軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

出会ってはならない人物の名前。

アシュトン家が朝食をとる時間より僅かに早い頃、男爵の使いである騎士たちがアシュトン家の庭に足を運んだ。

当然、当主のロイは急な訪問に戸惑っていた。

その姿を見て、騎士たちを率いていた老騎士が一歩前に進んで口を開く。

彼らを迎えるべく急いで帰宅したレンは、緊張で手を握り締めた。

「急な訪問で失礼した」

開口一番謝罪したその男は、燕尾服が似合いそうな品のいい老騎士だった。

「と、とんでもない……ッ! だが、どうして俺の――――私の村に?」

「もちろん説明するとも。だがその前に、これを受け取ってもらいたい」

老騎士はそう言って甲冑の中に手を差し込み、一枚の羊皮紙を取り出した。

「ここより南方の村にて、少々面倒な魔物による被害が発生した。詳細はその羊皮紙に書いてある通りだ」

ロイは受け取った羊皮紙に目を通す。

すると間もなく、ロイの表情が険しいものへ変わっていった。

「この辺りに Dランクの魔物(、、、、、、、) ……間違いないのですか?」

「疑うのも無理はない。確かこの辺りは通常、Fランクまでしか出現しなかったはず。だが、間違いない。我らも周辺に赴き被害状況を確認しているのだ」

「っ……そんな……」

「だが安心してほしい。ご当主様の計らいにより、近隣の村々へと騎士が派遣される。この村にも来る手はずとなっているから、しばし警戒に勤めて貰いたい」

「それは助かりますッ! で、ですが、しばしと言うのはどのくらいなのですか?」

「派遣は既にはじまっているが、それでも今日より二十日はほしい。ご当主様もご尽力なさっておいでだが、派遣する地域が多く、人選も含め普段より時間が掛かってしまうのだ。特にこの村はご当主様のお屋敷から遠く、すぐに――――とは言えんのだ」

老騎士は言い辛そうに、申し訳なさそうに口にした。

ロイはと言えば、険しい表情を浮かべながらも、騎士が派遣されることに希望を見出しているように見える。

「わかりました。では、今日より二十日間はいつもより入念に森を見て回ります」

「すまんな。だが無理はしないでくれ。この村はロイ殿の他に戦える者が居ないと聞く。ロイ殿が怪我をしてしまっては、元も子もない」

「いえ。いざとなれば私の子も戦えましょう」

誇らしげな顔を浮かべたロイが近くで話を聞いていたレンを手招いた。

彼の傍でレンの手を握っていたミレイユはそれを受け、ロイの傍に行くように言う。

「む……その子が戦えると?」

「はい。さぁレン。騎士団長様にご挨拶を」

(こ、この人って騎士団長だったのか……)

いわば男爵の下に居る騎士の中で最も位の高い騎士だ。

まさかそんな大物とはつゆ知らず、レンは咳払いをして佇まいを正す。

「レン・アシュトンと申します。我らの村のため、騎士様を派遣していただけるとのことで、感謝に堪えません」

貴族が使う口調なんてレンにはできない。

だから彼は、できる限り丁寧な言葉を口にしたのちに騎士団長へ頭を下げた。

レンの言葉を聞いた騎士団長は「ほう」と感嘆の声を漏らす。

「丁寧な挨拶痛み入る。私はヴァイスだ」

ヴァイスはそう言うと、レンの前でしゃがんで視線の高さを合わせる。

「君は何歳かな?」

「今年の春で七歳になりました」

「ほう、それにしては理知的な子だ」

レンが褒められてロイとミレイユは上機嫌だった。

二人は笑顔を浮かべてレンの様子を見守った。

「しかし……」

だがそこへ、ヴァイスは不可解そうな目をロイに向けた。

「ご自慢の嫡男であることは承知したが、まだ七歳の子供が魔物を討伐するのは厳しかろう」

「大丈夫です! レンは私が十歳の頃と比べてもずっと強く、剣の扱いに長けております! だから仮に私が刺し違えても、レンがこの村を守ってくれるかと!」

「ほう……それほどか」

「ええ! しかもスキルも持ってますので!」

「なんと、更にスキル持ちだとは驚いた」

(少し恥ずかしくなってきた……)

