軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8

御者の手によって、馬車の扉が開く。

そしてシャンティは薬を飲んでいないのにも関わらず、ギルフォードに横抱きにされて馬車を降りる。そしてそっと地面に降ろされた。

ギルフォードはシャンティがふらついていないのを確認すると、おもむろに膝を付く。そしてだらりと下がっているシャンティの手を取った。

「それでは私は一足先に祭壇で君を待つことにしよう。可愛らしい花嫁さん、どうか早く私の元に来ておくれ」

そんなド気障な台詞を吐いてギルフォードは、シャンティの指先に口づけを落とすと颯爽と消えてしまった。

「ではシャンディアナ嬢、花嫁の控室にご案内させていただきます」

呆然とするシャンティに、執事のドミールは穏やかな笑みを浮かべて進行方向を手のひらで指示した。

けれど、その目は穏やかさとは真逆のもの。逃げるなよと、しっかりはっきりと書いてある。

シャンティとてあんなヤバイ薬を見せつけられた後なのだ。今更、逃げるつもりはない。命は誰だって惜しいもの。

だけれど、シャンティは命知らずな質問を、この執事にぶっこんでみる。

「あの……ギルフォードさんの花嫁さんが逃げ出したのは、彼の浮気が原因で?」

馬車の中での手品師のような百面相に、今しがたの歯の浮くような甘い台詞。

シャンティは平民だけれど、裕福な家庭で育った。だから成人してからは、異性との交流は貴族令嬢なみに少ない。そして、王都に来てからは異性と触れ合ったのは、夫になるはずだったアルフォンスだけ。

そして知り合った異性の中で、ギルフォードはダントツに女性慣れしていた。

だから、確固たる理由を持って疑問を口にしたのだけれど、ドミールはなぜか遠い目をした。

「そのような浮名を流すような主人でしたら、わたくしもどれだけ良かったか……」

「はぁ」

「長年仕えている主人が男色だという噂を耳にするのは執事として辛いです」

「……」

けっ、どうだかね。

そんなことをシャンティはうっかり心の中で呟いてみる。でもそれはしっかり顔に出ていたようで、ドミールの表情は僅かに険しくなった。

「ちなみにギルフォードさまのお相手さまは、堅物軍人より華やかな貴族の方がお好きだったようでございます」

これで満足いただけましたか?と言わんばかりのドミールに対し、シャンティアは返す言葉が見つからず乾いた笑いを上げることしかできなかった。

さて、そんなこんなで花嫁代理を請け負うことになったシャンティだけれど、やっぱり不安はある。

というか、絶対に代理結婚なんて無謀だと思っている。

そもそも結婚式というのは当事者だけの繋がりではない。家同士の結びつきでもある。親族友人一同という名の参列者だっている。

それらをどう誤魔化すというのだろうか。

まさか参列者全員に向け、あの水色の液体を使うのではなかろうか。

いやいや、さすがにそれは犯罪だ。いや待て、あの軍人はもう恐喝と誘拐をしている。なら、もう100個の罪を犯したって良いや的なノリなのだろうか。

でも……結婚式当日に窃盗犯を捕まえて正義感の塊のような台詞をのたまった人間がそんなことを思うだろうか。

ということをシャンティはつらつらと考えながら歩く。歩く。

そして歩きつつ、きょろきょろ辺りを見渡してしまう。なにせここは祖父が働く軍事施設。そして場所は違えど、父も軍事施設で働いていた。

シャンティは子供の頃から軍事施設に興味はあった。けれど、ずっと野獣の巣窟だと言われ、 保護者(父や祖父) が同伴でも入館を許されなかった。

だから念願叶って、施設に足を踏み入れた事実は嬉し……くはない。こんな展開で、祖父の職場見学をしたって心は浮き立つわけがない。

結局のところテンションがだだ下がりしたシャンティだったけれど、それでも歩く。歩かされる。

軍事施設は併設させている教会で式があろうとも、その他大勢が働くところ。だから、花嫁姿を見てぎょっとする。そして不躾な視線を頂戴する。とてもいたたまれない。

けれど前を歩くドミールはそんなことはお構いなしに歩き続ける。時折懐から時計を取り出して見ているので、急いでいるのは一目瞭然だった。

もちろんシャンティも、必要以上に軍人とすれ違いたくはないので、視線を下に固定して黙々と足を交互に動かすことにする。

そして数回角を曲がり、渡り廊下を歩き、廊下が石畳から絨毯敷きになったところで、ドミールはぴたりと足を止めた。

「ではこちらにお入りください。頃合いを見て、お迎えに上がります」

扉を開けたドミールに促され、シャンティは入室する。けれどその足は1歩で止まった。

なぜなら、既に男女2名の先客がいたから。

しかもそこそこ着飾った2人は、這いずり状態でこちらに向かってくる。恐ろしいことこの上ない。

え?ちょっと待ってどちら様?そんなことを思ったけれど、ドミールはその説明を省いて看守のように扉を閉めてしまった。しかもその後、カチャリと音がする。

か、鍵を締めやがった?!

途端に嫌な汗が流れるシャンティだったけれど、先客はどんどん距離を詰めてくる。

そしてシャンティのすぐ足元に来ると、2人同時にヘタリと額を床につけながらこう言った。

「見ず知らずの花嫁さまっ、この度はわたくし共の命を救っていただき、ありがとうございますっ」

男のその言葉で、シャンティは大体の事情を把握した。

あと、この2人がギルフォードの本来の花嫁の両親だということも。