者ではない。

ただ許可なくシャンティの唇を奪ったことは揺るぎない事実なので、限りなく黒に違いグレー判定となる。

まぁ、よくよく考えれば、ギルフォードとシャンティの祖父は立場は違えど、同じ職場で働く人間同士。僅かながら繋がりもある。

だから同僚の人間の孫娘にたいして、あそこまで横暴な態度を取ったのには、そういう理由があってのこと。

ただこれが最善の策だったとはギルフォードは思っていない。けれど短い時間の中で、これ以上の策を思いつかなかったのも事実だった。

一つ言えるのは、この一連の間はシャンティは一度も惨めな思いはしてなかったということ。

惨めな気持ちは、人間が持つ感情の中で一番辛いもの。自分自身を哀れに思うことだから。

他人にどれだけ同情されても、可哀そうだと思われても、自分が違うと否定できれば、いつかは立ち直ることができる。

けれど、惨めな気持ちは心を弱くさせる。這い上がることすらできなくなる。

だからギルフォードはそんな気持ちをシャンティに持たせたくなかった。

ただ、脅しに脅し、魂を半分持って行かれたようなシャンティを見て、とても後悔している。

そして、きっと二度と顔などみたくないと思うほど恨まれていることも自覚している。

そんなある意味、損な役回りをしたギルフォードはこう思っていた。

自分が悪者になれたのは本望だと。

───ということをギルフォードは包み隠さず、モニータに告げた。この後、この全てをシャンティにも伝えるとも約束した。

そうすればモニータは、しばらくギルフォードの言葉の真意を探るように見つめていた。けれど、おもむろに口を開いた。

「つまり、あなたはシャンティが好きってことなのかしら?」

「はい」

ギルフォードは澱みなく返事をした。そしてすぐに言葉を続ける。

「ただ私はシャンディアナ嬢にそれを告げるつもりはありません。私のようないつ死ぬかわからない軍人ではなく、他の誰かと幸せになって欲しいと思ってます。式ではあのようなことをしてしまいましたが......」

その言葉通り、もともとギルフォードには結婚願望はなかった。一生独身で過ごすものだと思っていた。

ギルフォードは軍人だ。

少佐という高位の役職に就いてはいるけれど、それは身の安全を保障するものではない。有事の際には前線で指揮を取り、兵士と共に戦う身だ。いつ死んでもおかしくはない。

だからこそ一生独身を貫こうと思っていた。自分のせいで誰かが喪に服すのを見たくはない。それが大切な人なら、なおさら。

ま、死んでしまったら、既にギルフォードは棺桶か土に埋められているので、大切な人が喪に服す姿など見ることはできないが。

というへ理屈は置いておいて、ギルフォードは極力人との関りを避けてきた。

そんな中、あからさまに金と権力だけを愛する女性から求婚を受けた。

いわゆる逆プロポーズを。そして自分が死んでも財産さえあれば幸せに暮らすだろうと、思ったのではなく露骨に言われたので、結婚を承諾した。だけれども、なぜか相手は逃げた。

逃げた理由を、追い求めるほどギルフォードは、その相手に執着はしていない。

そんな相手だから、結婚してもきっと面倒くさいと思っただろう。

そして実際、その相手に逃げられても、やっぱり面倒くさいと思った。

結婚に関して思うことは、その程度だった。

でも、ギルフォードはシャンティに幸せになって欲しかった。

けれど、軍人である自分では相応しい相手ではないとも思っている。

だから、偽装の結婚式を挙げたけれど、ギルフォードの結婚誓約書は白紙のままだった。