褒められるのは良いが、こうもつづくと気恥ずかしい。

レンはこの話がそろそろ終わることを祈った。

すると、その祈りが通じたのか、ヴァイスは立ち上がってロイに言う。

「跡継ぎが頼もしいことはよいことだ。――――さて、話は変わるが、我らを一日だけこの村で休ませていただけないだろうか。もう何日も村々を巡ったせいか、部下も馬も疲れがたまっているのだ」

「もちろんです。粗末な屋敷ですが、歓迎しましょう」

「粗末などとんでもない。ではすまないが、一晩だけ世話になろう」

ヴァイスはそう言うと、部下の騎士たちに指示を出す。

馬を休ませる厩舎なんてものはないから、庭の片隅にある木々に馬を繋がせていた。

――――それから、アシュトン家の三人は客室を掃除することに奔放したり、朝食を用意するべく忙しなく動いた。

騎士団長は構わないと言ったが、ロイとミレイユがそうもいかないと力を入れたのだ。

ロイはそれらの作業が落ち着いたところで、いつものように剣を担いで屋敷の外に出る。その姿を見たレンは見送るべく、ロイと同じように外に出た。

「父さん、森に行くんですか?」

「ああ。そろそろ行かないと遅くなるからな。……レンなら大丈夫だと思うが、皆様に失礼のないようにするんだぞ」

「わかってます。父さんも気を付けてくださいね。――――あ、そうだ!」

「ん? なんだ?」

「ヴァイス様と一緒にいらした方たちも騎士だって聞きました。なのにどうして父さんに敬語を使ってたんですか?」

「同じ騎士でも、アシュトン家は村を預かる身だからな。こちらの立場が上って話だ」

「おおー……なるほど」

「それじゃ、俺は今度こそ行ってくるぞ!」

いつもと違って慌ただしい朝だったが、森に向かうロイの姿はいつも通りだった。

すると、ロイの姿が見えなくなったところで、屋敷の扉が開かれる。

扉から出てきたヴァイスがレンに話しかける。

「おや? 君のお父君はどこに行かれたのだ?」

「森ですよ。父は毎日、魔物を討伐するために朝から森に行きますから」

「む……それならば、我らの部下も……」

「いえ、父もそれには及ばないと言っていました。皆さんはずっと近隣の村々を巡っていらっしゃったとのことですから、是非休んでいてほしい、と」

レンはロイが掃除中に口にしていた言葉を思い出して言った。

「ではお言葉に甘えよう。――――それにしても、君は本当に丁寧な言葉を口にする子だな」

興味深そうに言った騎士団長がレンの傍に近寄り、隣に立ってレンのことを見下ろした。騎士団長はすぐに膝を折り、レンと目線を近づける。

騎士団長の表情は優しげで、穏やかだ。

「私の周りにも騎士の子は多くいるが、君のような子ははじめて見る。お嬢様と話しているような気分になるほどだ」

「お嬢様……男爵様のご令嬢ですか?」

「ああ。お嬢様は八月に生まれたお方でな。もうすぐ君と同じ七歳になるぞ」

騎士団長に話を合わせていたレンだったが、実のところ、あまり興味がない話題だった。

どうせ会うこともない令嬢だ。特に気にならない。

――――けれど、そんなレンもすぐに興味を抱くことになる。

「お嬢様は『白の聖女』というスキルを持って生まれたのだ。いずれは帝国中にその名を轟かせるだろう」

(…………ん?)

いま、この男は何と言った。

確かに『白の聖女』というスキルを持っていると口にしたはずだ。

(待て待て待て! どうなってるんだ……!?)

そのスキルは間違いなく、七英雄の伝説IIでレン・アシュトンが命を奪った聖女の力だ。

聖女の名は――――。

「リ……リシア・クラウゼル……ッ!?」

レンは思わずその名を口にした。

それを聞き、ヴァイスは眉をひそめながら苦笑する。